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138.初めての野営
一番最初に見張り番をする俺たち以外がテントに戻ってしまうと、野営地は一気に静かになった。
「アキト、こっちに座ると良い」
小声でそう言うと、ウォルターさんは小さく手招きをしてくれた。頷きを返していそいそと近づいていくと、俺は勧められた切り株にそっと腰を下ろす。焚火を挟んだ向かい側に、ウォルターさんもどさりと腰を下ろした。
「そんなに緊張しなくて良いからな。魔物が来たら叫べば良いだけだ」
俺の緊張を感じ取ったのか、ウォルターさんはそう言うと明るい笑みを見せた。
「ありがとうございます」
「おう」
起きてさえいれば何をしてても良いと言ってくれたけど、これだけ暗いと本を読むこともできないよな。かと言って時間つぶしのために、この世界に来た時から鞄に入れっぱなしのスマホを起動するわけにもいかない。近くのテントではチームの皆が寝てるんだから、小声とはいえこのまま会話を続けるわけにもいかない。
さてどうしようと俺は途方にくれた。
「ちなみに俺は今から盾の手入れをするぞ。それが日課でな」
ウォルターさんの時間つぶしの方法を教えてもらったけど、魔法をちょっと使っただけの俺には手入れできそうな物も特にないんだよな。これは完全に詰んだな。
盾の手入れを始めたウォルターさんからそっと視線を外せば、自然と夜の森に目が行った。初めて見る夜の森は暗いという言葉では表現しきれない。暗闇がどんどん迫ってくる感じだ。
虫の鳴き声や、夜行性の何かが草を揺らしながら移動している音が、はっきりと聞こえてくる。想像を遥かに超えた夜の森の不気味さに、じわじわと恐怖心が湧いてくる。
「アキト、ちょっと周りの探索をしてくるね」
あまりに俺がビビッていたからか、ハルはそう言うと止める間も無く出ていってしまった。探索をしてくれるのはすごく嬉しいんだけど、今は隣にいて欲しかったな。隣にハルがいないってだけで、余計に心細さがひどくなった気がする。
「アキト、飲み物いるか?」
声を掛けられた俺は、びくっと肩を揺らしてしまった。ウォルターさんは木製のコップを二つ持ってこっちを見つめていた。
「欲しいです」
「よし」
「あ、ありがとうございます」
受け取ったコップに入っていたのは、ルセフさん特製のあの果実水だ。すっきりとした後味が美味しくて、少しだけ気分が上がってくる。
「美味しい」
「それは良かった。ルセフにも言ってやってくれ、きっと喜ぶから」
ひそめた声で俺と話しながらも、ウォルターさんの手は流れるように手入れの続きに取り掛かった。丁寧に盾の手入れをしているウォルターさんは、昼間の明るい姿からは想像できない程に物静かだった。一人だと落ち着いた大人の人って感じなんだな。そんな失礼な事を、ついつい考えてしまった。
「手入れ見てても良いですか?」
「ああ、いくらでも見てくれて良いぞ」
許可を貰い盾を磨き上げていく作業をじっと見つめていると、視界の端にハルの姿が飛び込んできた。無事に帰ってきてくれたことに、ほっと胸を撫で下ろす。幽霊なんだからどんな魔物に会っても怪我をしないのも頭では分かってるんだけど、やっぱり心配しちゃうんだよな。
俺と目が合うと、ハルはふわっと笑みを浮かべてまっすぐに近づいてきた。
「近くにいたのは動物くらいで魔物はいなかったよ、だから安心して良いよ」
やっぱり俺がビビってたから、偵察に行ってくれたんだな。ありがとうの意味をこめて、俺はハルに笑いかけた。今はウォルターさんの姿は完全に盾に隠れてる。つまりウォルターさんからも、俺は見えてない筈だから大丈夫だろう。
「どういたしまして」
ありがとうの言葉は声には出来ていないけど、きっちり受け取って貰えたことが嬉しい。ハルはそっと俺の隣に立つと、悪戯っぽく笑ってみせた。
「ねぇ、アキト、空を見てごらん?」
そう言われて見上げた空には、満天の星空が広がっていた。見慣れた星座は一つもないけど、思わず見惚れてしまうほどに見事な星空だった。
「わー」
思わずそんな声が出てしまった。
「綺麗だったからアキトにも見て欲しくて」
そう言うと、ハルは柔らかく笑ってくれた。全く気づいてなかったけど、俺が夜の森に怯えていた時もこんな綺麗な星空だったのか。そう思うと、ちょっともったい無い事をした気がした。
「ああ、野営初めてだったな。星綺麗だろう」
俺の声に気づいたウォルターさんは、星を見上げる俺に話しかけてくれた。
「はい、すっごく綺麗です」
「街中だと灯りがあるから、あんまり見えないもんな」
ウォルターさんは盾をそっと荷物の横に置くと、一緒に星を眺めてくれた。俺の隣にいるハルも、もちろん一緒に星を眺めてくれている。
うん、本当に綺麗な星空だな。もう一度夜の森に視線を向けてみたけど、今度はさっきみたいな恐怖心は感じ無かった。
「アキト、こっちに座ると良い」
小声でそう言うと、ウォルターさんは小さく手招きをしてくれた。頷きを返していそいそと近づいていくと、俺は勧められた切り株にそっと腰を下ろす。焚火を挟んだ向かい側に、ウォルターさんもどさりと腰を下ろした。
「そんなに緊張しなくて良いからな。魔物が来たら叫べば良いだけだ」
俺の緊張を感じ取ったのか、ウォルターさんはそう言うと明るい笑みを見せた。
「ありがとうございます」
「おう」
起きてさえいれば何をしてても良いと言ってくれたけど、これだけ暗いと本を読むこともできないよな。かと言って時間つぶしのために、この世界に来た時から鞄に入れっぱなしのスマホを起動するわけにもいかない。近くのテントではチームの皆が寝てるんだから、小声とはいえこのまま会話を続けるわけにもいかない。
さてどうしようと俺は途方にくれた。
「ちなみに俺は今から盾の手入れをするぞ。それが日課でな」
ウォルターさんの時間つぶしの方法を教えてもらったけど、魔法をちょっと使っただけの俺には手入れできそうな物も特にないんだよな。これは完全に詰んだな。
盾の手入れを始めたウォルターさんからそっと視線を外せば、自然と夜の森に目が行った。初めて見る夜の森は暗いという言葉では表現しきれない。暗闇がどんどん迫ってくる感じだ。
虫の鳴き声や、夜行性の何かが草を揺らしながら移動している音が、はっきりと聞こえてくる。想像を遥かに超えた夜の森の不気味さに、じわじわと恐怖心が湧いてくる。
「アキト、ちょっと周りの探索をしてくるね」
あまりに俺がビビッていたからか、ハルはそう言うと止める間も無く出ていってしまった。探索をしてくれるのはすごく嬉しいんだけど、今は隣にいて欲しかったな。隣にハルがいないってだけで、余計に心細さがひどくなった気がする。
「アキト、飲み物いるか?」
声を掛けられた俺は、びくっと肩を揺らしてしまった。ウォルターさんは木製のコップを二つ持ってこっちを見つめていた。
「欲しいです」
「よし」
「あ、ありがとうございます」
受け取ったコップに入っていたのは、ルセフさん特製のあの果実水だ。すっきりとした後味が美味しくて、少しだけ気分が上がってくる。
「美味しい」
「それは良かった。ルセフにも言ってやってくれ、きっと喜ぶから」
ひそめた声で俺と話しながらも、ウォルターさんの手は流れるように手入れの続きに取り掛かった。丁寧に盾の手入れをしているウォルターさんは、昼間の明るい姿からは想像できない程に物静かだった。一人だと落ち着いた大人の人って感じなんだな。そんな失礼な事を、ついつい考えてしまった。
「手入れ見てても良いですか?」
「ああ、いくらでも見てくれて良いぞ」
許可を貰い盾を磨き上げていく作業をじっと見つめていると、視界の端にハルの姿が飛び込んできた。無事に帰ってきてくれたことに、ほっと胸を撫で下ろす。幽霊なんだからどんな魔物に会っても怪我をしないのも頭では分かってるんだけど、やっぱり心配しちゃうんだよな。
俺と目が合うと、ハルはふわっと笑みを浮かべてまっすぐに近づいてきた。
「近くにいたのは動物くらいで魔物はいなかったよ、だから安心して良いよ」
やっぱり俺がビビってたから、偵察に行ってくれたんだな。ありがとうの意味をこめて、俺はハルに笑いかけた。今はウォルターさんの姿は完全に盾に隠れてる。つまりウォルターさんからも、俺は見えてない筈だから大丈夫だろう。
「どういたしまして」
ありがとうの言葉は声には出来ていないけど、きっちり受け取って貰えたことが嬉しい。ハルはそっと俺の隣に立つと、悪戯っぽく笑ってみせた。
「ねぇ、アキト、空を見てごらん?」
そう言われて見上げた空には、満天の星空が広がっていた。見慣れた星座は一つもないけど、思わず見惚れてしまうほどに見事な星空だった。
「わー」
思わずそんな声が出てしまった。
「綺麗だったからアキトにも見て欲しくて」
そう言うと、ハルは柔らかく笑ってくれた。全く気づいてなかったけど、俺が夜の森に怯えていた時もこんな綺麗な星空だったのか。そう思うと、ちょっともったい無い事をした気がした。
「ああ、野営初めてだったな。星綺麗だろう」
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「はい、すっごく綺麗です」
「街中だと灯りがあるから、あんまり見えないもんな」
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