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244.【ハル視点】アキトの動揺
明らかに挙動不審なアキトは、ごまかすように慌てて口を開いた。
「俺も装備外せたよ」
言葉通りきっちりと装備は解除してあるけれど、何故か視線が全く合わない。何かしてしまったんだろうかと自身の行動を振り返っていると、アキトはすっかり習慣になった浄化魔法をあっさりと発動した。
何度見てもすごい魔法だと思う。無駄な魔力が一切ない完璧な発動につい見入ってしまう。
「ハル、浄化魔法って使える?」
アキトはちらりと視線だけを向けると、そう尋ねてきた。俺にも浄化魔法をかけた方が良いか気にしてくれたんだな。
「ああ、幽霊の時は使わなかったから存在すら忘れてたけど、使えるよ」
「そうなんだ?」
「騎士団での移動中には、かなり重宝するからね」
騎士団では必須とも言える魔法だと伝えれば、アキトは興味深そうに耳を傾けてくれた。
「そっか。じゃあハルも騎士団で覚えたんだね」
「ああ、まあアキトほど綺麗な魔法じゃないけどね」
俺の使う魔法には呪文も必要だし、何より発動時には必ず光が漏れてしまう。必要量よりも多くの魔力を注いでしまった時にでるこの光は、どれだけ訓練をしても消す事ができなかったものだ。
未熟な魔法を見られるのを少し恥ずかしく思いながら、俺は浄化魔法を発動した。
「終わったよ」
「俺はハルの魔法綺麗だと思うけどな」
心からそう思っているのだと、表情を見るだけで分かった。アキトがこう言ってくれるなら、俺の魔法もそう悪いものでもないのかもしれないな。
「そう?…ありがとう」
「どういたしまして」
いつもならアキトは装備を外して浄化魔法をかけたら、だいたいベッドに座るかそのまま寝転がってしまうかのどちらかだ。そんなアキトが、食事はいらないと言ったのにテーブルの方へと歩いていくのを俺は慌てて追いかけた。
「本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫!」
そっと顔を覗き込んで目線を合わせれば、アキトは頬を赤く染めていた。さっきから目線が合わないのは、もしかして体調が悪いのを隠しているんだろうか。熱があるのを隠しているのかと、俺はそっと手のひらでアキトの額に触れた。熱は無いみたいだな。
「体調が悪かったりする?」
「ううん、違う」
尋ねれば否定の言葉が返ってくるけれど、それでも目線はなかなか合わない。
「隠さないで、アキト」
懇願するように囁けば、ふるりと体を震わせたアキトは唐突に叫んだ。
「俺が、ただハルを意識しすぎてるだけだよ…っ!」
俺は大きく目を見開いたまま、まじまじとアキトを見つめた。俺を意識していると言ったのか?願望が聞かせた幻聴かもしれないと考えていると、駄目押しの言葉がアキトの口から飛び出した。
「防音結界まである部屋に、生身のハルと二人きりって思ったら、その、意識しちゃって…」
言ってしまったと言いたげな顔をしたアキトを見つめていると、じわじわと幸福感が湧いてきて自然と笑みがこぼれていた。
「そっか、俺の事を意識してくれてたんだ」
「う…今は恋人同士なんだから、そういう事を想像しても、その、普通…だろ?」
頬を真っ赤に染めたままたどたどしく続けたアキトに、俺はすぐに頷きを返した。
「ああ、もちろん普通だよ」
ようやく恋人同士になれたアキトと防音結界ありの部屋で二人きり。俺にも当然アキトと触れ合いたい気持ちも、そのままここで抱き合いたい気持ちもある。
「俺も恋人らしい触れ合いはしたいんだけど…さすがにここでは無理かな」
「え…?」
元々アキトの恋愛対象が同性だったと聞いた時は、元の世界に恋人を置いてきていたりするのかなと思ったのを今でもはっきりと覚えている。
だけどアキトを見ているうちに、それは違うんじゃないかと思い始めた。
そもそもアキトの世界では同性同士での結婚、出産はできないと言っていた。その状況下ならきっと同性の恋人を見つけるのもそう簡単じゃない。
アキトはもしかして恋愛事に疎いんじゃないのか?
その疑いが確信に変わったのは、生身のアキトと触れ合えるようになってからだった。ほんの軽いキスをしただけで、アキトは頬を赤く染めて照れていた。
その時の気持ちは複雑だった。アキトの初めての恋人である嬉しさと、大事にしたいという使命感と、そして早く全てを手に入れたいという欲望が入り混じった。
「アキトにとって、黒鷹亭は安心できる特別な場所だよね?それを壊したくないんだ」
そう告げたのは本心からだ。例え防音結界のおかげで聞こえないとしても、アキトはきっと下にいるレーブンを気にするだろうと思った。
「二人でどこかに旅行に行くのも良いかなと思ってるんだけど、どうかな?」
早くアキトと触れ合いたいと思う気持ちはもちろんあるけれど、急かすつもりは一切無い。
自分の欲望ぐらい、自分の意思でねじ伏せてみせる。アキトがアキトの意思で俺としたいと思ってくれるまで、手を出すつもりは無い。
きっとアキトはホッとした顔をして笑ってくれると思っていた。俺への気持ちを疑ってはいないけれど、経験が無いなら緊張だってするし恐怖心もあるだろう。
そんな予想に反して、アキトは強い意志を宿した目で俺をじっと見つめてきた。
「俺は場所なんて気にしないのに」
「え…」
間抜けな声が自分の喉からこぼれた。
「ハルが相手なら場所なんてどこでも良いよ…抱いてくれないの?」
耳まで真っ赤に染めたアキトの言葉を耳にした瞬間、心臓がバクバクと音を立てた。
場所なんてどこでも良いと確かにそう言った。つまりアキトはここでも良いという事だ。しかも抱いてくれないのとまで言ってくれた。
アキトの意思で、今、ここで抱いても良いと。
不安そうにうつむいたアキトを、俺はぎゅっと抱きしめた。
「そんな事を言うと本気にするぞ、アキト?」
耳元で低く囁いたのは、欲望に飲まれそうな俺の最後の抵抗だった。もしただの冗談だと言われても、今ならまだ耐えられる。
「本気だよ。ハルが好きだから…触れて欲しい」
かすれた声で告げられた返事に、胸がしめつけられる。
「アキト、俺も好きだ」
「俺も装備外せたよ」
言葉通りきっちりと装備は解除してあるけれど、何故か視線が全く合わない。何かしてしまったんだろうかと自身の行動を振り返っていると、アキトはすっかり習慣になった浄化魔法をあっさりと発動した。
何度見てもすごい魔法だと思う。無駄な魔力が一切ない完璧な発動につい見入ってしまう。
「ハル、浄化魔法って使える?」
アキトはちらりと視線だけを向けると、そう尋ねてきた。俺にも浄化魔法をかけた方が良いか気にしてくれたんだな。
「ああ、幽霊の時は使わなかったから存在すら忘れてたけど、使えるよ」
「そうなんだ?」
「騎士団での移動中には、かなり重宝するからね」
騎士団では必須とも言える魔法だと伝えれば、アキトは興味深そうに耳を傾けてくれた。
「そっか。じゃあハルも騎士団で覚えたんだね」
「ああ、まあアキトほど綺麗な魔法じゃないけどね」
俺の使う魔法には呪文も必要だし、何より発動時には必ず光が漏れてしまう。必要量よりも多くの魔力を注いでしまった時にでるこの光は、どれだけ訓練をしても消す事ができなかったものだ。
未熟な魔法を見られるのを少し恥ずかしく思いながら、俺は浄化魔法を発動した。
「終わったよ」
「俺はハルの魔法綺麗だと思うけどな」
心からそう思っているのだと、表情を見るだけで分かった。アキトがこう言ってくれるなら、俺の魔法もそう悪いものでもないのかもしれないな。
「そう?…ありがとう」
「どういたしまして」
いつもならアキトは装備を外して浄化魔法をかけたら、だいたいベッドに座るかそのまま寝転がってしまうかのどちらかだ。そんなアキトが、食事はいらないと言ったのにテーブルの方へと歩いていくのを俺は慌てて追いかけた。
「本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫!」
そっと顔を覗き込んで目線を合わせれば、アキトは頬を赤く染めていた。さっきから目線が合わないのは、もしかして体調が悪いのを隠しているんだろうか。熱があるのを隠しているのかと、俺はそっと手のひらでアキトの額に触れた。熱は無いみたいだな。
「体調が悪かったりする?」
「ううん、違う」
尋ねれば否定の言葉が返ってくるけれど、それでも目線はなかなか合わない。
「隠さないで、アキト」
懇願するように囁けば、ふるりと体を震わせたアキトは唐突に叫んだ。
「俺が、ただハルを意識しすぎてるだけだよ…っ!」
俺は大きく目を見開いたまま、まじまじとアキトを見つめた。俺を意識していると言ったのか?願望が聞かせた幻聴かもしれないと考えていると、駄目押しの言葉がアキトの口から飛び出した。
「防音結界まである部屋に、生身のハルと二人きりって思ったら、その、意識しちゃって…」
言ってしまったと言いたげな顔をしたアキトを見つめていると、じわじわと幸福感が湧いてきて自然と笑みがこぼれていた。
「そっか、俺の事を意識してくれてたんだ」
「う…今は恋人同士なんだから、そういう事を想像しても、その、普通…だろ?」
頬を真っ赤に染めたままたどたどしく続けたアキトに、俺はすぐに頷きを返した。
「ああ、もちろん普通だよ」
ようやく恋人同士になれたアキトと防音結界ありの部屋で二人きり。俺にも当然アキトと触れ合いたい気持ちも、そのままここで抱き合いたい気持ちもある。
「俺も恋人らしい触れ合いはしたいんだけど…さすがにここでは無理かな」
「え…?」
元々アキトの恋愛対象が同性だったと聞いた時は、元の世界に恋人を置いてきていたりするのかなと思ったのを今でもはっきりと覚えている。
だけどアキトを見ているうちに、それは違うんじゃないかと思い始めた。
そもそもアキトの世界では同性同士での結婚、出産はできないと言っていた。その状況下ならきっと同性の恋人を見つけるのもそう簡単じゃない。
アキトはもしかして恋愛事に疎いんじゃないのか?
その疑いが確信に変わったのは、生身のアキトと触れ合えるようになってからだった。ほんの軽いキスをしただけで、アキトは頬を赤く染めて照れていた。
その時の気持ちは複雑だった。アキトの初めての恋人である嬉しさと、大事にしたいという使命感と、そして早く全てを手に入れたいという欲望が入り混じった。
「アキトにとって、黒鷹亭は安心できる特別な場所だよね?それを壊したくないんだ」
そう告げたのは本心からだ。例え防音結界のおかげで聞こえないとしても、アキトはきっと下にいるレーブンを気にするだろうと思った。
「二人でどこかに旅行に行くのも良いかなと思ってるんだけど、どうかな?」
早くアキトと触れ合いたいと思う気持ちはもちろんあるけれど、急かすつもりは一切無い。
自分の欲望ぐらい、自分の意思でねじ伏せてみせる。アキトがアキトの意思で俺としたいと思ってくれるまで、手を出すつもりは無い。
きっとアキトはホッとした顔をして笑ってくれると思っていた。俺への気持ちを疑ってはいないけれど、経験が無いなら緊張だってするし恐怖心もあるだろう。
そんな予想に反して、アキトは強い意志を宿した目で俺をじっと見つめてきた。
「俺は場所なんて気にしないのに」
「え…」
間抜けな声が自分の喉からこぼれた。
「ハルが相手なら場所なんてどこでも良いよ…抱いてくれないの?」
耳まで真っ赤に染めたアキトの言葉を耳にした瞬間、心臓がバクバクと音を立てた。
場所なんてどこでも良いと確かにそう言った。つまりアキトはここでも良いという事だ。しかも抱いてくれないのとまで言ってくれた。
アキトの意思で、今、ここで抱いても良いと。
不安そうにうつむいたアキトを、俺はぎゅっと抱きしめた。
「そんな事を言うと本気にするぞ、アキト?」
耳元で低く囁いたのは、欲望に飲まれそうな俺の最後の抵抗だった。もしただの冗談だと言われても、今ならまだ耐えられる。
「本気だよ。ハルが好きだから…触れて欲しい」
かすれた声で告げられた返事に、胸がしめつけられる。
「アキト、俺も好きだ」
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