生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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232.一緒にしたい事

 お店を出るとトライプールの街中は、もう夕日に照らされだしていた。俺たちが食器選びに夢中になってる間に、こんなに時間が過ぎてたんだ。でもあんなに素敵な食器セットを買えたんだから、今日の目標は達成したよな。

「ハル…」

 そろそろ帰ろうかと言うために見上げた視線の先、ハルは何故か眉を寄せしょんぼりと肩を落としていた。

「え、どうしたの?」

 さっきまであんなに嬉しそうだったのにと思わず尋ねれば、ハルはしょんぼりしたまま口を開いた。

「デートの最後に、アキトと一緒に綺麗な夕日を見たいなって思ってたのに。楽しすぎて時間の事を忘れてたんだ。気づいたらこんな時間なんて…」

 折角ならもっとデートっぽくしたかったのにと呟いたハルは、控え目に言ってもめちゃくちゃ可愛かった。普段は大人の魅力あふれる男性が、しょんぼりしながら拗ねたように言うんだから破壊力がやばい。

 もしかして俺が一人で行った、あの領主城前の広場にでも連れていってくれるつもりだったのかな。あそこの景色はすごく綺麗だったから、ハルと一緒に見れたら嬉しいとは思うけど…。

「気持ちはすごく嬉しいけど、別に今日じゃなくても良いよ!」
「…そう?」

 笑顔で言い放った俺の言葉を聞いたハルは、一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた。

 あーやってしまった。これは絶対に誤解されてるやつだ。今日のデートはアキトにとっては特別じゃないんだとか思われてるやつだよね。違うからね、そういう意味じゃないから。

 言葉が足りな過ぎたかと、俺は慌てて弁解を始めた。

「もちろん綺麗な景色も、ハルと一緒に見られたらもっと感動すると思うんだよ?」

 必死に説明し始めた俺に驚いた顔をしていたハルは、それでも真剣に耳を傾けてくれた。

「思うんだけど…ただ、何となくもったいない気もしたんだ」
「…もったいない?」
「ハルとしたいと思ってた事はいーっぱいあるんだけどね、あんまり駆け足で叶えちゃうのはもったいない気がして」

 何て言えば伝わるのか分からなくなってきたけど、このまま誤解されたままでいるのだけは絶対に嫌だ。

「だってこれからは…ハルと一緒にいられるんだし!」

 生身のハルって言いそうになったのは、ギリギリの所で何とか飲み込んだ。だって今いるここは路地とはいえ、普通にトライプールの街中だからね。どこで誰が聞いてるか分からないから何とか自重した。

「やりたい事を急いで叶えるんじゃなくて、これからゆっくり時間をかけて二人の思い出を作っていきたいから…だから今日じゃくて良いよって言ったんだ」

 これで伝わったかなと視線を上げれば、ハルは苦笑を浮かべていた。

「なるほど、そういう意味だったのか…」
「言葉足らずだったね。ごめん、ハル」
「いや、説明してくれてありがとう。そうか…うん。ゆっくり二人の思い出を作るってのは良い案だね」

 噛み締めるようにそう呟いたハルは、満面の笑みを浮かべていた。

「アキトが俺と一緒にしたかった事、ぜひ知りたいな」
「ハルが俺と一緒にしたい事も、もしあったら教えて欲しいな」
「たくさんあるよ」
「俺だってたくさんあるよ」

 自然と二人で笑い合ってから、どちらからともなく手を繋ぐ。

「じゃあ、黒鷹亭に帰ろっか?」
「ああ、帰ろう!」



 のんびりと歩いてようやく黒鷹亭に辿り着いた俺たちは、珍しく受付前に出来ていた列に驚いてしまった。

「すごい混んでるね?」
「ああ、ここの宿はやっぱり冒険者が多いからね。今ぐらいが一番混むんじゃないかな」
「あーそっか、今まではあんまりこのぐらいの時間に帰ってきた事は無かったかも」
「もう少し早いか遅いだったら、ここまで混まないだろうね」

 ハルと喋りながら列に並んでいるとたまに視線を感じるんだけど、ハルの格好良さってやっぱり冒険者にも通用しちゃうんだな。これだけ格好良いんだから仕方ないか。

「おう、おかえり。アキト、ハル」

 俺たちの順番がやってくると、レーブンさんはうっすらと笑みを浮かべて声をかけてくれた。

「ただいま帰りました、レーブンさん」
「ああ、ただいま」

 俺としては白狼亭に行ってローガンさんに会った事を報告したいんだけど、後ろにも並んでいる人がいるからさすがに今は諦めるしかなさそうだ。

「はいよ」

 手渡された鍵を受け取ると、俺はおやすみなさいと声をかけてから階段へと足を向けた。
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