生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
187 / 1,616

186.突然の訪問者

 太陽の光が差し込む部屋の中、俺はゆっくりと目を開いた。恐る恐る時間を確認してみれば、食堂の解放時間は過ぎているけれどお昼よりは早いぐらいだった。

 散々泣いてすっきりしたせいか、久しぶりにしっかりと熟睡出来た気がする。

「今日はバラーブ村かな」

 朝食をパッと済ませて、俺はすぐに冒険者装備を整えた。



 無料朝食が終わった宿の中は、しんと静まり返っていた。バラ―ブ村に行くならやっぱり川下りの舟かなと考えながら階段を降りていくと、受付でレーブンさんが俺を待ち構えていた。

「おはよう、アキト」
「おはようございます、レーブンさん」

 うっすらと笑みを浮かべて返事をすれば、レーブンさんは安心したように肩の力を抜いた。昨日までの俺よりは、今日の俺の方がマシな顔をしてると思う。

「お前に会いたいって奴が来てるんだが…まだ本調子じゃないだろうし、追い返すか?」
「ひどいな、レーブン」

 レーブンさんの後ろから現れたのは、俺よりも20センチ以上背の高い黒髪の大男だった。凛々しい顔をした男の色気溢れるその男は、背中に見た事もないような大剣を背負っている。

「君がアキトか?」
「はい」

 レーブンさんとは顔なじみみたいだけど、俺とは間違いなく初対面だ。こんなに存在感のある人に会ったら絶対忘れない自信がある。

「何のご用ですか?」
「俺はケビンという。君が納品した、水色の花のことで話を聞きに来たんだが…」

 名前を出さずに水色の花と言われて思い当るのは、リスリーロの花ぐらいだ。ハルと出会った時に採取して納品した、あの綺麗な水色の百合のような花が思い浮かぶ。

「少し時間をもらえるかな?」

 リスリーロの花の事は極秘扱いになっている筈だ。それを知ってるならこの人はギルドの関係者なんだろうか。

「分かりました」
「助かる」
「おい、今の時間なら誰もいないから、食堂使え」

 レーブンさんがいきなり投げた食堂の鍵を、ケビンさんはパシッと空中で軽く受け取った。

「ありがとな、レーブン」
「お前だから心配はしてねぇが、アキトは俺のお気に入りだ…分かってるな?ケビン」
「はいはい、話聞くだけだし絶対に手は出しません」

 わざわざ釘を刺してくれたレーブンさんに見送られて、俺は食堂へと入っていった。



「まあ座ってくれ」

 言われるがままに腰を下ろせば、ケビンさんも向かい側の椅子にどかっと座った。

「この魔道具は見たことはあるか?」

 ケビンさんが取り出した四角い石のような魔道具には、見覚えがあった。つい先日ゴーレムの情報を伝えに行った時に、メロウさんが使っていたものだ。

「防音結界の魔道具ですね」
「そうだ。使っても良いかな?」
「どうぞ」

 わざわざ俺に聞いてから発動してくれるなんて、荒っぽそうな見た目に反して紳士的な人なんだな。なんて本人に聞かれたら怒られそうな事をこっそりと思った。

「では改めて、君がリスリーロの花を納品したということで間違いはないか?」
「はい、俺が納品しました」
「そうか…君はあの花の情報を『背が高くて黒髪でヒゲのある、大剣を持った男』から聞いたと言ったそうだな?」

 誰からリスリーロの話を聞いたんだと問い詰められた時、俺はたしかにそう言った。情報収集をしていた黒髪で長身、ヒゲのある大剣を持った男に聞かれたんだと。ハルに言われるままに繰り返しただけだったけど、確かに口にした覚えがある。

「はい、言いました」

 素直に頷いた所で、不意に気づいてしまった。今俺の目の前にいるケビンさんって、この条件にヒゲ以外全部一致してるんじゃないか。ヒゲは剃れば無くなるだろうし。考え込んだ俺に、ケビンさんはふうと息を吐いた。

「君とは初対面の筈だな」
「……はい」
「別に責めたいわけじゃないんだ。君の納品したリスリーロの花は無事に増やすことにも成功して、今も人の役に立っているからな」
「ああ、良かった」

 ハルがどうしても届けたかったあのリスリーロの花は、ちゃんと役立てて貰えてるんだ。

「一体誰から俺のことを聞いたのか、それを教えてほしいんだ」

 きっとハルはこの人を知っていたし、この人もハルを知っている筈だ。

 ハルに聞いたのだと言っても、きっとすぐには信じてもらえない。それでも、ハルを知っている人にリスリーロを納品したのが誰か、知って欲しいと思った。

「あの…あれはハルが」

 俺がハルの名前を口にした瞬間、ケビンさんのまとう空気は一変した。怒り狂った大型の肉食獣でも現れたのかと思うほどの、凄まじい程の威圧感だった。

「ハル…だと?俺の前でよくそんな事が口に出来たな。心から君を軽蔑する」

 睨みつけてくる鋭い視線と吐き捨てるような口調に、俺は逆にホッと息を吐いた。

 この人は、ハルの名前を出すだけでこれほどまでに怒ってくれるんだ。ハルの事を大事に思っているからこそ、生まれる怒りだと思った。
感想 379

あなたにおすすめの小説

捨てられおじさん、魔王の嫁になる。

ごぶーまる
BL
魔王討伐パーティの一員だった傭兵メグイは、故郷の復興を条件に戦っていた。 だが王室はその約束を反故にし、仲間たちもまた、魔王軍の襲撃から逃れるためにメグイを囮にして逃げ出す。 生け捕りにされたメグイが連れていかれた先で出会ったのは、どう見ても魔王らしくない、ポンコツ気味の若き魔王チハタだった。 捕虜の扱い方も、尋問の仕方もわからないチハタは、メグイにお茶を淹れ、夕食を共にし、挙げ句の果てには「僕のお嫁さんになる?」と言い出す。 しかしチハタには、父である先代魔王ブラッドヘルによって刻まれた、ある秘密があった。 捨てられたおじさん傭兵と、魔王として生まれた若者。 孤独な二人が出会い、たった一晩で国の運命を変えてしまう、ファンタジーBL読み切り。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

猫を追いかけて異世界に来たら、拾ってくれたのは優しい貴族様でした

水無瀬 蒼
BL
清石拓也はある日飼い猫の黒猫・ルナを追って古びた神社に紛れ込んだ。 そこで、御神木の根に足をひっかけて転んでしまう。 倒れる瞬間、大きな光に飲み込まれる。 そして目を覚ましたのは、遺跡の中だった。 体調の悪い拓也を助けてくれたのは貴族のレオニス・アーゼンハイツだった。 2026.1.5〜

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

記憶を失っている間に推しの婚約者になっていました

由香
BL
事故で記憶を失っていたルカは、ある日突然思い出す。 ここが前世で夢中になっていた恋愛ゲーム世界だということを。 しかも自分は、最推しだった第一王子アルベルトの婚約者になっていた。 甘すぎる距離感。 慣れたように落とされるキス。 そして見え隠れする、王子の重すぎる執着。 忘れていた恋を、もう一度始める貴族学園BL。

呪われた娘と蔑まれてきましたが実は大公女で皇帝の孫娘でした。

こもれびの空
ファンタジー
アルフェ大陸には4つの王国があり、平和であった。しかしごくまれに異能の力を持つものが生まれる。 彼らは呪われし者として、大陸の中央。広大な砂漠に追放されるのだった。 しかし、今から300年前、偉大な魔法使いは広大な砂漠をオアシスへと変えると、そこにアストラル皇国を設立。瞬くまに4つの王国を支配下に置いた。 しかし人の心は変わらない。見えざる力は厭わしいものとされ、アストラル帝国を悪とするミゼラブル教団は、地下深くしかし確実に人々の信仰を集めていた。 アストラル歴304年 大公の一人娘がミゼラブル教団によって攫われる事件が起きた。 関係者はことごとく処刑されたが、リゼ アストラルの消息はつかめないまま5年がたった。 そのころセレスティア王国の辺境にある孤児院では、ひとりの少女がたくましく生き抜いていた。 これは大公女リゼと彼女を溺愛するシオン アストラル。そして孫娘の前では好々爺になってしまうアストラル皇帝の物語である。

十八年前の赤子の取り違え——婚約破棄された「養女」が、公爵家のただ一人の正統な令嬢だと判明した日

歩人
ファンタジー
メリルは、レイクハート公爵家に引き取られた「遠縁の養女」として育った。社交界に出ることも許されず、領地の治療院で病人の世話に明け暮れる日々。義姉ソフィアが王家に嫁ぐまでの「つなぎ」として第二王子の仮の婚約者に立てられても、メリルは「いずれ退く身代わり」と承知していた。 けれど治療院に通う第二王子リオネルと、メリルは本当に心を通わせてしまう。義姉ソフィアと後見人ライラは「養女が分を超えた」と激怒し、婚約を破棄してメリルを治療院ごと辺境へ追放した。 だが、辺境で疫病が広がったとき、王都は気づく。病を癒せる「聖癒」の力を持つ者が、もう一人も残っていないことに。 十八年前、ひとつの嘘があった。公爵令嬢の赤子と、後見人の娘の赤子がすり替えられていたのだ。社交界の令嬢ソフィアではなく——治療院の「養女」メリルこそが、公爵家のただ一人の正統な令嬢だった。 日陰で生きてきた手が、王国を救う。