生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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293.【ハル視点】嫉妬

 メロウが部屋を出ていくと、アキトはどさりと崩れるように椅子に座り込んだ。

「…びっくりしたー」

 急に座り込んだから少しだけ心配してしまったが、ただ緊張が解けただけか。ぽつりと呟いたアキトの顔色を確認して、俺も笑いながら隣に腰を下ろす。

「まさか持ってる素材の名前が出てくるとはね」
「こんな事ってよくあるの?」
「ああ、噂程度で聞いた事はあるけど、強運の誰々って通り名がついてたような?」

 数年前には、前日に何げなく採っていた素材が、ことごとく翌日の依頼の品になるという強運な冒険者がいたらしい。

 最終的にはたまたま気に入って拾ってきた石が宝石で、それを売ったお金を元手にして商売を始めたなんて言われている。まあどこまでが本当なのかは分からないが、強運の誰々って通り名があったのは事実らしい。

「うわーそれは嫌だな」
「大丈夫!今日は人目が無い場所なんだから、俺達が口にしなければバレないよ」

 もし人がたくさんいる受付で今のやりとりをしていたなら、止める暇も無くあっという間に強運のアキトになっていただろうな。そう考えると、メロウのおかげで回避できたとも言えるか。

「それもそっか」
「メロウも人に話さないとは思うけど、一応後で口留めしておこうか」

 まああれだけお気に入りのアキトの情報を、メロウが誰かに洩らす筈が無いんだけどね。情報の取り扱いは厳重にが口癖の奴だから、その点は信頼できる。

 とはいえ、俺がアキトの強運話の口留めをしても、きっと恋人馬鹿が心配してるだけだと苦笑程度で済ませてくれるだろう。

「何か、メロウさんとハルって結構仲良しだよね?」
「え…あのやり取りを見てそう言えるの?結構言い合いしてたし、俺達思いっきり睨みあってたよね」

 お前たちのやりとりは心臓に悪いって、ギルマスにも相棒にもよく言われていたんだけどな。思わずそう尋ねれば、アキトは笑って答えた。

「でもメロウさんもハルも、お互いを認め合ってるように見えたから」

 アキトの観察眼の鋭さには驚かされるな。メロウの事は確かに認めている。やり手だし、敵に回したくない人の一人だと思っている。

「あー…騎士団と冒険者ギルドって結構繋がりが深いんだよ。仲が良くない領ももちろんあるんだけどね」

 そう前置きをして、俺はゆっくりと話しだした。

 ここトライプールでは、騎士団と冒険者ギルドはきっちりと情報交換をしている。

 ギルドは魔物の分布やきな臭い噂、他国から来た怪しい旅人の情報なんかを提供し、騎士団も任務の中で作った地図情報や、犯罪に関わっている可能性のある冒険者の情報を提供している。

 真剣な顔で俺の話を聞いてくれていたアキトはなるほどと呟くと、うんうんと頷いていた。何かに納得してくれたみたいだな。

「もしかして妬いてくれた?」

 妬いていないのは分かっていたけれど、それでもついつい口からこぼれてしまった。俺ばかり妬いているのが情けないような気分になっていた。ほんの少しの期待を込めただけの質問だったけれど、アキトはぶんぶんと大きく首を振って答えた。
 
「いや、全然妬いてないよ」
「…そっか」

 しょんぼりとわざとらしく肩を落とした俺を見て、アキトは慌てた様子で続けた。

「あ、待って、違うからね!メロウさんはそういう視線でハルを見てないから妬かないだけで、ハルに気がある人相手だったら絶対に妬くからね」

 こんな簡単な手にひっかかって、本音を教えてくれるなんて。ごめんね、アキト。でも絶対に妬いてくれるって言葉、本当に嬉しいよ。今の俺はきっと満面の笑みだと思う。

「ありがとう、アキト」

 チュッと音を立てて唇を軽くついばんでみれば、アキトはボンッと頬を赤く染めた。初心な所も可愛いな、俺の愛しの恋人は。

「ハ、ハルー!」
「今は二人きりだから良いでしょう?」
「良くない!」

 わーわーとまたしても言い合っている間に、真後ろでドアが開いた。ああ、メロウが戻ってきたのか。

「アキトさん、後は毎回の質問だけですのでこちらの部屋へ…ハルさん?」
「どうしたんだ、メロウ?」

 キスは見えなかった筈だととぼけた返事を返せば、メロウは冷たく言い放った。

「がっつく年上は、嫌われますよ」
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