294 / 1,561
293.【ハル視点】嫉妬
メロウが部屋を出ていくと、アキトはどさりと崩れるように椅子に座り込んだ。
「…びっくりしたー」
急に座り込んだから少しだけ心配してしまったが、ただ緊張が解けただけか。ぽつりと呟いたアキトの顔色を確認して、俺も笑いながら隣に腰を下ろす。
「まさか持ってる素材の名前が出てくるとはね」
「こんな事ってよくあるの?」
「ああ、噂程度で聞いた事はあるけど、強運の誰々って通り名がついてたような?」
数年前には、前日に何げなく採っていた素材が、ことごとく翌日の依頼の品になるという強運な冒険者がいたらしい。
最終的にはたまたま気に入って拾ってきた石が宝石で、それを売ったお金を元手にして商売を始めたなんて言われている。まあどこまでが本当なのかは分からないが、強運の誰々って通り名があったのは事実らしい。
「うわーそれは嫌だな」
「大丈夫!今日は人目が無い場所なんだから、俺達が口にしなければバレないよ」
もし人がたくさんいる受付で今のやりとりをしていたなら、止める暇も無くあっという間に強運のアキトになっていただろうな。そう考えると、メロウのおかげで回避できたとも言えるか。
「それもそっか」
「メロウも人に話さないとは思うけど、一応後で口留めしておこうか」
まああれだけお気に入りのアキトの情報を、メロウが誰かに洩らす筈が無いんだけどね。情報の取り扱いは厳重にが口癖の奴だから、その点は信頼できる。
とはいえ、俺がアキトの強運話の口留めをしても、きっと恋人馬鹿が心配してるだけだと苦笑程度で済ませてくれるだろう。
「何か、メロウさんとハルって結構仲良しだよね?」
「え…あのやり取りを見てそう言えるの?結構言い合いしてたし、俺達思いっきり睨みあってたよね」
お前たちのやりとりは心臓に悪いって、ギルマスにも相棒にもよく言われていたんだけどな。思わずそう尋ねれば、アキトは笑って答えた。
「でもメロウさんもハルも、お互いを認め合ってるように見えたから」
アキトの観察眼の鋭さには驚かされるな。メロウの事は確かに認めている。やり手だし、敵に回したくない人の一人だと思っている。
「あー…騎士団と冒険者ギルドって結構繋がりが深いんだよ。仲が良くない領ももちろんあるんだけどね」
そう前置きをして、俺はゆっくりと話しだした。
ここトライプールでは、騎士団と冒険者ギルドはきっちりと情報交換をしている。
ギルドは魔物の分布やきな臭い噂、他国から来た怪しい旅人の情報なんかを提供し、騎士団も任務の中で作った地図情報や、犯罪に関わっている可能性のある冒険者の情報を提供している。
真剣な顔で俺の話を聞いてくれていたアキトはなるほどと呟くと、うんうんと頷いていた。何かに納得してくれたみたいだな。
「もしかして妬いてくれた?」
妬いていないのは分かっていたけれど、それでもついつい口からこぼれてしまった。俺ばかり妬いているのが情けないような気分になっていた。ほんの少しの期待を込めただけの質問だったけれど、アキトはぶんぶんと大きく首を振って答えた。
「いや、全然妬いてないよ」
「…そっか」
しょんぼりとわざとらしく肩を落とした俺を見て、アキトは慌てた様子で続けた。
「あ、待って、違うからね!メロウさんはそういう視線でハルを見てないから妬かないだけで、ハルに気がある人相手だったら絶対に妬くからね」
こんな簡単な手にひっかかって、本音を教えてくれるなんて。ごめんね、アキト。でも絶対に妬いてくれるって言葉、本当に嬉しいよ。今の俺はきっと満面の笑みだと思う。
「ありがとう、アキト」
チュッと音を立てて唇を軽くついばんでみれば、アキトはボンッと頬を赤く染めた。初心な所も可愛いな、俺の愛しの恋人は。
「ハ、ハルー!」
「今は二人きりだから良いでしょう?」
「良くない!」
わーわーとまたしても言い合っている間に、真後ろでドアが開いた。ああ、メロウが戻ってきたのか。
「アキトさん、後は毎回の質問だけですのでこちらの部屋へ…ハルさん?」
「どうしたんだ、メロウ?」
キスは見えなかった筈だととぼけた返事を返せば、メロウは冷たく言い放った。
「がっつく年上は、嫌われますよ」
「…びっくりしたー」
急に座り込んだから少しだけ心配してしまったが、ただ緊張が解けただけか。ぽつりと呟いたアキトの顔色を確認して、俺も笑いながら隣に腰を下ろす。
「まさか持ってる素材の名前が出てくるとはね」
「こんな事ってよくあるの?」
「ああ、噂程度で聞いた事はあるけど、強運の誰々って通り名がついてたような?」
数年前には、前日に何げなく採っていた素材が、ことごとく翌日の依頼の品になるという強運な冒険者がいたらしい。
最終的にはたまたま気に入って拾ってきた石が宝石で、それを売ったお金を元手にして商売を始めたなんて言われている。まあどこまでが本当なのかは分からないが、強運の誰々って通り名があったのは事実らしい。
「うわーそれは嫌だな」
「大丈夫!今日は人目が無い場所なんだから、俺達が口にしなければバレないよ」
もし人がたくさんいる受付で今のやりとりをしていたなら、止める暇も無くあっという間に強運のアキトになっていただろうな。そう考えると、メロウのおかげで回避できたとも言えるか。
「それもそっか」
「メロウも人に話さないとは思うけど、一応後で口留めしておこうか」
まああれだけお気に入りのアキトの情報を、メロウが誰かに洩らす筈が無いんだけどね。情報の取り扱いは厳重にが口癖の奴だから、その点は信頼できる。
とはいえ、俺がアキトの強運話の口留めをしても、きっと恋人馬鹿が心配してるだけだと苦笑程度で済ませてくれるだろう。
「何か、メロウさんとハルって結構仲良しだよね?」
「え…あのやり取りを見てそう言えるの?結構言い合いしてたし、俺達思いっきり睨みあってたよね」
お前たちのやりとりは心臓に悪いって、ギルマスにも相棒にもよく言われていたんだけどな。思わずそう尋ねれば、アキトは笑って答えた。
「でもメロウさんもハルも、お互いを認め合ってるように見えたから」
アキトの観察眼の鋭さには驚かされるな。メロウの事は確かに認めている。やり手だし、敵に回したくない人の一人だと思っている。
「あー…騎士団と冒険者ギルドって結構繋がりが深いんだよ。仲が良くない領ももちろんあるんだけどね」
そう前置きをして、俺はゆっくりと話しだした。
ここトライプールでは、騎士団と冒険者ギルドはきっちりと情報交換をしている。
ギルドは魔物の分布やきな臭い噂、他国から来た怪しい旅人の情報なんかを提供し、騎士団も任務の中で作った地図情報や、犯罪に関わっている可能性のある冒険者の情報を提供している。
真剣な顔で俺の話を聞いてくれていたアキトはなるほどと呟くと、うんうんと頷いていた。何かに納得してくれたみたいだな。
「もしかして妬いてくれた?」
妬いていないのは分かっていたけれど、それでもついつい口からこぼれてしまった。俺ばかり妬いているのが情けないような気分になっていた。ほんの少しの期待を込めただけの質問だったけれど、アキトはぶんぶんと大きく首を振って答えた。
「いや、全然妬いてないよ」
「…そっか」
しょんぼりとわざとらしく肩を落とした俺を見て、アキトは慌てた様子で続けた。
「あ、待って、違うからね!メロウさんはそういう視線でハルを見てないから妬かないだけで、ハルに気がある人相手だったら絶対に妬くからね」
こんな簡単な手にひっかかって、本音を教えてくれるなんて。ごめんね、アキト。でも絶対に妬いてくれるって言葉、本当に嬉しいよ。今の俺はきっと満面の笑みだと思う。
「ありがとう、アキト」
チュッと音を立てて唇を軽くついばんでみれば、アキトはボンッと頬を赤く染めた。初心な所も可愛いな、俺の愛しの恋人は。
「ハ、ハルー!」
「今は二人きりだから良いでしょう?」
「良くない!」
わーわーとまたしても言い合っている間に、真後ろでドアが開いた。ああ、メロウが戻ってきたのか。
「アキトさん、後は毎回の質問だけですのでこちらの部屋へ…ハルさん?」
「どうしたんだ、メロウ?」
キスは見えなかった筈だととぼけた返事を返せば、メロウは冷たく言い放った。
「がっつく年上は、嫌われますよ」
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。