生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
261 / 1,561

260.【ハル視点】アキトのために

 格上の魔物から逃げようとする気持ちは分かるが、引き連れたまま走り回るのは間違いなく愚策だ。どこかで立ち止まって体勢を整えれば、他の冒険者も援護しやすいものを。 

 更にあのけたたましい悲鳴のせいで、冒険者達にも動揺が広がっている。荷物を捨てて駆け出している奴もいれば、たまたま逃げ道にいたせいで真横から盾ごと吹っ飛ばされた奴もいた。

「うわ…大丈夫かな?」
「飛ばされた盾使いはちゃんと身構えてたから大丈夫だと思うよ。ほら、あそこ。仲間が回収してる」

 指差しながら答えれば、アキトは良かったとぽつりと呟いた。

「それにしても…魔物を引き連れて周りを巻き込むなんて」

 その上、叫び声で周りに動揺を引き起こすなんて。もし俺の部下だったら、有無を言わさず特別訓練一か月だな。それはもう過酷な訓練を組んでやる。

 思わず三人組への怒りが漏れてしまったけれど、俺は慌てて笑顔を作るとアキトを振り返った。

 今は騎士ではなく冒険者だから義務では無いんだが、それでも見捨てるわけにはいかない。何よりアキトが気にするだろうからな。

「アキトはここで見てて」
「え、一人で行くの?」
「ああ、ウロスとは戦った事があるから大丈夫だよ。信じてまかせて欲しいな」

 ウロスは辺境のスタンピードの応援に行った際、一対一で戦った事がある。攻撃力は高いけれど当たらなければ問題は無いから、俺とは相性の良い魔物だ。

「信じてるけど…」

 アキトはそう呟くと、そのまま黙り込んでうつむいてしまった。うつむく前にちらりと見えたのは、討伐依頼を受けた冒険者や三人組に向けた心配なんて霞むほどの不安そうな表情だった。

「あ、じゃあアキトにお願いしても良い?」

 不安なまま置いていきたくはないけれど、魔法攻撃はそれほど効果が無いから連れていくわけにもいかない。悩んだ俺は、アキトにお願いをする事に決めた。

「お願い…?」

 怪訝そうな顔で俺を見つめてきたアキトに、にっこりと笑顔を浮かべて答える。

「俺以外の人の所に行きそうになったら、魔法で牽制して欲しいんだけど…どうかな?」

 牽制だけならウロスがアキトを狙う事もないだろうし、やる事があれば少しは気がまぎれるだろう。アキトは少し考えてから、申し出を快諾してくれた。

「いいよ、土魔法で大丈夫かな?」
「ああ、頼んだよ」

 アキトが頷くのを確認してから、俺はアキトから少し離れた場所まで移動した。ここならウロスの攻撃範囲からは外れる筈だ。

「おい、お前ら!こっちに来い!」
「うわああああああああああぁぁぁぁ!」
「助けてくれえぇぇぇぇx!」
「ぎゃああああぁぁぁ」

 三人組に声をかけたが、混乱しているせいか全く話を聞いてくれない。こっちに来てくれれば助けてやると言ってるんだがな。

「無理か…全く」

 意味の無い言葉しか叫ばない三人に呆れながら、俺は剣を手にしたまま駆け出した。進んでいく先にアキトがいない事だけが幸いだな。

 そろそろ追いつくかと思った瞬間、ウロスの攻撃を受けた三人組の進路が急に反れた。まずい、あっちには別の冒険者達がいる。

 更に悪い事に、その内の一人は既に負傷しているみたいだ。足を引きずっている男性冒険者と、その男に肩を貸している女性冒険者の二人組だった。まっすぐに二人に向かって駆けていく三人組は、全く周りが見えていないんだろうか。

「リマ、俺を置いて行ってくれ!」
「嫌だ!」

 女性はそう叫ぶなり、男性に肩を貸したまま腰にあった剣を抜いた。

「駄目だ、ウロスはB級、俺達では倒せない!」
「やってみなくちゃ分からない!」

 ウロスはうるさい声を上げて逃げ回る三人よりも、動かない静かな二人に狙いを変えたようだ。あれだけ必死で追いかけていたのに、どうしてよりによって今狙いを変えるんだ。あの三人組なら、追いかけ続けてくれても一向に構わないのに。

「頼む!逃げてくれ!」
「断る!」

 お互いを大切に想ってるのが伝わってくる二人のやりとりを聞きながら速度を上げると、アキトの魔法が発動した。

 確かに俺は、他の人の所に行きそうになったら牽制して欲しいと言った。言ったけれど、まさかアキトがウロスの後頭部めがけて五個もつぶてを打ち込むとは思っていなかった。

 ウロスには魔法攻撃があまり効かないと、先に話しておくべきだった。俺もさすがに予想外の事態の連続に、冷静じゃなかったみたいだ。

 ウロスが負ったのはかすり傷程度だったが、後頭部めがけての攻撃はよっぽど腹立たしかったらしい。アキトを殺意を込めた目で睨みつけている。

「なんで…?」
「そこの人、逃げて!」
「はっ!こっちだ!化け物!」

 ウロスの意識が反れた隙に逃げる事もできたのに、二人組は気を引こうと必死になって声を張り上げている。ああ、あの二人は良い奴らみたいだな。そんな事を考えながら俺は一気に速度を上げた。
 
「さすがアキトだ!」

 叫びながらアキトとウロスの間に陣取ると、俺はすぐに切りかかった。俺の目の前で、アキトに向かって殺意を飛ばすなんて死にたいらしい。
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。