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192.【ハル視点】体に戻る
調査隊を出すための書類作りは、メロウですら手こずるような面倒な手続きらしい。情報提供の必要があっても、基本的には部下が行っていた。自分で手続きまでした事はなかったから、ここまで時間がかかるとは全く知らなかった。
なんでもメロウが作った複数枚に及ぶ書類をギルマスが確認して、更にそこに情報提供者の署名が入って、それでやっと調査隊が出せるらしい。
手続きの厳重さからして、過去に問題が起きた事があったんだろうな。
「書類にサインまでいるとは俺も知らなかったよ」
ここまで手続きが必要と知っていたら、俺も今日報告をしようなんて言わなかったのにな。ゴーレムからの逃走に魔法の発動。アキトは間違いなく疲れている筈なのに、待たせている事を詫びにきたメロウに笑顔まで見せている。
もし俺がアキトの立場なら、一言断ってから本でも読むと思うんだけど、そんな考えはアキトには無いみたいだ。退屈そうにきょろきょろと視線を巡らせているアキトは、このまま黙って見守っていたら眠ってしまいそうだと思った。
無防備に眠るアキトの姿を、不特定多数に見られるのは嫌だな。
勝手に独占欲を抱くなんて馬鹿みたいだと、以前の俺ならそう思っていただろう。でも、アキトは俺の事を恋愛感情で好きだと言ってくれた。それなら少しぐらい独占欲を抱いても良いんじゃないか。
そんな考えから、俺はアキトにそっと話しかけた。今日見かけた鳥の話や、ブレイズと話していた屋台飯の話、更に最近人気が出てきている話題のお店の話までいろんな事を話した。
受付から離れた場所にある椅子に座っているとはいえ、ギルドの中はどうしても人目がある。だから返事は返ってこないけれど、アキトは表情が豊かだから感情が簡単に読み取れる。結局、俺も会話を楽しんでしまった。
ギルドを出て黒鷹亭に帰り着く頃には、すっかり夜も更けていた。部屋に向かって歩くアキトの目は、今にも閉じそうな状態だった。無事にここまで帰りつけた事に、俺はそっと胸をなでおろした。
「ハル…」
何かを言いたそうに口を開いたアキトの目は、どんどん閉じていってしまう。
「今日はもう寝てしまったら良いんじゃない?」
そう声をかければ、アキトはふにゃりと笑みを浮かべてベッドに潜り込んだ。
「おやすみ、ハル」
「うん、おやすみ、アキト」
すぐにすうすうと寝息を立てだしたアキトは、幸せそうに眠っている。
今日は本当に色んな事があった。採取先では上級のゴーレムに出会ってしまったし、アキトは追いかけられて大変な目に遭った。大怪我を負ったアキトに、恋愛感情で好きだなんて嬉しい言葉を貰ってしまって、俺も慌てて告白を返したりもした。
そして何より、あの魔法だ。アキトは命に関わるようなあの大怪我を、魔法を使って綺麗に治してみせた。
俺の体は今も生きていると伝えたら、きっとアキトはあの魔法を使って俺を助けようとしてくれるだろう。アキトはそういう奴だ。きっと見返りも求めずにあの魔法を使ってしまう。
でももしアキトに、異世界人の魔法目当てで一緒にいたんだと思われたら、そう思うと柄にもなく恐怖を感じた。
俺がアキトと一緒にいたのは最初はただの心配で、気づいたら目が離せなくなっていた。一緒に旅するうちにアキトの人柄に惚れ込んで、そこからは自分の意思で一緒にいただけなのに。
それを全部否定されてしまったら、アキトに嫌われてしまったら。そう思うと自分の体の事を告げる事はできなかった。
「アキト」
思わず呼んでしまった名前に反応したのか、んと返事をしてからアキトは寝返りを打った。こちらを向いたアキトの顔に、思わず笑みがこぼれる。邪魔をしてごめんなと思いながら、そっと手を伸ばしてみる。アキトの頬を、触れられない手でそっと撫でた。
「せっかく両想いになったのに、触れる事もできないなんてな」
ぽつりとそう呟いた瞬間、激しい風が部屋の中に吹き込んできた。一体何事だと慌てて周りを見てみれば、アキトはスヤスヤと眠ったままだった。壁にかけてあったマントも、窓にかかったカーテンもぴくりとも動いていない。
俺の体だけに影響しているのかと気づいた時には、俺の体は既にふわりと空中に浮き上がっていた。この風は、明らかに俺をどこかに連れていこうとしている。風が行く先は、きっと俺の体の所だろうなと漠然とそう思った。
体に戻ってしまったら、もう一度出てくる事ができるかは分からない。アキトをここに一人で置いていく事だけが気がかりだけど、風の勢いはどんどん増していく。
「アキト、体の毒を浄化して何とか戻ってくるから、待ってて欲しい」
眠るアキトにすがるように声をかける。熟睡しているアキトにこの言葉が聞こえていない事は分かっている。それでも言わずにはいられなかった。
「好きだよ、アキト」
そう告げた瞬間、更に勢いを増した風に乗って、俺は木の葉のように空を舞った。
辿り着いた先は、俺の予想通り見慣れた騎士団本部の一室だった。昔からお世話になっているミング先生の姿が、ぐるりと回る視界の中でちらりと見えた。
のんびりと周りを観察する暇もなく、俺は自分の体へと吸い込まれていった。
なんでもメロウが作った複数枚に及ぶ書類をギルマスが確認して、更にそこに情報提供者の署名が入って、それでやっと調査隊が出せるらしい。
手続きの厳重さからして、過去に問題が起きた事があったんだろうな。
「書類にサインまでいるとは俺も知らなかったよ」
ここまで手続きが必要と知っていたら、俺も今日報告をしようなんて言わなかったのにな。ゴーレムからの逃走に魔法の発動。アキトは間違いなく疲れている筈なのに、待たせている事を詫びにきたメロウに笑顔まで見せている。
もし俺がアキトの立場なら、一言断ってから本でも読むと思うんだけど、そんな考えはアキトには無いみたいだ。退屈そうにきょろきょろと視線を巡らせているアキトは、このまま黙って見守っていたら眠ってしまいそうだと思った。
無防備に眠るアキトの姿を、不特定多数に見られるのは嫌だな。
勝手に独占欲を抱くなんて馬鹿みたいだと、以前の俺ならそう思っていただろう。でも、アキトは俺の事を恋愛感情で好きだと言ってくれた。それなら少しぐらい独占欲を抱いても良いんじゃないか。
そんな考えから、俺はアキトにそっと話しかけた。今日見かけた鳥の話や、ブレイズと話していた屋台飯の話、更に最近人気が出てきている話題のお店の話までいろんな事を話した。
受付から離れた場所にある椅子に座っているとはいえ、ギルドの中はどうしても人目がある。だから返事は返ってこないけれど、アキトは表情が豊かだから感情が簡単に読み取れる。結局、俺も会話を楽しんでしまった。
ギルドを出て黒鷹亭に帰り着く頃には、すっかり夜も更けていた。部屋に向かって歩くアキトの目は、今にも閉じそうな状態だった。無事にここまで帰りつけた事に、俺はそっと胸をなでおろした。
「ハル…」
何かを言いたそうに口を開いたアキトの目は、どんどん閉じていってしまう。
「今日はもう寝てしまったら良いんじゃない?」
そう声をかければ、アキトはふにゃりと笑みを浮かべてベッドに潜り込んだ。
「おやすみ、ハル」
「うん、おやすみ、アキト」
すぐにすうすうと寝息を立てだしたアキトは、幸せそうに眠っている。
今日は本当に色んな事があった。採取先では上級のゴーレムに出会ってしまったし、アキトは追いかけられて大変な目に遭った。大怪我を負ったアキトに、恋愛感情で好きだなんて嬉しい言葉を貰ってしまって、俺も慌てて告白を返したりもした。
そして何より、あの魔法だ。アキトは命に関わるようなあの大怪我を、魔法を使って綺麗に治してみせた。
俺の体は今も生きていると伝えたら、きっとアキトはあの魔法を使って俺を助けようとしてくれるだろう。アキトはそういう奴だ。きっと見返りも求めずにあの魔法を使ってしまう。
でももしアキトに、異世界人の魔法目当てで一緒にいたんだと思われたら、そう思うと柄にもなく恐怖を感じた。
俺がアキトと一緒にいたのは最初はただの心配で、気づいたら目が離せなくなっていた。一緒に旅するうちにアキトの人柄に惚れ込んで、そこからは自分の意思で一緒にいただけなのに。
それを全部否定されてしまったら、アキトに嫌われてしまったら。そう思うと自分の体の事を告げる事はできなかった。
「アキト」
思わず呼んでしまった名前に反応したのか、んと返事をしてからアキトは寝返りを打った。こちらを向いたアキトの顔に、思わず笑みがこぼれる。邪魔をしてごめんなと思いながら、そっと手を伸ばしてみる。アキトの頬を、触れられない手でそっと撫でた。
「せっかく両想いになったのに、触れる事もできないなんてな」
ぽつりとそう呟いた瞬間、激しい風が部屋の中に吹き込んできた。一体何事だと慌てて周りを見てみれば、アキトはスヤスヤと眠ったままだった。壁にかけてあったマントも、窓にかかったカーテンもぴくりとも動いていない。
俺の体だけに影響しているのかと気づいた時には、俺の体は既にふわりと空中に浮き上がっていた。この風は、明らかに俺をどこかに連れていこうとしている。風が行く先は、きっと俺の体の所だろうなと漠然とそう思った。
体に戻ってしまったら、もう一度出てくる事ができるかは分からない。アキトをここに一人で置いていく事だけが気がかりだけど、風の勢いはどんどん増していく。
「アキト、体の毒を浄化して何とか戻ってくるから、待ってて欲しい」
眠るアキトにすがるように声をかける。熟睡しているアキトにこの言葉が聞こえていない事は分かっている。それでも言わずにはいられなかった。
「好きだよ、アキト」
そう告げた瞬間、更に勢いを増した風に乗って、俺は木の葉のように空を舞った。
辿り着いた先は、俺の予想通り見慣れた騎士団本部の一室だった。昔からお世話になっているミング先生の姿が、ぐるりと回る視界の中でちらりと見えた。
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