生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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173.【ハル視点】クロユの森へ

 昨日の豪雨が嘘のように晴れた青空を見て、寝起きのアキトはキラキラと目を輝かせた。あんなひどい雨だったのにと言いながらも嬉しそうな姿に、俺もつい笑顔になる。

「今日はどうする?」

 朝食を終えたアキトに聞いてみれば、返事はすぐに返ってきた。

「せっかく晴れたなら、依頼を受けたいな」
「じゃあまずはギルドに行ってみようか」

 そんな会話を交わした俺たちは、すぐに冒険者ギルドに向かった。



 昨日の今日だから多少混んでいるだろうとは思っていたが、実際に見たギルドの混み具合には俺も驚いてしまった。全ての受付が開いているのに、ギルドに入ってすぐのドアの所まで列は伸びている。

「すごい列だけど、一応掲示板は見てみようか」

 声をかければ、アキトは小さく頷いて歩き出した。相変わらずアキトを見つめる視線はあるけれど、嫌な視線はだいぶ減ったみたいだな。そんな事を考えながら、俺はアキトの背中を追った。

 掲示板にあったのは難易度が極端に低いか、極端に高いかのどちらかの依頼だけだった。早朝からたくさんの冒険者が押しかけたんだろうな。

 良い依頼も無いようだし、アキトは数日休んでも問題が無い程度にはお金もある。

「今日は休みにする?」

 軽い気持ちでそう聞いてみれば、アキトは目に見えてしょんぼりと肩を落とした。そんなに依頼を受けたかったんだろうか。いや、違うか。昨日は急に宿から出れなくなったから、外に出たいのかもしれないな。俺だって雨で予定が潰れたら、次の日は体を動かしたくなる。

「それとも、常設買い取りの素材を採取しに行く?」

 俺の提案に、アキトは目を輝かせて勢いよく頷いてくれた。

 今日の採取先には、まだアキトが行った事が無い場所を選ぶ事に決めた。

 今の時期の常設買取素材を思い浮かべて、結局俺が選んだのはクロユの森だ。色が見えなくなる不思議な森だが、アキトならあの森もおそらく楽しめると思う。もし合わないようなら、パイルス草原にある不思議な花にでも案内しようか。

 俺は頭の中で予定を組み立てながら、買い出しに向かうアキトと一緒に歩き出した。



 クロユの森に続く街道を、俺たちはまっすぐに進んで行く。チームでの移動に付き添っていた時と違って、アキトの視線が何度も俺に向けられるのがくすぐったくも嬉しくて仕方がない。

 街道を進むアキトは眩い日差しに目を細めたり、そっと青空を見上げて薄く微笑んでみたり、道端にある水たまりを覗き込んだりと楽しそうだ。アキトが楽しそうなだけで、俺も楽しくなってくるからだいぶ重傷だな。

 たまに小声で会話をしつつ進んでいけば、アキトの初討伐依頼で訪れたパイルス草原が見えて来た。アキトは不意にそこで立ち止まると、草しかない草原をじっと見つめてから呟いた。

「懐かしいな」
「うん、初討伐依頼で来たよね」

 アキトも同じことを考えていたのか。じわじわとこみあげてくる嬉しさを噛み締めながら、俺はアキトににっこりと笑いかけた。



 クロユの森に辿り着いた時、アキトはきょとんと不思議そうに森を見つめていた。街道の辺りから見たクロユの森は、普通の森にしか見えないからそれも仕方ない。

「こっちだよ」

 無造作に森に分け入っていけば、アキトはその変化に自分で気づいてみせた。

「ハル、これって…」
「これがクロユの森の特徴だよ」

 見える範囲にある果実や木の実、植物に木々に地面まで。見渡す限りの全てのものが、黒と白、灰色の濃淡だけで表現されている。

「面白いだろう?」
「うん、面白いけど…この辺りはモノクロの物しか出来ない場所なの?」

 不意にアキトの口から知らない単語が飛び出してきた。

 ものくろとは何だと聞いてみれば、異世界の言葉で黒と白、灰色の濃淡だけで表現されている状態の事だと説明された。そんな便利な言葉が存在するなんて、アキトの世界はすごいな。

「見えないだけでそれぞれに色はあるよ。森を出れば色が戻ってくるからね」

 例えばこれと、俺は近くにあった丸い木の実を指差した。今は薄い灰色にしか見えない木の実だが、実際には淡いピンク色だ。アキトは俺の説明に、不思議そうに首を傾げた。

「何でこんなことになってるの?」
「うーん、理由は解明されてないんだ。精霊の遊び場だって説と、精霊の試練の森だって説と、精霊を怒らせた呪いだって説がある」

 好きなのを選んでと言えば、アキトは頬をひきつらせた。

「一つ目と二つ目はともかく、三つ目はやばくない?」
「大丈夫だよ。この森に入ったせいで何らかの呪いにかかったなんて人は、一人もいなかったから」
「そうなの?」
「そうじゃなかったら、さすがに冒険者ギルドがこの森を閉鎖してるよ」

 決断の早いギルドマスターと、決して調査を怠らないメロウが、トライプールのギルドには揃っている。あの二人が閉鎖してないなら、そこまで心配しなくて大丈夫だろう。

「それもそうか」

 アキトはあっさりと受け入れると、面白そうに周りを見渡した。

「ハル、今日採取する予定の素材は何?」
「まずはアコの果実からかな」
「アコの果実って…どこかで見たような…何で名前しってるんだろう」

 アキトの言葉に感心しながら、俺は小さく笑みを返した。

「中級図鑑に載ってるから、それで知ったんじゃないか?」

 アキトは図鑑を取り出すと、すぐにアコの果実について調べ始めた。じっくりと最後まで説明を読み込んでから、そっと俺を見上げてきた。

「鮮やかな赤色の果皮と、鮮やかな青色の果肉が特徴…ってハル、この説明で探すのは無理じゃない?」
「その説明だけじゃ無理だね」

 アコの果実を探すのは確かに簡単では無い。それでも、最初にそこを指摘できるアキトなら、きっと見つけられるだろう。

「そこには記載されてないけど…アコの木の葉はギザギザで、裏面にだけうっすらと小さなトゲが生えてるんだ」

 図鑑に書き足したアキトは、ちらりと俺を見つめて来た。

「ハル、最初からそのつもりで選んだの?」
「まあね」

 この森での採取の経験は、他の場所の採取でも間違いなく役立ってくるからな。アキトは負けず嫌いな所もあるから、きっとやると言うだろう。

「どう?やってみる?」

 悪戯っぽく笑いながら聞いてみれば、アキトはすぐに元気いっぱいに答えてくれた。

「やってみる!」
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