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256.【ハル視点】人生で一番幸せな朝
不意に目を覚ました俺はうっすらと目を開いた。朝の光に照らせれた部屋の中、最初に目に入ったのはこちらを向いて眠っているアキトの幸せそうな寝顔だった。
昨日はアキトの可愛さと健気さ、それに俺の全てを受け入れようとしてくれる格好良さにやられて、かなり無理をさせてしまった。暴走した自覚はもちろんある。ただあれだけ魅力的な恋人を前に我慢なんてできなかった。
同じベッドで眠りたいと思ったけれど。手を出さない自信が無かったから昨日は何とか我慢した。急ぐ必要は無いだろう。それはまたいつか達成すれば良いだけだ。
そんな事を考えている俺の前で、んーと声を洩らすとアキトはくるりと寝返りを打った。顔が見えなくなってしまったのは少しだけ残念だけど、朝の光に照らされたアキトの黒髪は艶やかでついつい見惚れてしまう。
今日の予定はまだ決まってはいないんだし、アキトが目を覚ますまで二度寝しようかな。
俺はアキトの寝息を聞きつつそっと目をつむった。こんなに幸せな朝は今まで生きてきて初めてだなと思いながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
次に目が覚めた時もまだアキトは眠っていた。起こすべきかどうか考えていると、不意にアキトが飛び起きた。
「あ、アキト、起きた?」
「あ、ハル…おは」
振り返りながらの言葉は、途中でぴたりと止まってしまった。ボッと頬が赤くなったのは、俺のこの恰好のせいだろうか。そういえばアキトにはきっちり服を着せたのに、自分は面倒で着なかったんだったな。俺は笑顔で誤魔化すとアキトに声をかけた。
「おはよう、アキト」
「ハル、おはよ…」
「体の調子はどう?」
思わず尋ねた俺に、アキトはぐいっと伸びをしてから立ち上がった。数歩部屋の中を歩いてみてから、不思議そうに俺を見つめてくる。
「痛みも違和感も一切無いんだけど…なんで?」
「ああ、昨日の内に回復ポーションを飲んでもらったからね」
「え、ありがとう、ハル」
「どういたしまして」
微妙に視線が合わないのが面白くないから、早く服を着るべきなんだろうな。自分の鞄から服を取り出すと、俺はアキトに背中を向けてその場で着替え始めた。
アキトも着替える事にしたのか、真後ろからごそごそと音がし始める。そちらを見ないように気を付けないと、朝から襲ってしまいそうだ。あれだけ発散したのにアキト相手だとまだまだできそうな自分に苦笑が漏れる。
「ハル、服もありがとね」
律儀にお礼を言ってくれるアキトに、俺は背中を向けたまま答えた。
「ああ、どういたしまして。着せるかどうかはちょっと悩んだんだけど、寝起きにアキトの裸を見て我慢できる気がしなかったから着せたんだ」
「う…」
アキトの呻くような声に、俺は慌てて口を開く。
「ごめん、別に揶揄うつもりとかは無いんだけど………ちょっと浮かれてるんだ」
そう俺は今、間違いなく浮かれている。だって世界がこんなにも輝いて見えるんだからな。
「アキト、怒った?」
「怒ってないよ」
「…着替え終わった?」
本当に怒ってないのか顔が見たい。
「まだ!ちょっと待って!」
そう叫んだアキトは、どうやら大急ぎで着替えてくれているみたいだ。バサバサと音がするのを、大人しく背中を向けたままで待つ。
「着替え終わったよ」
アキトの声に、俺はゆっくりと振り返った。照れくさそうな笑顔を浮かべたアキトは、本当に怒っている様子は無かった。思わずホッと安堵の息を洩らす。
「揶揄ってごめんね」
「本当に怒ってないから。大丈夫だからね」
俺の不安を感じ取ったのかしっかりと主張してくれるアキトに、どうしても触れたくてたまらなくなった。そっと近づき、額に口づけを贈ればアキトはあわあわと頬を赤く染めた。
ああ、このまま深く深く口づけて、後ろのベッドに押し倒したい。
そんな衝動をねじ伏せて、俺はすっとアキトとの距離を取った。
「朝ごはんは食堂に行こうか?」
何でも無いように声をかければ、アキトはすぐに答えてくれた。
「うん、レーブンさんのご飯食べたい!」
「じゃあ下に行こうか」
手を繋ぐぐらいは許されるかなと差し出した手を、アキトは笑顔で握り返してくれた。
下りていった食堂は、ちょうど一番混雑する時間帯だった。レーブンと話す事はできなかったけれど、アキトは久々のレーブンの作った食事を幸せそうに平らげた。
食事を終えて部屋に戻ると、俺は騎士団員からもらった果実水をアキトに手渡した。甘酸っぱい果実の風味にふわりと花の香りが香るこの果実水は、俺が眠っている間に流行したものらしい。恋人たちに人気だからともらった餞別だ。
向かい合って座ったアキトは、どうやら気に入ったみたいだ。
「今日はどうする?」
「うーん…依頼受けたいなーハルはどう思う?」
俺をちらりと見つめて聞いてくるアキトに、俺は笑顔を返した。
「体調が大丈夫なら俺は文句は無いよ」
「体調は問題ないよ。むしろ普段よりも元気な気がする」
「じゃあ、依頼を受ける前にパーティー登録しに行こうか?」
「うんっ!」
嬉しそうなアキトには言い難いけれど、ギルドに行く前にこれだけは伝えておかないと駄目だと俺は慌てて口を開いた。
「ただ一つだけ問題があるんだ…」
そう切り出せば、アキトはきょとんと俺を見つめてきた。びっくりした顔まで可愛いってどういう事だ。
「ギルマスとメロウにはアキトの体質については手紙で伝えてあるんだけど――捕まると長くなるかもしれない」
あの二人には騎士団から手紙を出し、アキトの体質も俺が幽霊だった事もきっちりと伝えてある。特にメロウは鋭いから、下手に隠すよりも話した方が安全だと判断したからだ。
アキトは軽く首を傾げて、向かいに座った俺を見つめた。
「長くなるってどういう意味?」
「もしかしたら追加で口頭説明を求められるかもって意味だよ。もしメロウがいたら、長くなるかもしれないと思っておいて」
最悪、今日は依頼は受けられないかもしれないと、俺は深刻な顔で告げた。
「気にしないで。今日の目標はパーティー登録だけでも良いから」
「そう?」
「うん、ハルとパーティー組めるの嬉しいから、それだけでも良いんだ」
「アキト…」
こういう時に素直に自分の感情を伝えてくれるのは、アキトの良い所だな。俺はアキトを見つめながらゆっくりと微笑んだ。ああ、このままキスをしてパーティー登録は明日にしようと言いたくなる。
そんな事を考えていると、アキトは慌てた様子で果実水を飲み干すと立ち上がった。俺のよこしまな考えが分かってしまったんだろうか。
「じゃあそろそろ出発しよっか」
「ああ、行こう」
また手を繋いで、俺たちは冒険者ギルドを目指して黒鷹亭を後にした。
昨日はアキトの可愛さと健気さ、それに俺の全てを受け入れようとしてくれる格好良さにやられて、かなり無理をさせてしまった。暴走した自覚はもちろんある。ただあれだけ魅力的な恋人を前に我慢なんてできなかった。
同じベッドで眠りたいと思ったけれど。手を出さない自信が無かったから昨日は何とか我慢した。急ぐ必要は無いだろう。それはまたいつか達成すれば良いだけだ。
そんな事を考えている俺の前で、んーと声を洩らすとアキトはくるりと寝返りを打った。顔が見えなくなってしまったのは少しだけ残念だけど、朝の光に照らされたアキトの黒髪は艶やかでついつい見惚れてしまう。
今日の予定はまだ決まってはいないんだし、アキトが目を覚ますまで二度寝しようかな。
俺はアキトの寝息を聞きつつそっと目をつむった。こんなに幸せな朝は今まで生きてきて初めてだなと思いながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
次に目が覚めた時もまだアキトは眠っていた。起こすべきかどうか考えていると、不意にアキトが飛び起きた。
「あ、アキト、起きた?」
「あ、ハル…おは」
振り返りながらの言葉は、途中でぴたりと止まってしまった。ボッと頬が赤くなったのは、俺のこの恰好のせいだろうか。そういえばアキトにはきっちり服を着せたのに、自分は面倒で着なかったんだったな。俺は笑顔で誤魔化すとアキトに声をかけた。
「おはよう、アキト」
「ハル、おはよ…」
「体の調子はどう?」
思わず尋ねた俺に、アキトはぐいっと伸びをしてから立ち上がった。数歩部屋の中を歩いてみてから、不思議そうに俺を見つめてくる。
「痛みも違和感も一切無いんだけど…なんで?」
「ああ、昨日の内に回復ポーションを飲んでもらったからね」
「え、ありがとう、ハル」
「どういたしまして」
微妙に視線が合わないのが面白くないから、早く服を着るべきなんだろうな。自分の鞄から服を取り出すと、俺はアキトに背中を向けてその場で着替え始めた。
アキトも着替える事にしたのか、真後ろからごそごそと音がし始める。そちらを見ないように気を付けないと、朝から襲ってしまいそうだ。あれだけ発散したのにアキト相手だとまだまだできそうな自分に苦笑が漏れる。
「ハル、服もありがとね」
律儀にお礼を言ってくれるアキトに、俺は背中を向けたまま答えた。
「ああ、どういたしまして。着せるかどうかはちょっと悩んだんだけど、寝起きにアキトの裸を見て我慢できる気がしなかったから着せたんだ」
「う…」
アキトの呻くような声に、俺は慌てて口を開く。
「ごめん、別に揶揄うつもりとかは無いんだけど………ちょっと浮かれてるんだ」
そう俺は今、間違いなく浮かれている。だって世界がこんなにも輝いて見えるんだからな。
「アキト、怒った?」
「怒ってないよ」
「…着替え終わった?」
本当に怒ってないのか顔が見たい。
「まだ!ちょっと待って!」
そう叫んだアキトは、どうやら大急ぎで着替えてくれているみたいだ。バサバサと音がするのを、大人しく背中を向けたままで待つ。
「着替え終わったよ」
アキトの声に、俺はゆっくりと振り返った。照れくさそうな笑顔を浮かべたアキトは、本当に怒っている様子は無かった。思わずホッと安堵の息を洩らす。
「揶揄ってごめんね」
「本当に怒ってないから。大丈夫だからね」
俺の不安を感じ取ったのかしっかりと主張してくれるアキトに、どうしても触れたくてたまらなくなった。そっと近づき、額に口づけを贈ればアキトはあわあわと頬を赤く染めた。
ああ、このまま深く深く口づけて、後ろのベッドに押し倒したい。
そんな衝動をねじ伏せて、俺はすっとアキトとの距離を取った。
「朝ごはんは食堂に行こうか?」
何でも無いように声をかければ、アキトはすぐに答えてくれた。
「うん、レーブンさんのご飯食べたい!」
「じゃあ下に行こうか」
手を繋ぐぐらいは許されるかなと差し出した手を、アキトは笑顔で握り返してくれた。
下りていった食堂は、ちょうど一番混雑する時間帯だった。レーブンと話す事はできなかったけれど、アキトは久々のレーブンの作った食事を幸せそうに平らげた。
食事を終えて部屋に戻ると、俺は騎士団員からもらった果実水をアキトに手渡した。甘酸っぱい果実の風味にふわりと花の香りが香るこの果実水は、俺が眠っている間に流行したものらしい。恋人たちに人気だからともらった餞別だ。
向かい合って座ったアキトは、どうやら気に入ったみたいだ。
「今日はどうする?」
「うーん…依頼受けたいなーハルはどう思う?」
俺をちらりと見つめて聞いてくるアキトに、俺は笑顔を返した。
「体調が大丈夫なら俺は文句は無いよ」
「体調は問題ないよ。むしろ普段よりも元気な気がする」
「じゃあ、依頼を受ける前にパーティー登録しに行こうか?」
「うんっ!」
嬉しそうなアキトには言い難いけれど、ギルドに行く前にこれだけは伝えておかないと駄目だと俺は慌てて口を開いた。
「ただ一つだけ問題があるんだ…」
そう切り出せば、アキトはきょとんと俺を見つめてきた。びっくりした顔まで可愛いってどういう事だ。
「ギルマスとメロウにはアキトの体質については手紙で伝えてあるんだけど――捕まると長くなるかもしれない」
あの二人には騎士団から手紙を出し、アキトの体質も俺が幽霊だった事もきっちりと伝えてある。特にメロウは鋭いから、下手に隠すよりも話した方が安全だと判断したからだ。
アキトは軽く首を傾げて、向かいに座った俺を見つめた。
「長くなるってどういう意味?」
「もしかしたら追加で口頭説明を求められるかもって意味だよ。もしメロウがいたら、長くなるかもしれないと思っておいて」
最悪、今日は依頼は受けられないかもしれないと、俺は深刻な顔で告げた。
「気にしないで。今日の目標はパーティー登録だけでも良いから」
「そう?」
「うん、ハルとパーティー組めるの嬉しいから、それだけでも良いんだ」
「アキト…」
こういう時に素直に自分の感情を伝えてくれるのは、アキトの良い所だな。俺はアキトを見つめながらゆっくりと微笑んだ。ああ、このままキスをしてパーティー登録は明日にしようと言いたくなる。
そんな事を考えていると、アキトは慌てた様子で果実水を飲み干すと立ち上がった。俺のよこしまな考えが分かってしまったんだろうか。
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