生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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291.恋人の特権

 あまりに俺が熱心に撫で過ぎたせいか、ハルの髪の毛はすっかりしんなりとしてしまった。なでなで。あのふわふわ感はすっかりなくなっちゃったな。なでなで。でもきっちりと髪の毛を撫でつけた状態でも、こんなに格好良いんだからハルはやっぱりすごいと思う。なでなで。

「アキト、もうやめて…」
「嫌?」
「嫌じゃないけど、恥ずかしい…」

 恥ずかしいんだ。恥ずかしいけど、嫌じゃないんだ。

 また撫でさせてくれるなら止めるよって尋ねた俺は、我ながらかなり悪い笑みを浮かべていたと思う。ハルは苦笑しながらもすぐに同意してくれたから、またマッサージと頭なでなではさせて貰おうかな。

「はー…アキト嬉しそうだね?」
「嬉しいからね」
「今度、俺もアキトにマッサージさせて欲しいな」
「もちろん、いつでも歓迎だよ」

 笑顔で答えた俺を見つめて、ハルは敵わないなと呟くとへにゃりと笑った。

「アキトもおいで」

 優しい声で呼ばれた俺は、昨夜動かしたくっついたままのベッドによじ登った。ハルと向かい合わせになるように寝転がると、当然のようにさっと手が差し出される。剣だこのある筋張った手を、きゅっと軽く握り返した。

 窓の外はまだ夕日にもなってない時間帯なんだけど、こんな時間に二人でベッドに転がるのもたまには悪くないね。ゆっくりと流れる時間も、ハルと一緒なら楽しめる。

「今日はこのまま寝ちゃおうか?」
「うん、良いね」
「あ、先に言っておくけど、今日もまだしないからね」

 今のは本当の意味での寝るだからと、わざわざ念押しまでされてしまった。疲れてるからしないとは思ってたんけど、それでもしないと宣言されるとちょっと残念に感じてしまう。

「ああ、そっか…残念だけど、分かった」
「アキト…頼むから残念だけどとか言わないで…俺の理性が」

 なんて口では弱音を吐きながらも、俺の顔を覗き込んできたハルは楽し気な笑顔だった。

「ねえ、ハル。ガックラースとビルチェッティ、美味しかったね?」
「美味しかったね」
「あのお店また行きたいな」
「また行こう。行きたいお店がどんどん増えていくね」

 嬉しそうなハルに、俺もこの世界に馴染んできてるって事かなと答える。

「それにしても、ちゃんと料理の名前覚えたんだね?」
「あ、うん。美味しかったから覚えたよ」
「それじゃあ隣国の話でもしようか。もちろん眠くなったらすぐ寝て良いからね」

 ハルはそう前置きをするとゆったりと話し出した。

「隣国はバーサ王国という国で、うちと同じ王政の国だね」

 隣国とこの国は同盟関係にあるから、出入りは比較的簡単にできるんだって。ハルは騎士としての任務でも冒険者としての依頼でも、何度も訪れた事があるらしい。

 あと、さっき飲んだ果実水に使われていたビオンは、細長い果実なんだけど果皮がすっっっごく固いんだそうだ。だからあの果物は剥くのがすごく大変で、ビオンを剥くだけの職業があるらしい。何、それすごい。

「それ、で…ラース…はね…」

 まだ俺のために説明を続けようとしてくれているハルだけど、声はどんどん小さくゆっくりになっていった。もう説明なんて良いから、そのまま眠ってしまって良いのに。

 何て事なり振りをしてたけど、やっぱりかなり疲れてたんだろうな。

「ハル、話はまた明日にしよう?」

 囁くような声でそう告げれば、ハルの言葉はやっと止まった。そのままじわじわと閉じていくハルの瞳をじっと見つめながら、俺はそっと口を開いた。

「おやすみ、ハル。良い夢を」
「お…すみ…キト」

 寝起きのハルを見るのも幸せだと思ったけど、眠りに落ちる瞬間を見守れるってのも何だかすごく特別な気がするな。これはもしかして恋人の特権ってやつだろうか。

 ほわりと温かい気持ちでハルの寝顔を見つめていた俺は、幸せな気分で眠りに落ちていった。
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