生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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257.【ハル視点】パーティー登録完了

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 ギルドの中に一歩入れば、今日もいつも通りの喧噪だった。仕事前に軽く飲みたいという酒好き達の注文が、ぽんぽんと飛び交っている。

 最初はあんなに怯えていたのに、アキトもすっかり慣れたみたいだな。ちらりと酒場を一瞥しただけで、アキトは受付を目指して歩き出した。

 受付ブースはもちろん、受付の背後にある書類仕事のための場所にもメロウの姿は無かった。

「メロウはいないみたいだな」

 ギルマスは用が無い限り滅多に下りてこないから、メロウがいなければ捕まる心配は無いだろう。俺は上機嫌で、近くにいたギルド職員に声をかけた。

「すみません。パーティー登録をしたいんですが…」
「こちらにお座り下さい。パーティー登録はお二人でよろしいですか?」
「はい、二人です」
「ではギルドカードを預かりしますね」

 てきぱきと手続きを始めてくれた職員に、俺たちは揃ってギルドカードを差し出した。

「「お願いします」」
「はい」

 にっこりと笑って二枚のギルドカードを受け取った職員は、メロウにも負けない程の速度で書類の空欄を埋めていった。ここの受付はいつも仕事が速いが、それにしてもすごい速度だ。感心しながら見つめていると、職員はすぐに魔道具を見せてきた。

「こちらの内容で間違いは無いでしょうか?」

 Cランク 前衛 戦士/ハル
 Dランク 後衛 魔法使い/アキト

 アキトは魔道具の文字を見たまま、黙り込んでしまった。ランクについて説明していなかったせいだろうな。俺のランクは、わざとCランクで止めてある。

 というのもあまりランクを上げ過ぎれば、どうしても有名になってしまうからだ。そのため騎士団員が冒険者を兼任する際には、不自然にならない程度までしかランクを上げないという通例がある。ランクアップ試験を受けるか受けないかはそれぞれの意思によるものだからな。

 特別任務を受けた際にランク制限は解除になったからこれからは上げていけるんだが、そんな事をギルド職員の前で説明するわけにもいかない。

「間違いありません」

 俺の返事を聞いたアキトは、あわてて口を開いた。

「…あ、間違いありません」

 今度ランクの話になったら、アキトにはきっちりと説明しよう。



 受付を担当したギルド職員は、パーティー登録の制度や特典の説明まできっちりとこなしてくれた。ここまで丁寧に説明してくれる事は、いくらトライプールの冒険者ギルドでも滅多にないだろう。

 それもこれも、興味深そうに相槌を打ちながら説明を聞くアキトのおかげだろうな。あれだけ真剣に話を聞いてくれれば、説明のしがいもあるってものだろう。

 説明がひと段落すると、ギルド職員はにっこりと優しい笑みを浮かべて続けた。

「お二人は前衛と後衛で相性も良いですし、ご活躍を楽しみにしていますね」

 そんな言葉を贈ってくれた職員に、俺達は揃って言葉を返す。

「「ありがとうございます」」

 これでパーティー登録は終了か。意外と簡単に手続きが終わったなと考えていると、ギルドカードを見たアキトが幸せそうに微笑んだ。一体どうしたのかとギルドカードに視線を向ければ、その笑顔の理由はすぐに分かった。

 アキトのカードには俺の名前が、俺のカードにはアキトの名前がそれぞれ表示されるようになっているみたいだ。パーティー登録は初めてだし、周りのギルドカードを見る機会なんて滅多に無いから知らなかった。

「これ、嬉しいね」

 こっそりと小声で話しかけてきたアキトに、俺はたまらない気持ちで笑いかけた。ギルドカードに俺の名前が追加されただけで、あんなに幸せそうな笑顔を見せてくれるのか。

「ああ、俺も嬉しいよ」

 

 掲示板の前に移動する俺たちを、周りの視線はずっと追いかけてきた。当然の様に手を繋いでいるせいだろうな。アキトなら恥ずかしがるかと思ったが、すっかり俺の手を握る事に慣れてくれたみたいだ。もしくは気づいていないんだろうか。

「ハル、何受けるか選んでくれる?」
「俺が選んで良いの?」
「うん、ハルが受けたいって思ったのなら何でも良いよ」
「本当に良いの?」
「信頼してるから、まかせるよ」

 信頼してるからか。本当にアキトはさらりと殺し文句を言うよな。そういう所も大好きなんだけど。俺は掲示板に近づくと依頼票にざっと目を通し始めた。

「あ、これと…これにしようかな」

 俺が剥がした依頼票を、アキトはぴたっとくっついて覗き込んでくる。どよっと騒めいた一部を、俺はじろりと睨みつけた。

 今日選んだのは両方とも採取依頼だ。もし魔物が多かったら倒すのも良いけれど、まずは肩慣らし程度の依頼の方が安全だと思ったからだ。採取地はコノーア草原。中級の狩場だがあそこに出る魔物なら俺とアキトなら問題にもならないだろう。

「これって、どの辺り?」
「ああ、近場だよ。キニーアの森は覚えてる?」
「えーと…確か、俺が初めて行った採取地?」
「そう、その近くにあるんだ」

 キニーアの森はコノーア草原に囲まれているからこそ、初心者に人気の採取地だと伝えればアキトはそうなんだと声をあげた。

「コノーア草原は中級ランクが狩りを行う場所だからね」
「あ、だから安全って言ってたのか」
「まあそれだけじゃないんだけどね。キニーアの森はかなり街に近い場所だから、衛兵の巡回も入ってる」

 納得した様子のアキトに、俺は意見を聞くべく尋ねる。

「あまり遠い場所に行くよりも、まずは肩慣らしかなと思ったんだけど、どう?」
「うん、じゃあさっそく受けに行こう!」
「ああ」

 ついにアキトと一緒に冒険に行けるのか。じわじわと溢れてくる嬉しさに、俺は笑いながら頷いた。
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