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235.【ハル視点】二人の思い出を
教えてもらった店は本当に揃いの食器ばかり取り扱っていて、しかもバラ売りは絶対にしないというなかなかにこだわりがすごいお店だった。これで商売として成り立っているのか、少しだけ心配になってしまた。
「あんたらなら、どの食器も似合いそうだな」
店主はからりと笑うと、すぐに店内を案内してくれた。並んでいる商品はどれも手が込んでいるのが分かるのに、値段は相場よりもかなり安い。この質でこの値段ならかなりの穴場店だな。きちんと場所を覚えておかないと。
「冒険者用食器ならこっちだな。丈夫な素材だけを選んでるから安心してくれ」
冒険者用の食器が並んだ一角は、驚くほどの品揃えの良さだった。
「すごいな」
「冒険者用が地味なのばっかりなのが納得いかなくてな」
俺だって伴侶と揃いのが使いたかったのになかったんだと、店主は笑って教えてくれた。隅々まで棚を見て回った俺たちは、二人同時に一つの食器を指差した。
「「これだ!」」
二人の声が重なったのは、木製で温かみのある使いやすそうな食器の前だった。繊細に彫りこまれたツタの葉模様が、ぐるりと周りを一周していた。
「ああ、それは俺の伴侶が彫刻したんだよ。繊細で良い模様だろう?」
幸せそうに笑いながら、店主はそう言って笑った。
「これは皿だけですか?」
期待しながら尋ねれば、店主はすぐにニヤリと笑みを浮かべた。
「いや、こっちに来てくれ」
少し離れた場所にあった棚に近づけば、そこにはコップにスープ皿にスプーン、フォークまで一式が揃っていた。どれもあの繊細な彫刻入りで、アキトと二人で使えばきっと最高の気分になれると思った。
「全部ください」
「はいよ」
「じゃあこれで」
ギルドカードを店主に渡せば、アキトは慌てて叫んだ。
「ちょっと待って!ハル、俺も払わせて!」
「いや、いいよ」
俺が全額払うからと言ったのに、アキトは必死で食い下がってくる。
「駄目!二人の記念に買うんだから!」
「でもお皿以外を勝手に増やしたのは俺だろう」
「そんなことない!俺だって他のもあったら欲しかったから!」
店主はどこまでも平行線な俺たちの言い合いを、何故か微笑ましそうに眺めていた。
「折角の記念品なら、お互いに贈り合うのが良いんじゃないか?」
「でも…」
アキトの味方をするのかと軽く睨みつければ、店主からは苦笑が返ってきた。
「うちの伴侶もな、記念の品を一方的に贈られるのは性に合わないって言ってたよ。そこの兄ちゃんもそうなんだろうよ」
店主の言葉に、アキトはコクコクと頷いている。何だか店主の方がアキトの事を理解しているみたいで悔しいなんて、さすがに口にはできないな。
「そっか…じゃあ二人で贈り合おうか?」
「うんっ!それが良い!」
うん、折角の記念だ。お互いに贈り合うのも良いものかもしれないな。そう思うぐらい幸せそうな笑顔で、アキトは包まれていく食器を見つめていた。
お店を出ると、既にトライプールの街中は夕日に照らされていた。どうやら食器を選ぶのに夢中になり過ぎたせいで、時間の事をすっかり忘れていたみたいだ。
「ハル…え、どうしたの?」
驚いた顔で見上げてくるアキトに、俺は肩を落としたままで答えた。
「デートの最後に、アキトと一緒に綺麗な夕日を見たいなって思ってたのに。楽しすぎて時間の事を忘れてたんだ。気づいたらこんな時間なんて…」
「え…」
「折角ならもっとデートっぽくしたかったのに」
思わず漏れた本音は、あまりに年甲斐も無くみっともないものだった。急にこんな事を言われても困るよな。アキトは年上好きなんだから、もっと大人っぽく振る舞わないと駄目だっただろうか。少しだけ後悔していた俺に、アキトは淡く笑って答えた。
「気持ちはすごく嬉しいけど、別に今日じゃなくても良いよ!」
「…そう?」
ああ、そうか。今日が特別だと思っていたのは俺だけだったのか。生身のデートに浮かれすぎていたのか。そう思った瞬間、アキトは必死に説明を始めた。
「もちろん綺麗な景色も、ハルと一緒に見られたらもっと感動すると思うんだよ?」
必死に言いつのる姿に一切の嘘は無さそうだ。あまりの勢いに少し驚いたけれど、俺はアキトの話に耳を傾ける事にした。
「思うんだけど…ただ、何となくもったいない気もしたんだ」
「…もったいない?」
もったいないってどういう意味だろう。
「ハルとしたいと思ってた事はいーっぱいあるんだけどね、あんまり駆け足で叶えちゃうのはもったいない気がして」
アキトはそう言うと、ひたと俺を見上げてきた。
「だってこれからは…ハルと一緒にいられるんだし!」
キラキラした目に、吸い込まれそうな気分だ。
「やりたい事を急いで叶えるんじゃなくて、これからゆっくり時間をかけて二人の思い出を作っていきたいから…だから今日じゃくて良いよって言ったんだ」
勝手に俺が不安になっただけなのに。ここまで必死になって説明してくれるんだな。伝わったかなと不安そうなアキトを、ぎゅっと抱きしめたいとそう思った。
「なるほど、そういう意味だったのか…」
「言葉足らずだったね。ごめん、ハル」
「いや、説明してくれてありがとう。そうか…うん。ゆっくり二人の思い出を作るってのは良い案だね」
俺は少し急ぎ過ぎていたのかもしれないな。生身の自分でいられる事が夢のようで、夢から覚める前に思い出を作ろうと無意識のうちに思っていたのかもしれない。
アキトはこれからも俺と一緒にいてくれる。だから急がなくて良い…か。アキトの方が俺よりもよっぽど大人だな。
「アキトが俺と一緒にしたかった事、ぜひ知りたいな」
「ハルが俺と一緒にしたい事も、もしあったら教えて欲しいな」
「たくさんあるよ」
「俺だってたくさんあるよ」
自然と二人で笑い合ってから、どちらからともなく手を繋ぐ。
「じゃあ、黒鷹亭に帰ろっか?」
「ああ、帰ろう!」
「あんたらなら、どの食器も似合いそうだな」
店主はからりと笑うと、すぐに店内を案内してくれた。並んでいる商品はどれも手が込んでいるのが分かるのに、値段は相場よりもかなり安い。この質でこの値段ならかなりの穴場店だな。きちんと場所を覚えておかないと。
「冒険者用食器ならこっちだな。丈夫な素材だけを選んでるから安心してくれ」
冒険者用の食器が並んだ一角は、驚くほどの品揃えの良さだった。
「すごいな」
「冒険者用が地味なのばっかりなのが納得いかなくてな」
俺だって伴侶と揃いのが使いたかったのになかったんだと、店主は笑って教えてくれた。隅々まで棚を見て回った俺たちは、二人同時に一つの食器を指差した。
「「これだ!」」
二人の声が重なったのは、木製で温かみのある使いやすそうな食器の前だった。繊細に彫りこまれたツタの葉模様が、ぐるりと周りを一周していた。
「ああ、それは俺の伴侶が彫刻したんだよ。繊細で良い模様だろう?」
幸せそうに笑いながら、店主はそう言って笑った。
「これは皿だけですか?」
期待しながら尋ねれば、店主はすぐにニヤリと笑みを浮かべた。
「いや、こっちに来てくれ」
少し離れた場所にあった棚に近づけば、そこにはコップにスープ皿にスプーン、フォークまで一式が揃っていた。どれもあの繊細な彫刻入りで、アキトと二人で使えばきっと最高の気分になれると思った。
「全部ください」
「はいよ」
「じゃあこれで」
ギルドカードを店主に渡せば、アキトは慌てて叫んだ。
「ちょっと待って!ハル、俺も払わせて!」
「いや、いいよ」
俺が全額払うからと言ったのに、アキトは必死で食い下がってくる。
「駄目!二人の記念に買うんだから!」
「でもお皿以外を勝手に増やしたのは俺だろう」
「そんなことない!俺だって他のもあったら欲しかったから!」
店主はどこまでも平行線な俺たちの言い合いを、何故か微笑ましそうに眺めていた。
「折角の記念品なら、お互いに贈り合うのが良いんじゃないか?」
「でも…」
アキトの味方をするのかと軽く睨みつければ、店主からは苦笑が返ってきた。
「うちの伴侶もな、記念の品を一方的に贈られるのは性に合わないって言ってたよ。そこの兄ちゃんもそうなんだろうよ」
店主の言葉に、アキトはコクコクと頷いている。何だか店主の方がアキトの事を理解しているみたいで悔しいなんて、さすがに口にはできないな。
「そっか…じゃあ二人で贈り合おうか?」
「うんっ!それが良い!」
うん、折角の記念だ。お互いに贈り合うのも良いものかもしれないな。そう思うぐらい幸せそうな笑顔で、アキトは包まれていく食器を見つめていた。
お店を出ると、既にトライプールの街中は夕日に照らされていた。どうやら食器を選ぶのに夢中になり過ぎたせいで、時間の事をすっかり忘れていたみたいだ。
「ハル…え、どうしたの?」
驚いた顔で見上げてくるアキトに、俺は肩を落としたままで答えた。
「デートの最後に、アキトと一緒に綺麗な夕日を見たいなって思ってたのに。楽しすぎて時間の事を忘れてたんだ。気づいたらこんな時間なんて…」
「え…」
「折角ならもっとデートっぽくしたかったのに」
思わず漏れた本音は、あまりに年甲斐も無くみっともないものだった。急にこんな事を言われても困るよな。アキトは年上好きなんだから、もっと大人っぽく振る舞わないと駄目だっただろうか。少しだけ後悔していた俺に、アキトは淡く笑って答えた。
「気持ちはすごく嬉しいけど、別に今日じゃなくても良いよ!」
「…そう?」
ああ、そうか。今日が特別だと思っていたのは俺だけだったのか。生身のデートに浮かれすぎていたのか。そう思った瞬間、アキトは必死に説明を始めた。
「もちろん綺麗な景色も、ハルと一緒に見られたらもっと感動すると思うんだよ?」
必死に言いつのる姿に一切の嘘は無さそうだ。あまりの勢いに少し驚いたけれど、俺はアキトの話に耳を傾ける事にした。
「思うんだけど…ただ、何となくもったいない気もしたんだ」
「…もったいない?」
もったいないってどういう意味だろう。
「ハルとしたいと思ってた事はいーっぱいあるんだけどね、あんまり駆け足で叶えちゃうのはもったいない気がして」
アキトはそう言うと、ひたと俺を見上げてきた。
「だってこれからは…ハルと一緒にいられるんだし!」
キラキラした目に、吸い込まれそうな気分だ。
「やりたい事を急いで叶えるんじゃなくて、これからゆっくり時間をかけて二人の思い出を作っていきたいから…だから今日じゃくて良いよって言ったんだ」
勝手に俺が不安になっただけなのに。ここまで必死になって説明してくれるんだな。伝わったかなと不安そうなアキトを、ぎゅっと抱きしめたいとそう思った。
「なるほど、そういう意味だったのか…」
「言葉足らずだったね。ごめん、ハル」
「いや、説明してくれてありがとう。そうか…うん。ゆっくり二人の思い出を作るってのは良い案だね」
俺は少し急ぎ過ぎていたのかもしれないな。生身の自分でいられる事が夢のようで、夢から覚める前に思い出を作ろうと無意識のうちに思っていたのかもしれない。
アキトはこれからも俺と一緒にいてくれる。だから急がなくて良い…か。アキトの方が俺よりもよっぽど大人だな。
「アキトが俺と一緒にしたかった事、ぜひ知りたいな」
「ハルが俺と一緒にしたい事も、もしあったら教えて欲しいな」
「たくさんあるよ」
「俺だってたくさんあるよ」
自然と二人で笑い合ってから、どちらからともなく手を繋ぐ。
「じゃあ、黒鷹亭に帰ろっか?」
「ああ、帰ろう!」
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