266 / 1,561
265.馬の放牧場
小道を吹き抜ける爽やかな風が、動いたせいで少し汗ばんだ体に心地良い。木々の上から聞こえてくる鳥の声に耳を傾けながら、俺は隣を歩くハルを見上げた。
「ハル」
「ん?」
「この道って…朝の道に似すぎじゃない?」
ハルが教えてくれた道じゃなかったら、多分今頃不安になってた。もしかしてどこかで道を間違えたんじゃないかなって心配になって、何だったら途中で引き返しててもおかしくない。それぐらいどこまでもそっくりな小道だった。
「確かに似てるよね」
「そっくりだよ」
「でもこの道はちゃんと北門行きだよ。ほら、見えてきた」
ハルが指差した所を見てみれば、確かに木々の間から見覚えのある建物が見えていた。
「あの、ハルを疑ってたわけじゃないよ?」
これだけはちゃんと言っておかないとと慌てて口を開けば、ハルは知ってると笑って俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「ほら、行こう」
小道の出口は、馬車乗り場の建物のちょうど真横に繋がっていた。へぇ、こんな所に繋がってるんだな。感心しながら周りを見回していると、不意にハルの手が俺の前に差し出された。
え、これって手を繋いで良いって事?でもまだトライプールの中に入ってないのに?
そう思ったのは一瞬だけで、引っ込められる前にと俺は慌てて手を繋いだ。そんな俺の動きにハルはクスクスと笑いだす。
「ここは安全だからね、手ぐらい繋いでても大丈夫だよ」
「そうなんだ?」
「もちろん、気配探知もちゃんとしてるから安心してウマを堪能して」
「ありがとう、ハル」
「どういたしまして」
繋いだ手を揺らしながら、俺達はすぐに建物の裏側へと足を進める。今日の目的地は表の馬車乗り場じゃなくて、裏側にある馬のための放牧場だからね。
「うわぁ」
視界に飛び込んできた景色に、思わず感嘆の声が漏れた。夕日に照らされたオレンジがかった草原を、馬が数頭並んで駆け抜けていく。その大きな体を驚くほど軽やかに操って、跳ぶように駆けていく姿は圧巻だ。
「これはすごいね!」
隣で声を上げたハルの声も心なしか弾んでいて、それがなんだかすごく嬉しかった。同じ物を見て感動できるのって嬉しいんだよね。
「うん、すごいね!」
放牧場の柵の近くに、ハルと二人で並んで立つ。走り回ったり寝転がったりと自由な馬の姿を眺めて楽しんでいると、不意に真っ白な馬がまっすぐ俺達に近づいてきた。
「アキト、気を付けて」
そう言うなりハルは俺を庇うように前に立った。え、馬に気を付けるの?と一瞬だけ思ってしまったけど、そういえばこの馬は元魔物なんだとか言ってたっけ。
近づいてきた白馬は警戒するハルを見てふんと鼻を鳴らすと、俺の手の近くにすいっと鼻先を差し出してきた。撫でろと言いたげなその仕草には、見覚えがあった。
「あれ?もしかして…ヨウ?」
「ヨウ…ああ、馬車を引いてたあいつか」
この世界に来てから二回乗った馬車は、両方ともこのヨウが引いてくれていた。なるほどと警戒を解いたハルと並んで、ヨウとじっと見つめ合う。
「勝手に撫でたら駄目かもしれないから、撫でれないんだ。ごめんね」
すっごくすっごく残念だけど。眉を下げながら説明すれば、ヨウは俺の言葉を理解したかのようにすっと顔を離すとそのまま走り去ってしまった。ああ、行っちゃったな。
「本当にアキトはあのウマに気に入られてるね」
「そうかな?でも行っちゃったよ?」
「いや、絶対気に入られてるよ」
もしそうなら嬉しいなと考えていると、遠くから叫び声が近づいてきた。周りで馬を眺めていた人達も、全員が何事かと身構えている。
「どうしたっていうんだぁぁぁぁ?」
「ほら、思った通りだ」
ハルは苦笑いを浮かべてそっと指を動かした。
「おちつけぇぇぇぇぇ!」
走り寄ってくるヨウの背中にしがみついて叫んでいるのは、ヨウの相棒である見覚えのある御者のおじさんだった。どれだけ声をかけられても綺麗に無視をしていたヨウは、俺達の目の前まで来るとぴたりとその動きを止めた。
「一体…何だって…言う…んだ」
息も絶え絶えな御者さんは、それでもひらりと馬の背から飛び降りた。
「ハル」
「ん?」
「この道って…朝の道に似すぎじゃない?」
ハルが教えてくれた道じゃなかったら、多分今頃不安になってた。もしかしてどこかで道を間違えたんじゃないかなって心配になって、何だったら途中で引き返しててもおかしくない。それぐらいどこまでもそっくりな小道だった。
「確かに似てるよね」
「そっくりだよ」
「でもこの道はちゃんと北門行きだよ。ほら、見えてきた」
ハルが指差した所を見てみれば、確かに木々の間から見覚えのある建物が見えていた。
「あの、ハルを疑ってたわけじゃないよ?」
これだけはちゃんと言っておかないとと慌てて口を開けば、ハルは知ってると笑って俺の頭をぽんぽんと撫でた。
「ほら、行こう」
小道の出口は、馬車乗り場の建物のちょうど真横に繋がっていた。へぇ、こんな所に繋がってるんだな。感心しながら周りを見回していると、不意にハルの手が俺の前に差し出された。
え、これって手を繋いで良いって事?でもまだトライプールの中に入ってないのに?
そう思ったのは一瞬だけで、引っ込められる前にと俺は慌てて手を繋いだ。そんな俺の動きにハルはクスクスと笑いだす。
「ここは安全だからね、手ぐらい繋いでても大丈夫だよ」
「そうなんだ?」
「もちろん、気配探知もちゃんとしてるから安心してウマを堪能して」
「ありがとう、ハル」
「どういたしまして」
繋いだ手を揺らしながら、俺達はすぐに建物の裏側へと足を進める。今日の目的地は表の馬車乗り場じゃなくて、裏側にある馬のための放牧場だからね。
「うわぁ」
視界に飛び込んできた景色に、思わず感嘆の声が漏れた。夕日に照らされたオレンジがかった草原を、馬が数頭並んで駆け抜けていく。その大きな体を驚くほど軽やかに操って、跳ぶように駆けていく姿は圧巻だ。
「これはすごいね!」
隣で声を上げたハルの声も心なしか弾んでいて、それがなんだかすごく嬉しかった。同じ物を見て感動できるのって嬉しいんだよね。
「うん、すごいね!」
放牧場の柵の近くに、ハルと二人で並んで立つ。走り回ったり寝転がったりと自由な馬の姿を眺めて楽しんでいると、不意に真っ白な馬がまっすぐ俺達に近づいてきた。
「アキト、気を付けて」
そう言うなりハルは俺を庇うように前に立った。え、馬に気を付けるの?と一瞬だけ思ってしまったけど、そういえばこの馬は元魔物なんだとか言ってたっけ。
近づいてきた白馬は警戒するハルを見てふんと鼻を鳴らすと、俺の手の近くにすいっと鼻先を差し出してきた。撫でろと言いたげなその仕草には、見覚えがあった。
「あれ?もしかして…ヨウ?」
「ヨウ…ああ、馬車を引いてたあいつか」
この世界に来てから二回乗った馬車は、両方ともこのヨウが引いてくれていた。なるほどと警戒を解いたハルと並んで、ヨウとじっと見つめ合う。
「勝手に撫でたら駄目かもしれないから、撫でれないんだ。ごめんね」
すっごくすっごく残念だけど。眉を下げながら説明すれば、ヨウは俺の言葉を理解したかのようにすっと顔を離すとそのまま走り去ってしまった。ああ、行っちゃったな。
「本当にアキトはあのウマに気に入られてるね」
「そうかな?でも行っちゃったよ?」
「いや、絶対気に入られてるよ」
もしそうなら嬉しいなと考えていると、遠くから叫び声が近づいてきた。周りで馬を眺めていた人達も、全員が何事かと身構えている。
「どうしたっていうんだぁぁぁぁ?」
「ほら、思った通りだ」
ハルは苦笑いを浮かべてそっと指を動かした。
「おちつけぇぇぇぇぇ!」
走り寄ってくるヨウの背中にしがみついて叫んでいるのは、ヨウの相棒である見覚えのある御者のおじさんだった。どれだけ声をかけられても綺麗に無視をしていたヨウは、俺達の目の前まで来るとぴたりとその動きを止めた。
「一体…何だって…言う…んだ」
息も絶え絶えな御者さんは、それでもひらりと馬の背から飛び降りた。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。