生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
200 / 1,561

199.【ハル視点】アキトの目覚め

 どんどん暗くなっていく室内に魔道具の灯りを灯せば、ほっとするような温かい光が室内を照らす。ベッドの横に置かれた俺専用の椅子に座り、俺はそっとアキトの顔を覗き込んだ。

 幸せそうに眠っているアキトの顔色は、倒れた時と比べればだいぶ良くなってきている。もうすぐ起きると先生は言っていたけどなと見つめ続けていると、不意にアキトの目がうっすらと開いた。茶色がかったアキトの目が、まっすぐに俺の目を見つめてくる。

「ハル」

 小さな声がそっと俺の名前を呼んだ瞬間、こらえきれなかった涙がじわりと滲んだ。ただの魔力切れと聞いていても、もうすぐ起きると言われていても怖くて仕方が無かった。アキトが大切だから、起きなかったらどうしようとそんな事ばかり考えてしまっていたんだ。

「おはよう、アキト」
「おはよ、ハル」
「アキト、触れても良い?」

 目の前にいるアキトが本物か、どうしても触れて確かめたくなった。

「…っ!…もちろん!」

 すぐに帰ってきた言葉に、俺は恐る恐る手を伸ばした。そっとアキトの手に触れてきゅっと握りしめれば、アキトもすぐにぎゅっと握り返してくれた。

「俺いまハルに触れてる」
「ああ、俺も今、アキトに触れてるな」

 そんな普通なら当たり前の事に感動して泣いて、あまりにしまらない再会に二人して笑い合った。



 やっと触れ合えるようになった事が素直に嬉しい。何だかこのまま離れがたい気がして、俺たちは手を握り合ったまま話し始めた。

「アキト」
「ん、なに?」
「ありがとう。俺の毒を取り除いてくれて」

 きちんとお礼の言葉は伝えたけれど、表情には気持ちが出てしまっていたようだ。

「ねえ、なんでそんなに複雑そうなの?」
「だって、アキトはあの後、魔力切れで三日も寝てたんだよ…?」

 救ってもらった側がこんな事をいうのもどうかとは思うけど、アキトが目を覚ますまで三日も経っている。その間生きた心地がしなかった俺は、ついついそう口にしてしまった。アキトは怒るでも無く、驚いた顔で固まった。

「え、その日の夜かと思ってたよ」
「無理させちゃったから、手放しでは喜べないんだよ」

 結局、俺はアキトにあの魔法を使わせてしまったんだから。アキトの答えを緊張しながら待っていると、アキトは慌てた顔で声を上げた。

「あー!俺レーブンさんに連絡してない!」

 本気で心配そうな様子に肩透かしをくらった気分になりながらも、ケルビンがちゃんと伝えに言った事を伝えれば、アキトはホッと息を吐いた。

「アキトは…なんだかいつも通りだね」
「ああ、うん。いつも通りだよ」
「あんな事があったのに?」
「だってハルを助けられるなら、魔力切れくらいなんて事ないからね」

 その言葉は嬉しいけれど、もっと自分の体を大事にして欲しい。そう思うと自然に眉間にしわが寄っていた。アキトは仕方ないなと言いたげに、優しく笑った。

「もし逆の立場だったらって想像してみて?」
「は?」
「俺が意識不明で、ハルは助けられる可能性のある魔法を持っているとする。その状態で、助けたら魔力切れになるけどって言われたら、ハルならどうする?」
「魔力切れなんて気にせずに、なりふり構わずに助けるな」

 思わず即答してしまった。そんなの当たり前の事だ。

「別に自分を大切にしてないとかじゃないんだ。ただハルが大事だっただけ」

 アキトの言葉がじわじわと胸の中に染みてくる。ただ大事だったからあの魔法を使っただけか。アキトらしいというかなんというか。

「そうか…うん、ありがとう」
「どういたしまして!」

 俺たちは顔を見合わせると、自然と笑いあった。

「安心したら、何かちょっと眠くなってきた」

 アキトの目はとろんとし始めていて、今にも閉じそうな状態だっだ。

「魔力切れの後は、とにかく寝るのが一番の治療法だからね」
「そうなんだ?」
「目が覚めたって事はかなり魔力は回復してる筈だけど、まだ完璧じゃないんだよ」
「そっか」
「寝るまでここにいるからね。おやすみ、アキト」

 ぎゅっと手を握ってそう伝えれば、アキトはふにゃりと柔らかく笑ってくれた。

「おやすみ、ハル」
「ああ、良い夢を」



 目を覚ます頃には部屋に戻ってくるつもりで、アキトの眠る部屋を後にした。きっちりと鍵を閉めてから廊下を見れば、壁にもたれて俺を待っているケルビンの姿があった。

「アキトは?」
「目を覚ましたよ」

 気にはなっていたけれど、邪魔はしないように配慮したってところだろうか。

「ハロルド、お前これからどうするつもりだ?」
「まだ考えてる途中だけど、アキトを一人にするつもりは無いよ」
「はーやっぱりな」

 ある程度予想はできていたのか、ケルビンは驚いた様子もなく苦笑を洩らした。

「お前は反対するか?」
「いや、お前が副団長の頃なら絶対無理だったけど、今なら問題は少ないだろうよ」
「ありがとな、相棒」
「素直なお前なんて珍しすぎるだろ、相棒。アキトに似てきたか?」

 からかうようなケルビンの言葉に、俺はにっこりと笑みを浮かべて答えた。

「アキトに似てくるなら光栄だよ」
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。