生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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171.視界はモノクロ

 まるでモノクロの映画みたいな不思議な森の中を、ぐるりと見渡してみる。周りには色んな種類の木々や植物、木の実や果実も普通に存在している。全てがモノクロな事さえのぞけば、どこにでもある普通の森だ。

「ハル、今日採取する予定の素材は何?」

 依頼を受けずに来たから、今日は全部ハルにおまかせだ。

「まずはアコの果実からかな」
「アコの果実って…どこかで見たような…」

 何で名前を知ってるんだろうと率直に口にした俺に、ハルは笑って教えてくれた。

「中級図鑑に載ってるから、それで知ったんじゃないか?」

 俺は慌てて自分の中級図鑑を取り出した。アコの果実で調べてみれば、確かにそこには詳しい説明が載っていた。

『アコの果実は、その名の通りアコの木になる果実だ。食用可。

 一番の特徴はその鮮やかな赤色の果皮だろう。警戒色と呼べるほど鮮やかな果皮を一皮剥けば、中の果肉は鮮やかな青色をしている。

 目立つ色のおかげで発見されればすぐに採取されるため、木に生った状態で目撃される事は少ない。

 栄養が豊富なため、主にペースト状に加工してから販売されている。』

 最後まで目を通した俺は、そっとハルを見上げた。

「鮮やかな赤色の果皮と、鮮やかな青色の果肉が特徴…ってハル、この説明で探すのは無理じゃない?」
「その説明だけじゃ無理だね」

 ハルはあっさりとそう答えた。そりゃそうだよね、だってここはモノクロな森だ。色を特徴としての素材探しなんて出来ない。

「そこには記載されてないけど…アコの木の葉はギザギザで、裏面にだけうっすらと小さなトゲが生えてるんだ」

 俺はハルの言葉をすぐに図鑑に書き足した。つまり色には一切頼らずに、その特徴から先に木を見つけるって事だな。

「ハル、最初からそのつもりで選んだの?」
「まあね」

 悪戯っぽく笑って肯定するハルに、一瞬だけ見惚れてしまった。いつもの王子様系笑顔も良いけど、こういう悪戯っぽい笑顔もやっぱり好きなんだよな。

「どう?やってみる?」
「やってみる!」

 面白そうだと俺は元気よくそう答えた。



 アコの木は、探しても探してもなかなか見つからなかった。視界がモノクロになるだけで、これほど素材採取の難易度が上がるとは知らなかった。俺は比較的採取は得意な方だと思ってたんだけどな。

「これも違う」
「違うね」

 ハルに付き添ってもらいながらじわじわと森の中を移動してるんだけど、もうこの木で何本目かも分からない。数えるのは途中で止めてしまった。

「トゲトゲだけど裏面のトゲが無いから…これもアコの木じゃない」
「うん、そうだね」

 見た目は結構近いと思ったんだけどな。果実もごろごろ実ってたし。

「あ、でもこれは火を通すと甘くなるシュマの果実だよ」
「美味しい?」
「ああ、アキトは好きな味だと思う」
「じゃあいくつか採って行くよ」

 ハルが教えてくれたシュマの果実をいそいそと採取していると、ふとさっき気になっていた事を思い出した。

「そういえば図鑑には書いてなかったけど、アコの果実って美味しいの?」

 冒険者ギルドのあの図鑑って、食べられるものはだいたい味についての説明があるんだ。それなのに、何故かアコの果実の味については一切の説明がなかった。

「アコの果実が…美味しい???」

 ただの素朴な疑問だったんだけど、ハルは理解ができないって顔で固まってしまった。

「えーと、食用可なんだよね?」
「食べてももちろん害はないよ。アコの果実は香りはすごく甘いんだけど…」

 甘い香りも探す時に役立つかもしれないな。あとで図鑑に書き込もうと思いながら、俺は言い淀んだハルの言葉を待った。

「そのまま食べたら後悔するぐらい苦い」
「そうなんだ!あ、でもペースト状にして販売してるなら、ペースト状にしたら苦味が消えるとか?」

 異世界の不思議な果物ならそういう事もあるのかなって口にしたら、ハルは見た事もないほどくしゃくしゃに顔を歪ませていた。

「むしろ更に苦くなるよ…思い出しただけでこんな顔になるぐらいにはね」

 何でもアコのペーストは栄養面だけは素晴らしく優れているけど、味は死ぬほど苦いらしい。たとえ栄養があってもそんなに苦いと分かってるものを、わざわざ食べたくはないな。

 あれ?でも常設依頼になってるって事は、アコのペーストを買う人がたくさんいるって事だよな?異世界人ってすごい。

「アキト何か誤解してないか?」
「別に誤解はしてないけど、世界の違いをしみじみ感じてたところ」
「それが誤解なんだよ!アコのペーストは味を楽しむためのものじゃないからね!魔法薬に頼るほどでも無い体調不良の時なんかに、薬代わりに少しだけ舐めるんだ」

 なるほど。体が弱っている時の栄養補給用に使われるのなら、まあ理解はできる。あんな顔になるほど苦くても、効果さえきちんとあるなら我慢するしかない。

「そういう事なら理解はできるよ」

 理解を示した俺にホッと息を吐いたハルは、悪戯っぽく笑って俺を見た。

「アキトがもし興味があるなら、トライプールの市場で売ってるよ?」
「遠慮します!」

 採取したシュマの実を鞄にしまいながら、俺は満面の笑みを浮かべて断った。断固拒否だ。
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