生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
202 / 1,561

201.【ハル視点】アキトの実力

 声をかけてくれる騎士や初対面の騎士達と会話をしながら汗を拭いていると、不意に二階の窓からこちらを見ているアキトに気づいた。

「アキト!」

 思わず叫んだ俺の声に、アキトはびくりと体を揺らした。急に大声を出して驚かせてしまっただろうか。今日はもう目が覚めたのかとか、朝起きる時にいなくてごめんねとか言いたい事は沢山あったが、俺は笑顔でアキトに声をかけた。

「降りておいで、アキト!」

 周りの騎士の視線が集まっているのは少し不満だが、これも良い機会だろう。

「アキト、おはよう」
「うん、おはよう、ハル」
「よう、アキト、おはよう」
「ケルビン…団長、おはようございます」

 敬語で返したアキトの判断は騎士達に囲まれたこの状況下では正しいものだが、ケルビン的には不服だったようだ。こどもみたいな顔をするなと注意したくなってしまう。

「こちらの方は?」
「ああ、アキトは冒険者だよ」
「精霊が見える人って通り名知ってるだろ?」
「ああ」
「あの精霊が見える人か」
「華奢で可愛いな」
「冒険者って…あの体格で?」
「うわー可愛い」

 明らかに恋愛的な意味で興味がある様子の奴が、何人か混ざっているな。守ってあげたいなんて言葉まで聞こえてきて、俺はにっこりと笑みを浮かべた。

「ちなみにアキトは俺の恋人だから、そのつもりでな、お前ら」
「ええー」
「一瞬で失恋とか…」
「嘘だろ」
「ハロルド様、いつの間に!?」

 わいわいと言い合う騎士たちをちらりと見た俺は、アキトの後ろにずっと付き添ってくれていたミング先生に声をかけた。

「ミング先生、アキトは魔法を使っても良いですか?」
「ああ、問題は無いよ」
「分かりました。じゃあアキト、ちょっとだけこいつらに魔法見せてやってくれないか?」
「え?魔法を見せる?」
「アキトの魔法を見れば、こいつらもアキトのすごさが分かるからな」

 なんでそんな事をする必要があるんだって思ってるのが、表情だけでよく分かる。さすがにこの騎士団に不埒な真似をする奴はいないと信じたいが、アキトが一人でも戦える奴だときっちり証明しておいた方が良いと思ったからだ。

 ケルビンが的の用意を部下に頼んでいる方に、指だけで4つの的を遠くにと指示を出した。アキトは不思議そうだったけど、俺が言うならとあっさりと受け入れてくれた。

「準備できたぞ」

 4つの的が用意されたのは、訓練場の一番隅の辺りだ。

「え、遠すぎない?」
「さすがにあれは…弓でないと無理じゃないか?」

 そんな同情まじりの声が聞こえてくるなか、アキトは全ての声を無視して俺をじっと見上げてきた。

「ハル、指示出してくれる?」
「もちろん」

 察しの良いアキトは、的の数だけで俺の狙いを理解してくれたみたいだ。

「まずは火魔法で一番左」

 何とも雑な指示に、後ろで騎士達がそれはさすがに可愛そうだと騒ぐ声が聞こえてくる。なかには、あの距離まで届くかどうかなんて失礼な言葉まであったが、アキトの能力を知ってびっくりすれば良い。

 何の予備動作もなく、アキトは魔力を使って火の玉を浮かび上がらせた。

「無詠唱…?」

 アキトの放った魔法は、ふらふらと揺らぎながら飛んでいくと見事に的の真ん中に命中した。火魔法はやっぱり苦手なんだよな、アキトは。おおーと歓声が聞こえる中、アキトは次の魔法のための魔力を練り始める。最初の火魔法でなかなかやるなと思っただろうが、その予想の上を行くのがアキトだぞ。

「次は風魔法で一番右」

 アキトは一瞬で作り上げた風で作った刃を、すぐに的めがけて放った。しっかりと真ん中に的中した魔法に、周りはしんと静まりかえった。ひとつの魔法が無詠唱なら、それが得意魔法なのかと見ている者は思うだろう。けれどふたつめも無詠唱の場合は、話が変わってくる。そんな静けさの中、アキトはまた魔力を練り始めた。

「次は水魔法、右から二番目」

 またしても無詠唱で作られたのは、先の尖った鋭利な氷の塊だ。水を変化させて放つ事ができるのなんて、魔法使いの中でもほんの一握りな事にアキトは気づいていない。

「アキト、最後は土魔法。4つ全ての的に順番に」
「おい、いくら何でもそれは」

 アキトの魔法の腕に感心していたケルビンですら、無茶だと思ったのかそう口を挟んできた。周りの騎士たちもさすがにそれは無理だろうと止めに入って来たが、アキトは楽しそうに俺に笑い返してきた。

「問題無いです」

 アキトはそう言うなり、同時に4つのつぶてを作り上げた。無詠唱で作られた4つのつぶてに、周囲はシンと静まりかえっている。

「狙う順番は指示して良いか」
「うん、ハルが指示した順番でいくよ」
「一番左」

 きっちりと的を狙ってアキトが放つ。命中した。

「右から二番目」

 すぐに狙って礫を放つ。命中。

「右端」

 すっと狙って放つ。これも命中。

「左から二番目」

 アキトは俺の言葉にちらりと視線を向けてから悪戯っぽく笑ってみせると、最後のつぶてを大きくしてから的に向かって飛ばしてみせた。命中した的がバキッと音を立てて潰れていく。

「うん、さすがアキトだ!」

 思わず遠慮なく頭を撫でてしまったけれど、アキトは頬を赤く染めて照れ笑いを浮かべてくれた。危ない処だった。アキトが可愛すぎて、人目も気にせずに抱きしめそうになったぞ。

「…すげぇな、アキト」

 ケルビンの声に俺たちが振り返れば、我に返った騎士達の拍手が辺りに鳴り響いた。興奮した様子の周りに、アキトはまだ不思議そうな顔をしている。

「あの早さでぽんぽん魔法発動されたら怖すぎるだろ」
「しかもあの狙いの正確さ」
「うーわーハロルドさんの恋人も似た者同士かよ」
「最後の大きくしたやつびっくりした」

 うん、目的は達成できたみたいだな。

「アキト、これで騎士に手出しされる事は無いからね」
「手出しって」
「俺のアキトを口説いたりされないための牽制だよ」

 本音しかない俺の言葉に周りは呆れた顔をしていたが、アキト本人は真っ赤な顔をしたままそっと視線を反らせた。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。