生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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265.馬の放牧場

 小道を吹き抜ける爽やかな風が、動いたせいで少し汗ばんだ体に心地良い。木々の上から聞こえてくる鳥の声に耳を傾けながら、俺は隣を歩くハルを見上げた。

「ハル」
「ん?」
「この道って…朝の道に似すぎじゃない?」

 ハルが教えてくれた道じゃなかったら、多分今頃不安になってた。もしかしてどこかで道を間違えたんじゃないかなって心配になって、何だったら途中で引き返しててもおかしくない。それぐらいどこまでもそっくりな小道だった。

「確かに似てるよね」
「そっくりだよ」
「でもこの道はちゃんと北門行きだよ。ほら、見えてきた」

 ハルが指差した所を見てみれば、確かに木々の間から見覚えのある建物が見えていた。

「あの、ハルを疑ってたわけじゃないよ?」

 これだけはちゃんと言っておかないとと慌てて口を開けば、ハルは知ってると笑って俺の頭をぽんぽんと撫でた。

「ほら、行こう」

 小道の出口は、馬車乗り場の建物のちょうど真横に繋がっていた。へぇ、こんな所に繋がってるんだな。感心しながら周りを見回していると、不意にハルの手が俺の前に差し出された。

 え、これって手を繋いで良いって事?でもまだトライプールの中に入ってないのに?

 そう思ったのは一瞬だけで、引っ込められる前にと俺は慌てて手を繋いだ。そんな俺の動きにハルはクスクスと笑いだす。

「ここは安全だからね、手ぐらい繋いでても大丈夫だよ」
「そうなんだ?」
「もちろん、気配探知もちゃんとしてるから安心してウマを堪能して」
「ありがとう、ハル」
「どういたしまして」

 繋いだ手を揺らしながら、俺達はすぐに建物の裏側へと足を進める。今日の目的地は表の馬車乗り場じゃなくて、裏側にある馬のための放牧場だからね。

「うわぁ」

 視界に飛び込んできた景色に、思わず感嘆の声が漏れた。夕日に照らされたオレンジがかった草原を、馬が数頭並んで駆け抜けていく。その大きな体を驚くほど軽やかに操って、跳ぶように駆けていく姿は圧巻だ。

「これはすごいね!」

 隣で声を上げたハルの声も心なしか弾んでいて、それがなんだかすごく嬉しかった。同じ物を見て感動できるのって嬉しいんだよね。

「うん、すごいね!」

 放牧場の柵の近くに、ハルと二人で並んで立つ。走り回ったり寝転がったりと自由な馬の姿を眺めて楽しんでいると、不意に真っ白な馬がまっすぐ俺達に近づいてきた。

「アキト、気を付けて」

 そう言うなりハルは俺を庇うように前に立った。え、馬に気を付けるの?と一瞬だけ思ってしまったけど、そういえばこの馬は元魔物なんだとか言ってたっけ。

 近づいてきた白馬は警戒するハルを見てふんと鼻を鳴らすと、俺の手の近くにすいっと鼻先を差し出してきた。撫でろと言いたげなその仕草には、見覚えがあった。

「あれ?もしかして…ヨウ?」
「ヨウ…ああ、馬車を引いてたあいつか」

 この世界に来てから二回乗った馬車は、両方ともこのヨウが引いてくれていた。なるほどと警戒を解いたハルと並んで、ヨウとじっと見つめ合う。

「勝手に撫でたら駄目かもしれないから、撫でれないんだ。ごめんね」

 すっごくすっごく残念だけど。眉を下げながら説明すれば、ヨウは俺の言葉を理解したかのようにすっと顔を離すとそのまま走り去ってしまった。ああ、行っちゃったな。

「本当にアキトはあのウマに気に入られてるね」
「そうかな?でも行っちゃったよ?」
「いや、絶対気に入られてるよ」

 もしそうなら嬉しいなと考えていると、遠くから叫び声が近づいてきた。周りで馬を眺めていた人達も、全員が何事かと身構えている。

「どうしたっていうんだぁぁぁぁ?」
「ほら、思った通りだ」

 ハルは苦笑いを浮かべてそっと指を動かした。

「おちつけぇぇぇぇぇ!」

 走り寄ってくるヨウの背中にしがみついて叫んでいるのは、ヨウの相棒である見覚えのある御者のおじさんだった。どれだけ声をかけられても綺麗に無視をしていたヨウは、俺達の目の前まで来るとぴたりとその動きを止めた。

「一体…何だって…言う…んだ」

 息も絶え絶えな御者さんは、それでもひらりと馬の背から飛び降りた。
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