生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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191.【ハル視点】あの日、ギルドへ

 話は少しだけ遡る。

 アキトがあの魔法を使った時、俺はもちろんアキトが助かった事を心から喜んだ。喜びが落ちついた後に頭をよぎったのは、何故よりによってアキトがこんな魔法を使えるようになるんだという思いだった。

――極めて稀ではあるが、異世界人は変わった魔法を使えるようになる事がある。

 文献にも残っているそんな情報を、俺は全く信じていなかった。そんな信憑性の薄い情報を鵜呑みにして、異世界人を囲おうとしている奴らを軽蔑すらしていた。

 そんな俺の前で、アキトは奇跡のようなあの魔法を使ってみせた。

 あの魔法を使えば未だに毒に侵されたままの俺の体を、治す事ができるかもしれない。そう考えてしまった自分がたまらなく嫌だった。

 俺はアキトの力を誰にも利用させない。もちろん、自分自身にもだ。

 服を着替えるようにアキトに声をかけた俺は、背中を向けたままそんな事をずっとぐるぐると考えていた。

「着替え終わったよ」
「うん、これで怪我をしたって分かるものは無くなったね」
「あ、気になったんだけど、破れた服って自分で縫って補修するもの?」

 軽く首を傾げて質問をしてくるアキトは、あまりにいつも通りだった。あんな命に関わるような怪我を負ったことなんて、まるで無かった事のように振る舞っている。

「自分でやる人もいるけど、自信がなければ人にも頼めるよ」
「そうなの?頼めるなら頼みたいな」

 明るいアキトの声に、ギルドに頼めば良いよと俺も出来るだけ明るく説明を続ける。

「そんな事までやってくれるなんて、冒険者ギルドすごすぎない?」
「ああ、これは多分トライプールでしかやってないと思うぞ」

 裁縫をしてくれるような知り合いのいない冒険者の声と、裁縫は得意だが冒険者に売り込むのは勇気がいるという市民の声。そんな両方の声を聞いたギルマスが、ある日突然始めた取り組みだ。ギルドが間に入る事で、気楽に頼めるし料金の事でもめる事もない。今ではすっかり人気の仕組みだ。

「ギルドでメロウに聞いたら、くわしく教えてくれるから」

 アキトはちゃんと覚えておこうと、嬉しそうに何度も頷いていた。



 ハクブーラの採取に向かうとアキトが言い出した時は、それはもう驚いたし同時に腹も立った。治ったとはいえあんな怪我をしたんだし、ゴーレムから逃げ回ったせいで体力も絶対に減っている筈だ。もっと自分を大切にして欲しい。

 俺はふうと息を吐くと、アキトの目をじっと見つめながら口を開いた。

「今回は依頼を受けてるわけじゃないんだし、あんな事があったんだ。アキトに無理はしないで欲しい…な」

 困った顔をわざと作ってそう声をかければ、優しいアキトはすぐに俺の提案を受け入れてくれた。



 クロユの森から出る時の色の変化を、アキトは想像以上に大喜びで観察していた。

 こうやって色づいていく様子に、はしゃぐアキトが見たくてここを選んだんだったな。俺は嬉しそうなアキトと会話をしながら、魔物の気配をいつも以上に警戒して進んでいった。

 これ以上アキトを危険な目に遭わせたく無い一心で進んでいけば、何の問題も無く領都に続く街道まで辿り着いた。

「南門が見えてきたよ。無事に帰ってこられたね」
「うん。ハルのおかげだね」

 いつもの俺なら流せたと思うアキトの言葉が、何だかやけに引っかかった。クロユの森に行かなければ、アキトはあんな危険な目に遭う事もなかったのに。

「いや、俺は大したことは出来なかったから」

 思わず口にしたその言葉に、アキトはむっとした顔をして口を開こうとした。気分を損ねてしまったかと思った瞬間、後ろから冒険者や旅人の一団がワイワイと近づいてきた。大門が近づいてきたから、街道にはどんどん人が増えているみたいだ。口をぱくぱくと動かしてから黙り込んだアキトに、俺はそっと声をかける。

「ごめん、変な事言ったね。今日は色々あったから、不甲斐なかったなって思っただけなんだ」

 アキトは更に不服そうな目をして俺をじろりと睨んできた。ああ、これは黒鷹亭についたら怒られてしまうかもしれないな。

「アキト、疲れてると思うけどギルドに行こう」

 そう提案したのは、決してアキトに怒られたくなかったからじゃない。さすがにあのゴーレムを野放しにはしておけないからだ。



 ギルドに辿り着いたアキトは、受付にメロウがいる事に気づくと嬉しそうに頬を緩めた。本当にアキトはメロウがお気に入りだな。

「メロウに言えば間違いなく調査が入るよ」

 アキトは小さく頷くと、メロウの前の列に並んで自分の順番を待った。

「あ、アキトさん、お疲れ様です」
「メロウさんもお疲れ様です」
「今日はどんなご用でしょうか?」
「今日は常設依頼の、アコの果実を採ってきたので買取をお願いします」
「それではこちらにどうぞ」

 アキトがギルドカードと一緒にアコの果実を取り出せば、メロウはすぐに査定に取り掛かった。

「アキト。査定が終わったら、内密に伝えたい採取地の情報があるって言って、それからゴーレムの説明を」

 俺が伝えた言葉に、アキトは一瞬だけ不思議そうな顔をみせた。

「メロウさん、その、内密に伝えたい採取地の情報があるんですけど…」

 メロウはちらりとアキトの表情を見てから、防音結界の魔道具を取り出した。すぐにこれを出してくるなんて、アキトはメロウにかなり信頼されてるみたいだな。

「今日、俺はクロユの森に行ったんですが、そこでゴーレムに会いました」
「ゴーレム…クロユの森では種類が分からないですよね?」

 何も説明せずともすぐにそんな答えが返ってくるあたり、メロウはやはり優秀だ、

「はい。でも、魔法が消されたんです」
「魔法が…という事は上級のどちらかですね…アキトさん、よくご無事で」
「ありがとうございます」

 メロウはすぐに手元にあった分厚い本をめくりだした。報告された魔物の分布を書き込んだ、報告書をまとめたもののようだ。パラパラと何ページかに目を通してから、メロウはアキトの目をまっすぐに見て口を開いた。

「今までにクロユの森でゴーレムが目撃された事はありませんから、移動してきたのかもしれませんね」

 急いで調査隊を派遣すると断言してくれたメロウは、しみじみとアキトに話しかけた。

「それにしても、上級のゴーレム相手によく逃げられましたね?」
「あーギリギリの所で縄張りから逃げられたのか…途中で追跡を止めてくれたので」
「どの辺りかお聞きしても?」

 調査隊にとってもその情報はかなり重要になる。もしもの時にその情報があれば助かる命があるからだ。メロウが聞き出そうとするのも当然だと、アキトの伺うような視線に俺は頷いて返した。

「木の葉の寝台の辺りは、ギリギリ縄張り外みたいです」
「貴重な情報をありがとうございます。情報料は調査後になりますので、しばらくお待ちくださいね」
「え、情報料とかあるんですか?」
「ありますよ」
「ゴーレムに追いかけられる人が減るかと思って、伝えただけなんですけど…」

 素直にそう口にしたアキトに、メロウは楽し気に笑っていた。
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