生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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200.【ハル視点】朝の訓練

 早朝の清々しい空気の中、起きだした俺はすぐに服を着替えた。目が覚めてから数日は体を動かすのも様子を見ながらだったが、そろそろ問題なく動けそうな気がする。今日は誰かと手合わせをするのも良いかもしれないな。

「おはようございます、ハロルドさん!」
「おはようございます」

 そこかしこからかけられる声に軽く応じながら、俺は訓練場の中へと入って行った。まだ一部が手合わせや訓練をしているだけの訓練場の隅の方へ移動して、一人で体をほぐす運動を始める。ある程度体が温まった所で、今度は愛用の剣を手に素振りを始める。

 周りの視線が集まってきているのには気づいていたが、今は自分の体の調子を整えるのに忙しかった。

「ハロルド、おはよう」
「ああ、ケルビン、おはよう」

 気づけば近くに立っていたケルビンは、この図体が嘘のように気配を消すのが上手い。

「やけに静かだと思ったら、お前が来てたんだな」
「ああ、そろそろ手合わせしたいなと思ってな」

 はっきりと口に出しながら、俺は少し離れた所からこちらを見ていたミング先生の顔をちらりとみやった。苦笑しながらも止めはしないという事は、どうやら手合わせぐらいは見逃してくれるみたいだ。

「私はアキトさんの様子を見てきますね」
「お願いします」

 アキトが目を覚ますのはもう少し後の時間帯だろう。手合わせだけ終わらせてすぐにアキトの所へ向かえば、目覚めには間に合うだろう。今日の予定を考えながら、俺はケルビンに視線を向けた。

「ケルビン、相手してくれるか?」
「もちろんだ」

 珍しくも騎士団の隊服を着ていたケルビンは、上着を脱ぐと雑に地面に放り投げた。ケルビンのその仕草は本気で戦う時にしか出ないものだ。自分たちの訓練をしていた騎士達が一気に盛り上がる。

「おい、ケルビン団長とハロルド元副団長が手合わせをするぞ!」
「お二人とも、もう少しだけ待ってください!」
「手が空いてる奴らは全員呼んで来い!」

 走りに自信のある騎士が何人か飛び出していくのを、俺は苦笑しながら見送った。

「病み上がりなんだがな」
「は、気弱だな」

 結局手合わせはしばらく待って、観客が揃ってから行う事になってしまった。それぞれの訓練もあるだろうに訓練場を占領してしまって良いんだろうか。

「久しぶりの俺たち二人揃っての訓練だからなぁ」
「ああ、確かに久しぶりだが」
「お前が寝てる間に採用された騎士も何人かいるんだ」

 こっそりと小声で教えてくるケルビンに、俺は小さく首を傾げた。毎年入ってくるんだから、いて当然だと思うんだが。

「そいつらにお前の力量を見せつけてくれ」

 ああ、なるほど。俺はそいつらに舐められているって事か。それは良くないな。俺が舐められれば、アキトの事まで舐めてかかるかもしれない。アキトの能力の高さを、しっかりと見せつける場を考えないと駄目だな。

「お待たせしました!」

 距離を取って俺たちを囲んだ騎士の中に、数人の見慣れない奴が混ざっている。あの辺りが新人だろうな。

「本日も制限時間は5分です。では、はじめっ!」

 装備している愛用の剣に、そっと手を伸ばす。昨夜長い時間をかけて手入れした愛用の剣は、ぴったりと手に吸い付くように馴染んだ。剣を抜いて構えてみれば、以前よりも重く感じる事が衝撃的だった。やっぱりまだ本調子では無いみたいだな。

 駆け出した俺は一気にケルビンとの距離を詰めると、遠慮なく全力で切りかかった。ケルビン相手に手を抜いていたら、一瞬でやられてしまうからな。

「くっ!…相変わらず細いのに重い一撃だな!」
「軽々受けておいてよく言う!」

 大剣で弾かれたせいで体勢を崩してしまうと、そこに更に追撃がやってくる。俺はすぐに距離を取ると、剣で間合いを制しながら向かい合った。

「あんなに速く距離を取れるのか…」
「団長の追撃すごいもんな」
「いや、でも体勢を崩さずに逃げるとかできるか?」
「ハロルドさんは、あの団長の相棒だからなぁ」

 そんな平和な観客の声を聞きながら、俺は全力の力でケルビンの大剣に切りかかった。切り結んでしまえば有利なのは体格に優れたケルビンの方だが、どこまで耐えられるか確認したかった。ギィンという甲高い音と同時に、辺りに火花が散った。

「真向勝負とか!」
「え、あれ団長本気だよな」

 剣ごしに見やったケルビンの顔は、楽しそうに笑っている。ケルビンは本気になるほど笑うんだよな。騎士なのに笑いながら敵を倒すのはどうかと思うんだが、何度注意しても直らないこいつの癖だ。

「ハロルド、お前病み上がりじゃねぇのか!」
「三日かけて調整は終わらせた!」

 叫び返した俺はケルビンの剣を技巧だけで弾き飛ばすと、そのまま追撃を始めた。まっすぐな戦い方が得意なケルビンには、あえて予想しにくい動きで戦う方が勝率が上がる筈だ。

「なんだ、あの動き!」
「ハロルドさん、前より動きが予想しにくくなってるな」
「団長相手に追撃とか怖いな」

 幽霊の時にみた冒険者の動きを取り入れながら切りかかれば、ケルビンは更に楽しそうに笑い出した。だからその顔はやめろって言ってるのに。

「笑う騎士って噂本当だったんだな」
「ああ、団長は強敵相手ほど笑うからなぁ」

 市民どころか、騎士団員にまで引かれてるぞと思った瞬間、ケルビンは俺の攻撃を大剣をつかってあっさりとはじき返した。

「病み上がりに負けてられるかってんだ!」
「相変わらずの力押しか!」

 ケルビンの大剣は、普通の人なら持ち上げるのもやっとな程の重さがある。その大剣を木の枝でも持つかのように振り回す姿に、周りの騎士も呆然と見守っている。

「そこまでっ」

 時間切れがなければ、今日の敗者は間違いなく俺だったな。悔しい気持ちを噛み締めながら、俺は差し出された布と水を礼を言って受け取った。
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