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166.雨の日は
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ふかふかのベッドで眠っていた俺は、何故か唐突に目を覚ました。
まだ暗い室内の様子からして、朝が来るまでにはまだ時間がありそうだ。二度寝でもするかなんて考えながら、俺は何気なく窓の方に視線を向けた。
「え…あめ?」
思わずそんな独り言が漏れた。小雨ぐらいなら採取先でも遭遇した事があるけど、こんな大雨はこの世界に来てから初めてだ。
「おはよう、アキト」
「ハル、おはよ」
挨拶を交わしながら俺はそっと窓に近づいて行く。窓の外は、向かい側に建っている建物すら見えにくいほどの物凄い土砂降りだった。
「うわーすごい雨!」
これだけの雨なら音で起きそうなものなのにとそこまで考えて、やっと俺は室内が妙に静かな事に気がついた。部屋にかけられている防音結界のおかげで、雨の音も聞こえてこないって事か。異世界の技術すごいな。
「これはまだまだ止みそうにないね」
ハルの言葉に頷きながら外を見ていると、雨に打たれながらも全力で走っていく冒険者の姿が見えた。マントのフードはかろうじて被っていたけど、これだけの雨なら意味は無いだろうな。
実は前から気になってたんだけど、この世界には多分傘が存在していないみたいなんだよね。魔物に襲われた時に手が空いてないと命に関わるからとかかな。まあ、ただの俺の想像だし、世界中のどこかには存在してるのかもしれないけど。
「ハル、これだけ降ってても冒険者って依頼を受けるものなの?」
素朴な疑問を口にすれば、ハルはすぐに答えてくれた。
「んーよほどの理由が無いと出歩かないだろうね」
「よほどの理由って例えば?」
「そうだな。既に期限ぎりぎりの依頼を受けているとか、金が無いからどうしても依頼を受けないといけないとかかな」
ああ、そういう理由か。
「あ、あと儲かるからって冒険者もいるよ」
これだけ天候が悪いと、ギルドに行く冒険者の数はどうしても減ってしまう。俺も今日は休みにしたいなって思ってたから、その気持ちはすごく分かる。
でもギルドからしたら天候のせいで、急ぎの仕事が滞るという嬉しくない事態だ。悪天候の中でもわざわざ来てくれた冒険者には、ぜひ急ぎの仕事を受けてもらいたい。そこで悪天候の時だけ、急ぎ仕事の報酬を一割ほど増やすんだそうだ。
「報酬目当てで、天候が悪い日にわざわざ動く冒険者もいるんだよ」
「はー稼ぎ時って事か」
「ただ、これだけの雨だと採取地も影響を受けてるからね、危険度もその分高くなるんだ」
「あーなるほど」
「アキトはどうしたい?」
委ねてくれた選択に、俺は元気よく手をあげてから宣言した。
「今日は休む!」
「うん、それが良いね」
まずは朝食と決めて階下に下りてきたけど、黒鷹亭の食堂はいつも以上に混雑していた。今日は宿から出ないつもりなんだろうなっていう冒険者達が、食堂内に溢れかえっていた。
なんとか空席を見つけて一人朝食を食べていると、食堂の入口からレーブンさんがひょいっと顔を出した。
「今日は特別に昼飯も用意するぞ。一人500グル。部屋で食べれるように包むから、必要なやつは受付まで来てくれ」
淡々と告げられたレーブンさんの言葉に、食堂内からは歓声と拍手が上がった。
「よっしゃ!さすがレーブンさん!」
「待ってましたー」
「干し肉減ってたから助かるー」
大騒ぎする周りに驚きながら、俺は口に放り込んでいたパンを飲みこんだ。すごい盛り上がりっぷりだなと周りを見ていると、そっとハルが教えてくれた。
「急な天候不良だと、昼飯は出せないって宿も多いんだ」
レーブンさんは常に食材を多めに確保して食糧庫に保管してるから、こういう場合でも対応できるんだそうだ。ちなみに昼食が出ない宿の場合は、持ってる果物や干し肉でしのぐか、空腹を抱えたまま寝るぐらいしかできないんだって。想像してみたけど、それはつらいな。
実は魔道収納鞄にはまだまだ食料が残ってるんだけど、俺もレーブンさんのご飯が食べたいから申し込もうと受付に立ち寄った。
部屋に戻ったらハルと一緒にゆっくりしようと思ってたんだけど、ハルはギルドの様子を見に行きたいらしい。久しぶりの大雨だから、情報収集がしたいんだって。雨の影響もハルには一切無いから、そう言われたら送り出すしかない。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい。気をつけてね」
そんなわけで俺は今、黒鷹亭の部屋にぽつんと一人っきりだ。
こんな雨の日にする事なんて読書ぐらいしか思いつかない。
ハルとおでかけした本屋で手に入れた本は、時間がある時にちょっとずつ読み進めている。同時に色んな本を読み進めるのが俺の読書スタイルなんだ。一冊ずつ読み切りたい友達には変な読み方だってよく言われたけど、俺にはこの読み方が合ってるんだ。
さて今日はどれにしようかなと考えて、俺は表紙に剣と盾の絵が描かれた少し厚めの本を手に取った。
辺境伯領の領主の冒険譚、ケイリー・ウェルマールの冒険だ。
前回読んだのは、魔物が溢れるスタンピードが起こった所までだったな。俺は挟んでいたしおりの場所を開くと、本の世界に飛び込んだ。
まだ暗い室内の様子からして、朝が来るまでにはまだ時間がありそうだ。二度寝でもするかなんて考えながら、俺は何気なく窓の方に視線を向けた。
「え…あめ?」
思わずそんな独り言が漏れた。小雨ぐらいなら採取先でも遭遇した事があるけど、こんな大雨はこの世界に来てから初めてだ。
「おはよう、アキト」
「ハル、おはよ」
挨拶を交わしながら俺はそっと窓に近づいて行く。窓の外は、向かい側に建っている建物すら見えにくいほどの物凄い土砂降りだった。
「うわーすごい雨!」
これだけの雨なら音で起きそうなものなのにとそこまで考えて、やっと俺は室内が妙に静かな事に気がついた。部屋にかけられている防音結界のおかげで、雨の音も聞こえてこないって事か。異世界の技術すごいな。
「これはまだまだ止みそうにないね」
ハルの言葉に頷きながら外を見ていると、雨に打たれながらも全力で走っていく冒険者の姿が見えた。マントのフードはかろうじて被っていたけど、これだけの雨なら意味は無いだろうな。
実は前から気になってたんだけど、この世界には多分傘が存在していないみたいなんだよね。魔物に襲われた時に手が空いてないと命に関わるからとかかな。まあ、ただの俺の想像だし、世界中のどこかには存在してるのかもしれないけど。
「ハル、これだけ降ってても冒険者って依頼を受けるものなの?」
素朴な疑問を口にすれば、ハルはすぐに答えてくれた。
「んーよほどの理由が無いと出歩かないだろうね」
「よほどの理由って例えば?」
「そうだな。既に期限ぎりぎりの依頼を受けているとか、金が無いからどうしても依頼を受けないといけないとかかな」
ああ、そういう理由か。
「あ、あと儲かるからって冒険者もいるよ」
これだけ天候が悪いと、ギルドに行く冒険者の数はどうしても減ってしまう。俺も今日は休みにしたいなって思ってたから、その気持ちはすごく分かる。
でもギルドからしたら天候のせいで、急ぎの仕事が滞るという嬉しくない事態だ。悪天候の中でもわざわざ来てくれた冒険者には、ぜひ急ぎの仕事を受けてもらいたい。そこで悪天候の時だけ、急ぎ仕事の報酬を一割ほど増やすんだそうだ。
「報酬目当てで、天候が悪い日にわざわざ動く冒険者もいるんだよ」
「はー稼ぎ時って事か」
「ただ、これだけの雨だと採取地も影響を受けてるからね、危険度もその分高くなるんだ」
「あーなるほど」
「アキトはどうしたい?」
委ねてくれた選択に、俺は元気よく手をあげてから宣言した。
「今日は休む!」
「うん、それが良いね」
まずは朝食と決めて階下に下りてきたけど、黒鷹亭の食堂はいつも以上に混雑していた。今日は宿から出ないつもりなんだろうなっていう冒険者達が、食堂内に溢れかえっていた。
なんとか空席を見つけて一人朝食を食べていると、食堂の入口からレーブンさんがひょいっと顔を出した。
「今日は特別に昼飯も用意するぞ。一人500グル。部屋で食べれるように包むから、必要なやつは受付まで来てくれ」
淡々と告げられたレーブンさんの言葉に、食堂内からは歓声と拍手が上がった。
「よっしゃ!さすがレーブンさん!」
「待ってましたー」
「干し肉減ってたから助かるー」
大騒ぎする周りに驚きながら、俺は口に放り込んでいたパンを飲みこんだ。すごい盛り上がりっぷりだなと周りを見ていると、そっとハルが教えてくれた。
「急な天候不良だと、昼飯は出せないって宿も多いんだ」
レーブンさんは常に食材を多めに確保して食糧庫に保管してるから、こういう場合でも対応できるんだそうだ。ちなみに昼食が出ない宿の場合は、持ってる果物や干し肉でしのぐか、空腹を抱えたまま寝るぐらいしかできないんだって。想像してみたけど、それはつらいな。
実は魔道収納鞄にはまだまだ食料が残ってるんだけど、俺もレーブンさんのご飯が食べたいから申し込もうと受付に立ち寄った。
部屋に戻ったらハルと一緒にゆっくりしようと思ってたんだけど、ハルはギルドの様子を見に行きたいらしい。久しぶりの大雨だから、情報収集がしたいんだって。雨の影響もハルには一切無いから、そう言われたら送り出すしかない。
「じゃあ、行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい。気をつけてね」
そんなわけで俺は今、黒鷹亭の部屋にぽつんと一人っきりだ。
こんな雨の日にする事なんて読書ぐらいしか思いつかない。
ハルとおでかけした本屋で手に入れた本は、時間がある時にちょっとずつ読み進めている。同時に色んな本を読み進めるのが俺の読書スタイルなんだ。一冊ずつ読み切りたい友達には変な読み方だってよく言われたけど、俺にはこの読み方が合ってるんだ。
さて今日はどれにしようかなと考えて、俺は表紙に剣と盾の絵が描かれた少し厚めの本を手に取った。
辺境伯領の領主の冒険譚、ケイリー・ウェルマールの冒険だ。
前回読んだのは、魔物が溢れるスタンピードが起こった所までだったな。俺は挟んでいたしおりの場所を開くと、本の世界に飛び込んだ。
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