生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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158.【ハル視点】良い友人

 盾使いであるウォルターは、さすがに体力と腕力には自信があるようだ。少しも危なげなく、ルセフを抱き上げたまま野営地まで歩き通した。

 地面に直接寝かすのはよくないからと、寝袋を敷いてからそこにルセフの体を横たえる。寝袋の周りをぐるりと囲むようにして、チームの他のメンバーは地面に座り込んだ。

「それでクラーウ茸の治療法は?」

 ウォルターの質問に、ルセフは素早く答えた。

「ジジの花びらとブローズの葉が薬の原料だ」

 アキトから聞いた時は驚いていたのに、ルセフはしれっとそう言い切った。アキトのために、自分が治療法を知っていたかのように装ってくれるらしい。

「ブローズの葉か…採ってくるか」

 立ち上がりかけたウォルターに、アキトは慌てて声をかけた。

「あ、ブローズの葉あります!」
「アキト?」
「ブレイズ、ジジの花びらも昨日採ったのがあるよね?」
「ジジ…あの白いおっきい花のやつか?」
「そう、それそれ」

 ブレイズは、すぐにジジの花びらの採取袋を取り出してアキトに手渡した。

「あーじゃあ火を起こすための枯れ枝集めか」

 今度はファリーマが立ち上がろうとしたけれど、それもアキトが慌てて止めた。

「いえ、俺の魔法でやります」

 魔法でも出来るよねと言いたげなアキトの視線に、俺は笑いながら大きく頷いた。

「魔法で?」

 言葉よりも行動をと言わんばかりにその場に立ち上がったアキトは、すぐに魔力を練り始めた。じわじわと大きくなるように、器用に水球を作っていくアキトの手元をじっと見つめる。手のひら程度の大きさになった所で、俺はアキトを止めた。

 当たり前みたいな顔をしてしれっと水球に浄化魔法をかけると、アキトはすぐに次の作業にとりかかった。

 本当はアキトが一番得意な魔法は、土魔法じゃなくて浄化魔法じゃないのか。そう言いたくなるほど、流れるような浄化魔法だった。

「ブローズの葉は半分にちぎっていれて、ジジの花びらはそのまま2枚」

 説明通りに用意していく素材にも、きっちり浄化魔法をかけているのがアキトらしい。後は水球を火魔法で温めるだけだ。

 ふと気づけばファリーマは楽しそうに笑いながら、水球の真ん前に立ってじっと見つめている。これは浄化魔法にも気づいてそうだな。

「そこからゆっくり温度を上げていって…そう」

 指示通りにアキトがゆっくりと火魔法で水の温度を上げていくと、ジジの花びらもブローズの葉もじわじわと溶け始める。最初は透明だった水がどんどん変化して、淡い緑色に変わっていく。

「沸騰したら止めて……よし、完成!」
「すみません、コップ下さい」

 アキトの声かけに反応したのはブレイズだけだった。ウォルターは座り込んだまま呆然と浮いたままの水球を見つめているし、ファリーマは特等席での魔法鑑賞に夢中だ。

「はい、これ」

 アキトがコップに薬を注いでいる間に、ブレイズはルセフの上半身を起き上がらせた。

「できました。ルセフさん、熱いので気を付けて下さいね」
「ああ、ありがとう」

 両手でコップを持ったルセフは、眉間に深いしわを寄せながら薬を飲み始めた。えぐみのある葉の味と、どこからきたのか分からない甘ったるさ、そして最後にがつんと苦味が攻めてくる。興味本位で味見したあの日の味が、口いっぱいに広がった気がした。

「すげぇ顔してんな」

 我に返ったウォルターがそう口を挟んでいるが、俺はあれを一気に飲み干したルセフに拍手をしてやりたい気分だった。ウォルターも味見して見ればそんな事は言えなくなるぞ。

 薬を飲んでからしばらく経つと、無事にルセフの目は見えるようになった。手のしびれも綺麗に無くなったようだ。あれだけ丁寧に作ったんだから、効かないわけが無いか。

 誇らしい気持ちで、俺はアキトの姿をじっと見つめた。



 今日の見張り番は先にアキトとブレイズが、後をファリーマとウォルターが担当することになった。ルセフは見張り番をやりたいと言い張っていたが、チームの仲間がそんな事を許すはずが無い。

 すっかり仲良くなったアキトとブレイズは、小声であれこれと話しながら穏やかな時間を過ごしていた。

 ふと話が途切れた所で、アキトはそっと夜空を見上げた。アキトとブレイズの間に座り込んでいた俺も、一緒になって満天の星空を眺める。最初の野営の日以来、アキトはすっかり星を見るのが気に入ったみたいだ。俺の影響だと思うと、素直に嬉しい。

「あのさ…その、ハルって誰?」

 不意打ちで投げかけられたブレイズの声にアキトは目を見開いて固まった。

「…聞いてたのか?どこで?」

 あまりに予想外な質問で驚いたのか、アキトは質問に質問で返した。ブレイズは怒るでも無く、あっさりと話し出した。

「俺さ、実はちょっとだけ獣人の血が入ってるんだ」
「あ…そうなんだ?」
「うん、爺ちゃんがハーフだったらしい」

 耳も尻尾もあれば良かったんだけどねと残念そうにブレイズは続けた。

 視力と反射神経がやけに良いなと思ってはいたが、まさかそんな理由だとは思わなかったな。犬っぽいと思ってしまったのも、もしかしたらそのせいだろうか。

「普段はそうでも無いんだけど、集中してると遠くの声も聞こえるんだよ」

 これは結構大事な話の筈だが、ブレイズはあっさりと笑って告げた。

「なるほど、獣人の能力が集中している時だけ使えるって事か」

 おそらくその対象は聴力だけでは無いだろう。本人は気づいていないかもしれないが、速射の時の反応の速さはそう思えば獣人の速さだった。

「ウォルター兄ちゃんとファリーマさんを呼びに行った時さ、俺ルセフさんが心配で集中してたから聞いちゃったんだ…」

 盗み聞きしてごめんねと続けたブレイズは、しょんぼりとうなだれた。

「それは別に良いんだけど、えーと…ハルは…」

 素直に幽霊だと告げるべきか、それとも嘘でも精霊だと告げるべきか。ぐるぐると考えているアキトに、ブレイズはぶんぶんと手を振りながら慌てて声を上げた。

「あ、待って!えっと、誰かって聞きたいってわけじゃなくて!アキトの通り名は知ってるんだ」

 一体何が言いたいのかが全く分からなかったけれど、アキトはうんと頷いて先を促した。

「うちのチームはルセフさんの知識量が凄くて、素材についてはいっつもルセフさん頼りなんだ」

 ルセフのような奴がチームにいれば、どうしても頼ってしまうのは仕方ないだろう。それでもチームを続けているという事は、ルセフも納得の上だ。

「だから、ルセフさんの目が見えないなんて事態になったら、原因を見つけるのにも苦労するんだ…」

 ブレイズはそう言うと、ぐっと拳を握りしめた。

「アキトには感謝してるんだ。原因のクラーウ茸を見つけてくれた事、治療薬の事教えてくれた事、薬を作ってくれた事にもありがとうって言いたかっただけ!」

 何て言えば良いのか悩んで誰とか聞いてごめんねと素直に謝るブレイズに、アキトはふるふると首を振った。

「今回の調査依頼でさ、俺ももっと知識をつけないとって思ったんだ」

 ルセフの手伝いぐらいはできるようになりたいと、ブレイズはキラキラと目を輝かせて目標を語った。

「アキト、今日は本当にありがとうな」

 何事かと思ったけれど、これで全て丸く収まりそうだな。ふうと俺が詰めていた息を吐いた時、アキトがちらりと俺を見た。

「ハルはね、俺に色んなことを教えてくれる、大切な存在なんだ」
「…っ!そうなのか!」
「うん、素材の事も詳しいし、道にも詳しくていつも案内してくれるんだ」

 立て続けに出てくるアキトの言葉に、油断すると気が遠くなりそうだ。

「へールセフさんみたいだな」
「俺が凹んだ時は励ましてくれるし、いつも俺の事を考えてくれてる」

 流れるように俺を褒めちぎりながら、アキトは幸せそうに柔らかく笑っていた。その笑顔だけで、胸がいっぱいになる。

「アキト、そんな風に思ってくれてたのか…」

 思わず漏れた俺の声に、アキトは嬉しそうに口を開いた。

「ハルがいてくれて良かったっていつも思ってるよ」

 今の俺はきっとにやけた顔をしているんだろうな。アキトのまっすぐな視線に耐えかねて、俺はそっと目を反らした。いきなりのほめ殺しはやめてくれ、アキト。嬉しいけれど心臓に悪いから。

「話してくれてありがとうな、アキト」
「こっちこそ、聞いてくれてありがとう」

 唐突な自慢話にも動揺せずにそう言い切れるブレイズは、かなりすごい奴だと思う。

「本当に良い友人を見つけたな」

 俺の心からの言葉に、アキトは大きく頷いてから満面の笑みを浮かべた。
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