生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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252.コノーア草原への小道

 トライプール南門の前は、今日もたくさんの人で溢れていた。街の外へ向かう冒険者達やたくさんの荷物を抱えた旅人達、忙しそうに行き来する商人達、更には広場に買い物に来ている住民達の姿もある。

 ハルが幽霊だった頃なら憂鬱になってたかもしれないけど、今は人が多くても全く問題は無い。俺は笑顔で隣を歩くハルを見上げた。。

「やっぱり大門は人が多いねー」
「ああ、多いね。これは市場に負けないぐらいの混み具合だね」

 のんびりと会話をしながら待っていれば、門から出るための時間ぐらいあっという間に過ぎていった。



 南門から出て最初に思った事は、『暑い』だった。ずっと陰にいたから気づいてなかったけど、今日は日差しも強いみたいだ。ちゃんと水分補給しないとバテるかもしれないから気をつけよう。考えながら歩いていると、不意にハルが俺の袖をつんと引っ張った。

「アキト、こっちだよ」
「あれ?こっち?あっちじゃなくて?」

 はっきり鮮明に覚えてるわけじゃないけど、キニーアの森に続いている小道はあっちだと思ってた。小道を指差しながら素直にそう尋ねれば、よく覚えていたねと嬉しそうに褒められてしまった。

「キニーアの森はあっちであってるんだけど、コノーア草原に直通はこっちの道なんだ」
「へーそうなんだ」

 ハルが教えてくれた小道に足を踏み入れると、道沿いの木々のおかげで日差しが遮られた。日陰ってだけで体感温度が違うなと感動していたら、サァァッと風が吹き抜けていく。

「わぁ!ここ風が通って涼しいね、ハル!」
「暑い時期には良いよね」

 この涼しさに驚いた様子が一切無いって事は、もしかして暑さまで考えて依頼を選んでくれてたりするんだろうか。ハルならあり得そうだよね。指摘しても誤魔化されそうだからあえて聞かないけど。

 冒険者ギルドで見せてもらった依頼票を思いだしながら、俺は隣を歩くハルに声をかけた。

「今日の依頼はレボネの花の採取と、ベルブランカ草の採取だったけ?」
「うん、どっちもⅭ級の素材だよ」

 図鑑は採取地についてからねと前置きをしたハルは、流れるように素材の説明をしてくれた。この知識量はやっぱり見習わないと駄目だよな。

 ハルによるとレボネの花は名前こそ花だけど、見た目はただの葉っぱにしか見えないんだそうだ。特に切り傷に効果がある薬草で、塗り薬型のポーションに加工されるものなんだって。

 一方ベルブランカ草は、小さな白いお花がいくつか鈴のようにぶら下がってる植物なんだって。俺の頭の中ではすずらんの花が思い浮かんでるんだけど、それとは全然違う物なんだろうか。ベルブランカ草は乾燥させてお茶にするのが、一部の貴族の間で流行中だそうだ。

「草みたいな花かー面白いね」
「見分けるのは結構大変だけど、その分報酬も良いよ」

 そんな事をのんびりと歩きながら話していると、不意に後ろから駆けてくる足音がいくつか聞こえた。びっくりして振り返ろうとした時には、既にハルが動いていた。

「アキト」

 ぐいっと唐突に肩を引き寄せられた俺は、抗う事も出来ずにハルの体にぽすんとぶつかった。ハルは少しも揺らぐ事なく俺を抱きとめると、そのままくるりと体をひねった。

 俺の真横を駆け抜けていったのは、三人の冒険者らしき男たちだった。

「おい、気を付けろ!」

 ハルの喉から出た威嚇するような低音での叫びに、俺はビクリと体を揺らした。決してハルが怖かったわけじゃない。さらりとかばう仕草とか威嚇するような低音が、格好良すぎて震えただけだ。

 ハルの叫びが聞こえたのか、冒険者たちは慌てた様子で立ち止まると振り返った。

「悪い!急いでるんだ!」
「すまん」
「悪いな、兄ちゃんら!」

 素直に謝罪の言葉を口にした三人は、慌てた様子でまた走り出す。

「全く…アキト、怪我は無い?」

 柔らかい笑顔で優しく聞かれた俺は、殺気すら出ていた極低音とのギャップに倒れそうになりながらもこくりと頷いた。

「ハルが庇ってくれたから…」
「それは良かった」

 姿勢を崩して抱き着いたままだった俺は、慌てて距離を取ると意味も無く服をパタパタと叩いた。俺の恋人が格好良すぎて、どうしたら良いか分からない。

「たまにああいう冒険者もいるんだ」
「急いでたんだね」
「依頼が今日までとかなんだろうけど…小道であの速度は危険すぎる」

 まだ怒ってるのか、ハルは不服そうに遥か遠くに見える三人の背中をじろりと睨みつけた。あー、怒って睨んだ顔まで格好良いとかすごい。何してても格好良いんだな、ハルは。

「俺たちは時間もあるし、ゆっくり行こうよ」

 見上げたハルにわざと明るく笑いかければ、ふうと息を吐いたハルは肩の力を抜いてくれた。

「それもそうだね。折角アキトと二人きりなのに怒ってるのも馬鹿らしいし」

 怒りを消してくれたのは良いんだけど、不意打ちで殺し文句を挟むのは止めて欲しい。

「あれ?どうかした?」
「な、なんでも無い!」

 俺は熱い頬を手のひらで扇ぎながら、前を向いて歩き出した。
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