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285.【ハル視点】怒るメロウの厄介さ
ひっそりと怒られる覚悟を決めた俺を、鑑定を終えたメロウはゆっくりと振り返った。にっこりと笑って詰め寄ってくる目が、全く笑っていない。
「倒してもらった事には感謝しますが、何故、昨日のうちに、報告しなかったんですか?」
ぐいぐいと近づいてくるメロウに、俺は数歩後ずさりながら口を開こうとした。
「それは…」
「答えなくて結構ですよ。どうせ手紙の件で私に捕まると思ったからでしょう?」
メロウはふんっと鼻を鳴らすと、じろりと俺を睨みつけた。まさにその通りなだけに否定もし難いな。これはもう言い訳した方が余計に悪化するやつだと思った俺は、何も言わずにただ黙り込んだ。
「あ、あの、昨日はトライプールに帰って来たのは夜だったんです」
不意にアキトがそんな風に声を上げてくれた事に、俺は密かに感動してしまった。誰がみても明らかな程静かに怒っているメロウ相手に、まさか俺を庇うような言葉を言ってくれるなんて。
アキトの言う事ならと、メロウの表情も少し変わった気がする。実際にはのんびりとウマを見物していた時間があるんだが、夜に帰ってきたのは嘘じゃない。
メロウがアキトの方を見ている間に、俺は声を出さずに口だけを動かしてありがとうと感謝の言葉を伝えた。アキトには視線だけでやめなさいと叱られた。
「そう、ですか」
「ああ、だが夜でも報告はした方が良かったな、悪かった」
流れが変わったのを察知した俺は、アキトの手助けを無駄にしないようにと即座に非を認めて謝った。
「いえ、私も勘違いで責めてしまってすみませんでした」
冒険者ギルドと騎士団の関係は、あまり一般的に知られてはいないがかなり深い。
だからこそ騎士である俺や相棒が冒険者の身分を貰えているわけだ。そんな俺と相棒の共通の認識が、メロウを怒らせると長くなると言うものだった。しかも分かりやすく怒っている時はまだ良いんだ。笑いながら怒り出した時は、それはもうかなり長くなる。
そんな状態だったメロウを上手く制御できるなんて、アキトはすごすぎるな。騎士団にバレたら引き抜こうとされるだろうから、絶対に相棒にはバレないようにしよう。
「二人組の冒険者に助けられたと報告が来ていましたが…それが貴方たちでしたか」
「多分そうだろうな」
メロウは一瞬にして真剣な表情に戻ると、制服のポケットから手帳と筆記用具を取り出した。情報収集をするには俺達に聞くのが一番手っ取り早いからな。俺もよく情報収集を押し付け…任されていた身だから、気持ちは分かる。
「発見した状況を教えて頂けますか?」
「あーそれが…キニーアの森から引き連れて走り回った奴らがいてな」
「ああ、それも報告は入っていますが…名前は分かりますか?」
迷惑行為で報告が来ていると、メロウはさらりと情報をこぼしてくれた。
「顔は覚えてるが名前までは分からないな。三人組の冒険者が引き連れてきたんだが」
「三人組ですか…性別は?」
「男三人で、三人とも前衛っぽかった」
一人は剣だったから戦士か剣士、もう一人は職種までは分からないが短剣を数本持っていた。さらにもう一人は少し珍しい片手斧だったな。そう続けようとした俺の言葉を、メロウは朗らかに笑って遮った。
「前衛ばかりの男三人組――思い当るのは一組だけなので、後で聞いてみますね」
にっこりと笑いながらも目は笑っていない。ああ、これは俺に対して怒っていた時以上に本気で怒っているな。三人組にはきっちり罰が与えられるだろう。
メロウはふうと一つ息を吐くと、真剣な顔でアキトを見つめた。
「パーティー登録をしたと聞きましたが、アキトさんは本当にハルさんと組むので良かったんですか?」
「おい、やめろ」
「どうせハルさんが誘ったんでしょう?」
もしかして俺が無理にパーティーを組もうと誘ったんじゃないのかと、そう言いたいんだろうな。メロウにとってアキトは年下の素直で可愛らしい子だろうから、俺みたいな大人の可愛げの無い男に騙されていないかと言いたいんだろう。
余計なお世話だと思いながらも、確かに少し強引に誘ったかもしれないなと一瞬だけ頭を過った。ちらりと目が合ったアキトは、強い意志のこもった目でメロウを見つめて口を開いた。
「俺の意思で、ハルと一緒にいたいから組みました」
「そうですか…」
心なしかホッとした様子のメロウは、本気でアキトの心配をしていたんだろうな。俺を疑った事は少しだけ気に食わないが、アキトのためを思っての事なら俺に文句は無い。
「アキト、ありがとう」
言いながらそっとアキトの手を握りしめる。
「えーと…この甘い空気は一体…?」
「ああ、改めて紹介しようか?俺の最愛の恋人アキトだ」
満面の笑みを浮かべた俺がそう宣言するのを聞いて、メロウはゆるりと眉をしかめた。
「…アキトさん?」
こんな事を言ってますが、本当ですか?と言いたげなメロウの目をアキトはまっすぐに見つめ返して口を開いた。
「えーと、こちら俺の恋人のハルです」
照れくさそうに笑いながらも恋人だと紹介してくれたアキトに、俺は自分の高ぶった感情を制御する事ができなかった。頷いてくれるだけでも良いと思っていたのに、ちゃんと自分の言葉で恋人だと言ってくれるのか。
俺は思わず座ったままのアキトに、ぎゅっと抱き着いた。
「わーハル、離れて!」
「アキト、好きだ!」
「そういうのは二人だけの時にして下さい!」
慌てて体を離そうとするアキトと、離すまいとする俺を見つめていたメロウは、呆れた様子でハアと大きく一つため息を吐いた。
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