生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
245 / 1,561

244.【ハル視点】アキトの動揺

 明らかに挙動不審なアキトは、ごまかすように慌てて口を開いた。

「俺も装備外せたよ」

 言葉通りきっちりと装備は解除してあるけれど、何故か視線が全く合わない。何かしてしまったんだろうかと自身の行動を振り返っていると、アキトはすっかり習慣になった浄化魔法をあっさりと発動した。

 何度見てもすごい魔法だと思う。無駄な魔力が一切ない完璧な発動につい見入ってしまう。

「ハル、浄化魔法って使える?」

 アキトはちらりと視線だけを向けると、そう尋ねてきた。俺にも浄化魔法をかけた方が良いか気にしてくれたんだな。

「ああ、幽霊の時は使わなかったから存在すら忘れてたけど、使えるよ」
「そうなんだ?」
「騎士団での移動中には、かなり重宝するからね」

 騎士団では必須とも言える魔法だと伝えれば、アキトは興味深そうに耳を傾けてくれた。

「そっか。じゃあハルも騎士団で覚えたんだね」
「ああ、まあアキトほど綺麗な魔法じゃないけどね」

 俺の使う魔法には呪文も必要だし、何より発動時には必ず光が漏れてしまう。必要量よりも多くの魔力を注いでしまった時にでるこの光は、どれだけ訓練をしても消す事ができなかったものだ。

 未熟な魔法を見られるのを少し恥ずかしく思いながら、俺は浄化魔法を発動した。

「終わったよ」
「俺はハルの魔法綺麗だと思うけどな」

 心からそう思っているのだと、表情を見るだけで分かった。アキトがこう言ってくれるなら、俺の魔法もそう悪いものでもないのかもしれないな。

「そう?…ありがとう」
「どういたしまして」

 いつもならアキトは装備を外して浄化魔法をかけたら、だいたいベッドに座るかそのまま寝転がってしまうかのどちらかだ。そんなアキトが、食事はいらないと言ったのにテーブルの方へと歩いていくのを俺は慌てて追いかけた。

「本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫!」

 そっと顔を覗き込んで目線を合わせれば、アキトは頬を赤く染めていた。さっきから目線が合わないのは、もしかして体調が悪いのを隠しているんだろうか。熱があるのを隠しているのかと、俺はそっと手のひらでアキトの額に触れた。熱は無いみたいだな。

「体調が悪かったりする?」
「ううん、違う」

 尋ねれば否定の言葉が返ってくるけれど、それでも目線はなかなか合わない。

「隠さないで、アキト」

 懇願するように囁けば、ふるりと体を震わせたアキトは唐突に叫んだ。

「俺が、ただハルを意識しすぎてるだけだよ…っ!」

 俺は大きく目を見開いたまま、まじまじとアキトを見つめた。俺を意識していると言ったのか?願望が聞かせた幻聴かもしれないと考えていると、駄目押しの言葉がアキトの口から飛び出した。

「防音結界まである部屋に、生身のハルと二人きりって思ったら、その、意識しちゃって…」

 言ってしまったと言いたげな顔をしたアキトを見つめていると、じわじわと幸福感が湧いてきて自然と笑みがこぼれていた。

「そっか、俺の事を意識してくれてたんだ」
「う…今は恋人同士なんだから、そういう事を想像しても、その、普通…だろ?」

 頬を真っ赤に染めたままたどたどしく続けたアキトに、俺はすぐに頷きを返した。

「ああ、もちろん普通だよ」

 ようやく恋人同士になれたアキトと防音結界ありの部屋で二人きり。俺にも当然アキトと触れ合いたい気持ちも、そのままここで抱き合いたい気持ちもある。

「俺も恋人らしい触れ合いはしたいんだけど…さすがにここでは無理かな」
「え…?」

 元々アキトの恋愛対象が同性だったと聞いた時は、元の世界に恋人を置いてきていたりするのかなと思ったのを今でもはっきりと覚えている。

 だけどアキトを見ているうちに、それは違うんじゃないかと思い始めた。

 そもそもアキトの世界では同性同士での結婚、出産はできないと言っていた。その状況下ならきっと同性の恋人を見つけるのもそう簡単じゃない。

 アキトはもしかして恋愛事に疎いんじゃないのか?

 その疑いが確信に変わったのは、生身のアキトと触れ合えるようになってからだった。ほんの軽いキスをしただけで、アキトは頬を赤く染めて照れていた。

 その時の気持ちは複雑だった。アキトの初めての恋人である嬉しさと、大事にしたいという使命感と、そして早く全てを手に入れたいという欲望が入り混じった。
 
「アキトにとって、黒鷹亭は安心できる特別な場所だよね?それを壊したくないんだ」

 そう告げたのは本心からだ。例え防音結界のおかげで聞こえないとしても、アキトはきっと下にいるレーブンを気にするだろうと思った。

「二人でどこかに旅行に行くのも良いかなと思ってるんだけど、どうかな?」

 早くアキトと触れ合いたいと思う気持ちはもちろんあるけれど、急かすつもりは一切無い。

 自分の欲望ぐらい、自分の意思でねじ伏せてみせる。アキトがアキトの意思で俺としたいと思ってくれるまで、手を出すつもりは無い。

 きっとアキトはホッとした顔をして笑ってくれると思っていた。俺への気持ちを疑ってはいないけれど、経験が無いなら緊張だってするし恐怖心もあるだろう。

 そんな予想に反して、アキトは強い意志を宿した目で俺をじっと見つめてきた。

「俺は場所なんて気にしないのに」
「え…」

 間抜けな声が自分の喉からこぼれた。

「ハルが相手なら場所なんてどこでも良いよ…抱いてくれないの?」

 耳まで真っ赤に染めたアキトの言葉を耳にした瞬間、心臓がバクバクと音を立てた。

 場所なんてどこでも良いと確かにそう言った。つまりアキトはここでも良いという事だ。しかも抱いてくれないのとまで言ってくれた。

 アキトの意思で、今、ここで抱いても良いと。

 不安そうにうつむいたアキトを、俺はぎゅっと抱きしめた。

「そんな事を言うと本気にするぞ、アキト?」

 耳元で低く囁いたのは、欲望に飲まれそうな俺の最後の抵抗だった。もしただの冗談だと言われても、今ならまだ耐えられる。

「本気だよ。ハルが好きだから…触れて欲しい」

 かすれた声で告げられた返事に、胸がしめつけられる。

「アキト、俺も好きだ」
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。