生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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279.【ハル視点】見える人の仲間入り

 すっかり夜になった街道を二人並んで歩いて行く。昼間の暑さがまるで嘘のように、今は心地よい風が吹いている。

 ちらりと見上げれば、空には満天の星空が広がっている。幽霊だった頃なら、アキトを一人歩きさせるのが心配でたまらなかった時間帯だな。今は誰にでも見える形で隣を歩けるから、一切問題は無いんだが。

 人通りの落ち着いてきた北大門だが、門番をしている衛兵達は真剣な眼差しで通り過ぎる人を調べている。後ろ暗い所のある者は、だいたいが決まって夜に移動する。悪党の中でそんな決まり事でもあるのかと聞きたくなるほどの確率で、だ。

 衛兵の視線を感じながらも、俺達は二人で大門を通過する。

 問題なく通過できたのは、おそらくアキトがよく出入りしているからだろうな。その街を拠点にしている冒険者は、基本的には警戒対象に含まれないからな。

 もし声をかけられてもギルドカードを見せれば良いだけなんだが、別室に移動して質問をされてからとなるとかなり時間がかかってしまう。声をかけられなくて良かった。

「すっかり遅くなっちゃったね」

 少し反省した様子のアキトに、俺は軽く首を振った。

「でも楽しかったでしょう?」
「うん、本っ当に楽しかった!」
「楽しかったならそれで良いよ」

 ウマを見てはしゃぐアキトの可愛さときたら、他の人には見せたくないと思ってしまうほどだったからな。また一緒にヨウに会いに行くのも良いかもしれない。いつかの予定を考えながら、俺はアキトに尋ねた。

「夜ごはんは外にする?買って帰るのも良いけど」
「あーどうしよう?ハルは何食べたい?」
「うーん…」

 二人であれこれと店の候補を上げながら細い路地を歩いていると、不意に真後ろから声をかけられた。

「アキトさん、ハルさん」

 近づいてくる気配に気づかなかった事に驚きながらも振り返れば、そこには優しく微笑むカルツさんの姿があった。姿があった?何故俺はカルツさんの姿が見えるんだ?

「ハルさん、見つかったんですね?良かったですね」
「はい、ありがとうございました!カルツさん!」

 会話を続ける二人を、俺は呆然と見つめていた。待ってくれ。ただ姿が見えるだけじゃない。カルツさんの柔らかい声まで、俺の耳にははっきりと聞こえている。

「…カルツさん?」
「あ、ごめん、ハル。そうなんだ、カルツさんがいたから…」
「…見えてる」
「え!?」
「…アキト、俺…カルツさんの姿くっきり見えてるよ」

 そう伝えれば、アキトはカルツさんと目を見合わせてからそのまま固まってしまった。カルツさんは気を取り直すと、嬉しそうに俺に話しかけてきた。

「声も聞こえてるんでしょうか?」
「はい、ばっちり聞こえてます」
「それは嬉しいですね。もうお話は出来ないと思っていたので」
「俺もカルツさんと話せるのは嬉しいです」

 お世辞でも何でもなく、本心からそんな言葉が飛び出した、異世界から来たアキトにも分かりやすく色んな事を説明してくれた時から、カルツさんは文句なしの味方認定だからな。

「なんで…?」

 動揺した様子のアキトは、見えなくなる筈じゃないの?と呟いている。心の声が漏れているのにも気づいていないみたいだ。

「俺は嬉しいけどな」

 そう口に出せば、自然と笑みがこぼれた。

「なんで!?だって見えるって嫌な事だって絶対にあるのに」

 性質の悪い幽霊に追いかけられたり、死んだ時の状態で彷徨っている幽霊を目撃する事もあるんだよ。つらそうに続けたアキトの肩を俺はそっと引き寄せた。

「アキトだけが見えて嫌な思いをするより、同じものを見たいからね」
「ハル…」
「俺にも同じものが見えるなら、二人で対処を考えれば良いだけだろう?」

 もし俺が幽霊を見る事ができなければ、アキトは絶対に隠し通してしまうだろう。何らかの理由を付けてでも、一人で解決しようとするに違いない。アキトはそういう奴だからな。

 そう考えると、俺もアキトと同じく見える人になれたのはすごく幸運な事だと思う。

「まあ幽霊への対処法なんて全く知らないから、そこはアキトに教えて貰わないと駄目だけどね」

 おどけてそう伝えれば、アキトは目をじわりと潤ませてから慌ててうつむいた。嬉しそうに微笑んではいたから、嫌だったわけじゃないんだろうな。アキトが落ち着くのを待って、黙って俺達のやりとりを見守っていたカルツさんが口を開いた。

「お二人は雰囲気が少し変わりましたね」
「あ、えっと、恋人に…なりました」
「それはおめでとうございます!私の言葉には何の効力もありませんが、二人のこれからに祝福を」
「「ありがとうございます」」

 ほわりと温かくなった胸を押さえてお礼を言うと、アキトと俺の言葉はぴったりと重なった。

「ああ、それと…無事に目覚められた事、心からお祝い申し上げます。ハロルドさん」

 いつも通りの笑みを浮かべたままさらりと告げられたその言葉に、俺達は思わずカルツさんの姿を凝視してしまった。

「…やっぱり気づいてましたか?」

 そうでなければ、出会いがしらに何故生身なのかと聞くだろうとは思っていたんだ。俺が生身でいる事を当然のように受け入れていたからな。

「ええまあ。商人にとって情報は何よりも大切な武器ですからね。それをひけらかすようでは三流ですが…」

 つまり俺とアキトに出会ったあの時から、俺の正体は知っていたって事か。本当に油断ならない人だ。

「さすが凄腕の商人ですね」

 褒められたカルツさんは喜ぶでもなく、一転して申し訳なさそうにアキトを見つめて口を開いた。

「アキトさんがハルさんを探しに来た時は、騎士団本部に行くように言うかこれでも悩んだんですよ。黙っていてすみませんでした」

 丁重に頭まで下げて謝罪されたアキトは、慌ててぶんぶんと手を振った。

「気にしないでください!もしその話を聞いても、伝手も無いのに騎士団本部にいきなり行くわけにも行かなかっただろうし」

 ケルビンと一緒だったから問題は無かったが、突然騎士団本部に押し入ればそれこそ騎士に取り押さえられていただろう。更にそこでもし魔法のひとつでも使ってしまっていたら、確実に捕縛されて罪に問われていた筈だ。

「そこまで考えて教えなかったんでしょう?」

 アキトの身の安全を考えて言わなかっただけだろうと指摘すれば、カルツさんはゆるりと首を振ってそれでも黙っていたのは事実だと告げた。これだからこの人は信頼できるんだよな。

「カルツさん、俺これからはアキトと一緒にパーティーを組んで冒険者をやるんです」

 このままだとアキトとカルツさんの謝罪合戦になると見た俺は、唐突に話を変えた。

「ではこれまで通りハルさんとお呼びしましょうか」
「それでお願いします」
「ああ、長い間引き留めてしまいましたね」
「そんなこと!」
「恋人たちの邪魔をしたら精霊に叱られますからね」

 カルツさんが口にしたのは、精霊を題材にした有名な小説の一説だった。やっぱり博識だな。

「また会ったら声をかけますね」

 朗らかにそう言うと、カルツさんは笑顔で手を振って去っていった。
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