生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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175.異変

 持参していた二つの丸パンを、俺はぺろっと食べ終えた。外でも食べやすい形だし、味は文句なしに美味しいし最高だ。食事を終えたらすぐに次の素材の採取に向かおうとしたんだけど、それはハルに止められた。

「もう少しぐらいゆっくりしてて良いんだよ、依頼も無いし急いでないから」

 優しいハルの言葉に甘えて、俺は今座り込んだまま、近くの枝に止まった小鳥を見つめている。

 ちょうど食事が終わった頃に飛んできたんだけど、ピィピィと綺麗な声で鳴くから気になって見てたんだ。ピョンピョンと小さく跳ねるように枝の上を移動する姿が、とっても可愛い。

「あれはリネっていう小鳥だね」
「リネ?」
「そう、リネ。ちなみに淡い黄色の鳥だよ」

 淡い黄色の姿を想像しながら眺めていたら、リネは気ままに飛んでいってしまった。

「いっちゃった」
「今度外で見かけたら教えるね」

 ぜひと答えながら、俺はふと気になってた事をハルに聞いてみた。

「ねえ、ハル。この森って冒険者が少ないっていうか…全くいないよね」

 これだけ長い間森にいて、たった一人の冒険者の姿も見かけないなんて変だと思うんだ。採取にも長い時間がかかったし、食事の後に休憩までしてるのに全く冒険者が現れない。

 ハルと思いっきり話せて俺は嬉しいけど、ここまで人がいないのにはやっぱり違和感がある。

「ああ、ここは冒険者にはあまり人気が無いんだ。採取難易度がかなり高くなるからね」
「あー確かに難しいもんね、採取」

 俺もあれだけ苦戦したもんなと呟けば、ハルは小さく頷いてくれた。

「ここに来るのは、素材の目利きによっぽど自信がある奴ぐらいかな」
「俺は何も知らずに、そんな森に連れてこられてたのか…」
「アキトなら、ここでの経験も成長に繋げられると思ってね」

 笑顔でそう言い切られたら、何も言えなくなるよね。俺の成長に繋がるかもって期待して、ここに連れてきてくれたって事だもんな。他の人に言われたら勝手に決めるなって思うかもしれない言葉なのに、ハルに言われると信頼してくれてるんだなって素直に嬉しい。

「アキトはこの森は嫌い?」
「いや、嫌いじゃないよ」
「採取の難易度はだいぶ上がるのに?」

 確かに他の場所だったら、アコの果実はすぐに見つけられたかもしれない。でも色に頼らずに素材を探すやり方も勉強できたし、これは他の場所でも役立つ知識だと思う。

「確かに難しかったけど、途中からはクイズ感覚で楽しんでたからなぁ」
「アキト、くいずって何だい?」
「あ、ごめん。俺の世界の…えーっと楽しむためにやる面白い遊戯?試験?みたいな???」

 クイズはクイズだとしか言えないから、うまく説明ができない。

「ごめん。よく分からないけど、アキトは楽しかったんだね?」
「うん!楽しかったよ!」

 即答すれば、ハルは嬉しそうに笑ってくれた。

「俺もクロユの森は好きな場所だから、アキトが気に入ってくれて嬉しいよ」




 ゆっくりと休憩をしたおかげで、疲れもだいぶ取れてきた気がする。

「じゃあ、次は薬草を探しに行こうか」
「うん、次はどんな薬草?」

 俺はさっと立ち上がると、背中をぐいっと伸ばしながら尋ねてみた。

「次に探すのはハクブーラっていう白い薬草だよ。白だから楽に見つけられる筈」
「白い薬草か」
「アコの果実は見つけにくい素材だったから、もう一つは簡単なのを選んだんだ」

 え、いつもそこまで考えて、素材を選んでくれてるのか。いつもありがとうと声をかければ、ハルは嬉しそうにどういたしましてと答えてくれた。



 目的の素材であるハクブーラの場所は、どうやらハルに心当りがあるらしい。案内してくれると言うハルの背中を追って、俺はゆっくりと歩き出した。モノクロな森の様子を観察しながら、さらに森の奥の方へと足を進める。

「ハクブーラって中級素材?」
「いや、上級素材だ」
「へー上級素材なのか」
「腹痛に効く薬草なんだけどね、前に来た時はこの先に群生…」

 道案内をしながら説明してくれていたハルが、不意に言葉を途切れさせた。そっと見上げてみると、ハルは真剣な顔でじっと一点を見つめていた。

「アキト、そこで止まって」

 ハルは視線は動かさないまま、囁くような声で俺にそう指示を出した。明らかに何かを警戒しているハルの姿に、俺はすぐに立ち止まった。

「魔物だ。何かが近づいてきてる」
「隠れた方が良い?」
「いや、もう見つかってるみたいだから隠れても無駄だろうね…」

 その魔物は明らかに俺たちをめがけて、まっすぐに移動してきているらしい。

「こんな気配の魔物は、この辺りにはいない筈なんだけどな」

 木の枝がバキバキと折れる不吉な音が、遠くから聞こえてくる。どんどん近づいてくるその音に、俺はそっと魔力を練り上げた。

 警戒する俺たちの視界に入ってきたのは、ごつごつとした質感の大きな人型の魔物だった。

「ゴーレム!?」

 ハルの叫び声を聞きながら、俺は大きく目を見開いた。

「これがゴーレムか…」

 中級図鑑でゴーレムのページも読んだけど、絵で見ただけではここまで大きいとは思わなかった。

 ゴーレムは古代文明の遺物だと言われている魔法生物だ。使われている素材によってその強さが変わるという、少し変わった魔物だ。確か、一番弱いのが岩製のロックゴーレム、その次が青銅製のブロンズゴーレムだった。ちなみに中級図鑑に載っているのはこの二種類まで。さらにその上にはシルバーゴーレムとゴールドゴーレムと続いているらしい。

 名前があまりにも分かりやすかったから、やけに印象に残ってたんだ。きっと俺と同じ世界から来た人が名づけしたんだろうなって気になってた。

「アキト、ゴーレムの説明は必要?」
「軽くなら知ってるから必要無いよ。素材によって強さが変わるんだよね?」
「そうなんだが、よりによってここで会うなんて…」

 そう、よりによってここは、全てのものがモノクロに見えるというクロユの森だ。

「色が分からなければ、どのゴーレムかも分からないよね」
「ああ、さすがに見分けはつかないな」

 こそこそと話し合っている間も、ゴーレムの視線は一瞬も俺から外れなかった。うん、これは確実に敵認定されてるね。
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