生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
155 / 1,561

154.クラーウ茸

 ルセフさんをその場に残したまま、俺はハルの声がする方へと急いだ。目が見えない人を一人にしたくない気持ちももちろんあるけれど、原因が分からないと治療法も分からないままだ。

「やっぱりあった。原因はこのリュス茸の隣に生えてる黒いキノコだよ」

 ハルが指差した場所には、ずんぐりと太い白地に赤い水玉模様のキノコがいくつも並んでいた。見た目はどう見ても毒キノコっぽいけど、この水玉キノコは毒の無いリュス茸というキノコらしい。

 あれ?でもさっきハルは黒いキノコって言わなかったっけ。そう思ってまじまじと目をこらして、やっと細いエノキのような真っ黒なキノコを発見した。

「クラーウ茸という毒キノコだよ」

 クラ―ウ茸は手袋なしで触れてはいけない危険な毒キノコだけど、この黒い色とほっそりとした見た目のせいで、影になっているとかなり見えにくいんだそうだ。ここにあるとはっきり言われても、見つけるのに時間がかかったぐらいだもんな。

 しかもこのクラーウ茸、基本的にはダンジョン内にしか存在しないものらしい。だからルセフさんでも気づかなかったのか。

「治療法はある?」
「あるけど…」

 言い淀んだハルは、俺の目をじっと見つめてきた。

「アキト、クラーウ茸は上級素材なんだよ。クラーウ茸の事だけなら人に聞いたと言えるけど、その治療法を知ってるなんて…変に思われるかもしれない」

 こんな状況でも、ハルは俺の事を一番に考えてくれるんだな。そう思うと、なんだかちょっと照れくさいけれど嬉しかった。それに助けられる方法を知っているのに、黙ってるなんてできる筈が無い。俺も今はこのチームの一員だし、仲間を助けるのに理由なんていらないだろう。

「ハル、お願いだから、治療法について教えて」

 俺はまっすぐにハルの目を見返した。もしこれで変な奴だって思われて距離が出来ても別に良いんだ。だって俺にはハルがいるしね。

「…分かった。ジジの花びらと、ブローズの葉を水に浮かべて熱して作った薬を飲ませれば良いだけだよ」
「ジジの花びらは昨日採取してたからそれを使わせてもらって、後はブローズの葉があれば良いって事か…ブローズって初めて聞いた」

 探しに行かないとと言いかけた俺に、ハルはあっさりと教えてくれた。

「上級素材だからね。ちなみにあっちにある青い花がブローズだよ」
「あ、ここにあるんだ。ありがとう、ハル」
「どういたしまして」

 幸運を噛み締めながら、いそいそとブローズの葉を採取していると、不意に近づいてきたハルがそっとクラーウ茸を指差した。

「ダンジョン以外にあるなんて滅多に無い事だから、これも採っていった方が良いよ。手袋は絶対にしてね」

 俺は慌てて手袋をすると、そっとクラーウ茸を採取して自分の採取袋に押し込んだ。



 大急ぎでルセフさんの所に戻った俺は、まず原因について話す事にした。図鑑も無いのに上級素材に詳しいなんてと怪しまれるかもしれないけど、もし俺がルセフさんの立場なら早く原因を知りたいと思うんだよね。

「ルセフさん、リュス茸の隣にクラーウ茸がありました」
「あーやっぱりか」

 どうやら名前を聞いただけで、ルセフさんはクラーウ茸について理解したみたいだ。

「ダンジョン以外にあるとは思わないですよ」

 慰めるようにそう口にすると、ルセフさんは苦笑して答えた。

「いや、でも迷惑かけたね」
「いえ。ジジの花びらは昨日西側で採取したのがありますし、今ブローズの葉も採ってきたので、野営地に戻ったら薬作りますね」

 治療薬の作り方を知ってる事もついでに伝えてしまえと勢いだけで口にすれば、ルセフさんは驚いた顔をしてからふわっと笑ってくれた。何も聞かないんだな。

「…ありがとう。迷惑ついでにもう一つ頼みたい。手袋をしてからクラーウ茸を採取してもらえるかな?」
「あ、もう採取して持ってます」
「ああ、ありがとう」

 原因が分かったからか、それともすぐに治療ができると聞いたからか、ルセフさんの表情もさっきより穏やかだ。

「そっちはどうだった?」
「西側の半分ぐらいの素材で、上級素材っぽいのは無かったですね」
「ああ、こっちも少なかったな。調査は終わってるから、後は戻ってからクラーウ茸も書き加えないと」

 そんな風に二人で話していると、遠くからブレイズが駆け寄ってきた。後ろからは真剣な顔をしたウォルターさんとファリーマさんも走ってくる。

「おーい!お待たせ!」
「ルセフ、大丈夫か?」
「今どんな状態だ?」

 すぐにそう尋ねた二人に、ルセフさんは苦笑を浮かべる。

「目が見えないのと手のしびれ。原因はクラーウ茸だった」
「クラーウ茸?それは…なんでこんな所に?」
「アグアウルフもダンジョンに多い魔物だから、何か関係があるのかもなー」
「とりあえず野営地まで戻るか」

 ウォルターさんはひょいっとルセフさんを持ち上げると、そのまま歩き出した。うわーお姫様だっこってやつだ。ルセフさんはもっと他の運び方をしろと最初は暴れていたけど、心配かけたんだから我慢しろと言われて渋々動きを止めた。

「アキト、ありがとうな」

 ブレイズの唐突な感謝の言葉に、俺はゆるく首を傾げた。なんでお礼なんか言われたんだろう。意味は分からなかったけど、俺も口を開いた。

「ブレイズも、二人を呼んできてくれてありがとうな」

 よく分からないけどとりあえずそう答えて、俺たちはゆっくりと歩き出した。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。