生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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139.野営地の朝

 うっすらと目を開くと、見えたのはカーキ色の布だった。あれ、なんで天井が布なんだろう。半分眠ったままの意識で考えようとしたけれど、どうしても考えがまとまらない。

 昨日って何があったっけ。そんな事を考えていると不意にばさっと音がして、まぶしい光が一気に差し込んできた。

「アキト、起きてー!」

 突然耳に飛び込んできたハルじゃない人の声に、俺はがばっと勢いよく起き上がった。

「うわ、びっくりした。寝起き良いね、アキト」

 テントの入口の布を捲り上げたブレイズが、びっくり眼で俺を見つめている。そうだそうだ。調査依頼でブレイズのチームと一緒に野営したんだった。

「あ、ごめん…おはよう、ブレイズ」
「おはよう、アキト」

 今日は起きる時間がはっきりしなかったから、ハルに起こさなくて良いからって自分で言ってたんだったな。それにしても、初野営でこんなに熟睡するとは思ってなかった。

「じゃあ、用意できたら出て来てね」
「分かった、ありがと」

 ブレイズは明るくそう伝えると、すぐに他の人を起こしに行ったみたいだ。

「ウォルター兄ちゃん、朝だよー起きてー!」
「おう、起きた起きた」
「絶対!起きてないよね!兄ちゃん呼び訂正してないし!」

 隣のテントから聞こえてくるそんなやりとりに、寝袋の上に座り込んだまま思わず笑ってしまった。

「おはよう、アキト」

 穏やかなハルの声にパッと振り返った俺は、目に飛び込んできた予想外の姿に目を見開いて固まった。

 いやだってさ、まさかテントの隅の所で小さくなって座ってるなんて想像しないだろ。しかも何その体育座りみたいなポーズ。背の高いハルが頑張って小さくなってる感じは、すごく可愛いんだけどさ。

 気を取り直した俺は、テントの外に聞こえないように小さな声で話しかけた。

「おはよ、ハル。なんでそんなにちっちゃくなってるの?」
「テントは狭いけど、アキトの近くにいたかったから…かな」

 照れくさそうな笑顔で告げられた言葉の破壊力が、ものすごかった。ハルにとっては深い意味は無いんだと分かっていても、胸がときめいてしまう。

「そ、そっか。えっと俺は気にしないから、無理にちっちゃくならなくても良いからね」
「うん、分かった」

 笑顔で頷いてくれたハルからそっと視線を反らして、俺は歯磨き代わりの浄化魔法を発動した。



 ルセフさんが作ってくれた朝食は、今朝も最高に美味しかった。思わずブレイズと二人で褒めちぎってしまった。ルセフさんの腕前はお店が出せるレベルじゃないのかな。

 全員揃って朝食を頂いた後はすぐにテントの解体に取り掛かったんだけど、これが思いのほか難しかった。知らなかったけど組み立てよりも、解体して袋に入れる作業の方が難しいんだね。

「あれ、袋に入らない…」

 組み立て前にはこの袋の中に入ってたんだから、入らないわけが無いんだけど。独り言を呟きつつ途方にくれていた俺に、ハルの助言が飛んでくる。

「たたむ時に入った空気のせいかな…言葉でしか教えられないのが本当に残念だ」

 しょんぼりとしたハルの声に、俺は小さく首を振った。

 十分助けてもらってるよって言いたいけど言えないんだよな、ここでは。あとでちゃんと言葉にして伝えようと考えながら、俺はもう一度テントを広げていった。

「アキト、代わるから見てて」
「あ、ファリーマさん、ありがとうございます」

 他の人達はまだテントを畳んでる途中みたいなんだけど、どうやらファリーマさんはいち早く作業を終えていたみたいだ。

「こうやって、ここがポイントだ」

 ファリーマさんは説明を挟みながら、てきぱきと俺のテントを畳んでいく。

「すごい!」

 感動する俺に、ファリーマさんは苦笑しながら答えた。

「慣れたら簡単だから、アキトもすぐにできるようになるよ」
「次は頑張ります」
「ああ、まあ無理せずに何日か掛けて覚えれば良いよ」

 ファリーマさんが畳んでくれたテントは、すっぽりと綺麗に元の袋の中に収納された。もしかして折りたたみ傘とかたたむのも得意なタイプだろうか。俺はあれも結構苦手なんだよな。

「ファリーマさん。ありがとうございました」
「ああ、これくらい気にするな」

 俺は受け取ったテントを鞄の中に押し込むと、周りを見渡した。皆テントや出していた小物などを鞄にしまう作業に集中しているみたいだ。俺の方を見ていない事を確認すると、全員に背中を向けてからそっと口を開いた。

「ハル。俺は今までいっぱいハルの言葉に助けられてきたんだよ」
「アキト…」
「だからさ…言葉でしかとか言わないで欲しい。ありがとうっていつも感謝してる」

 かなり小さな声だったけど、きちんと言葉は伝わったみたいだ。ハルは大きく目を見開いてから、次いでくしゃりと顔を歪めた。泣き出しそうな顔がふわりと柔らかい笑みに変化していくのを、俺はじっと見つめていた。

「うん、こちらこそありがとう」

 その言葉に俺は小さく首を傾げた。いつもならそこは『どういたしまして』じゃない?なんで俺にお礼?そう聞きたかったけれど、タイミング悪く後ろから声がかかった。

「アキトー行くよー!」
「はーい!」

 ここで時間切れみたいだ。ハルとの会話は、また夜までお預けか。ちらっと見上げてみると、そこにあったのは穏やかな笑みだった。

「もう言葉でしかなんて言わないから。今日もよろしくね」

 笑顔でそう言ってくれたハルにホッとしながら、俺はチームの皆の所へと足を進めた。
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