生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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298.【ハル視点】愛されている実感

 ゆったりと食事を楽しんだら、疲れもだいぶ消えた気がする。依頼を受けるかどこかに出掛けようかと提案した俺を、アキトは有無を言わさずに黒鷹亭へと連れ帰った。

 おかえりとただいまの挨拶を終えて、俺はアキトに尋ねた。

「アキト、まだ早いのに良かったの?」
「うん、今日は疲れたでしょう?」

 咄嗟にそんな事は無いと言いそうになったけれど、少し考えてから口を開いた。

「あー…うん、そうだね」

 アキトに対しては誠実でいたい。そんな気持ちで少しの弱音を吐けば、アキトは嬉しそうに笑ってくれた。

「ハル、今日は浄化魔法は俺にかけさせてくれる?」
「いいの?」
「これぐらいはさせて欲しいな」
「…じゃあ、お願いします」

 体ごと向き直れば、アキトはすぐに魔力を練り上げ始めた。相変わらず一切の無駄の無い綺麗な魔力操作だ。感心して見惚れていると、アキトの魔力が俺の体をほわりと包み込んだ。アキトらしい温かくて優しい魔力だ。

「ありがとう、アキト」
「どういたしまして」
「心なしか俺がやるより綺麗な気がする…」
「それは気のせいじゃないかな?」
「アキトの魔力は温かいんだよね、何だか安心する」

 そう言って笑うと、アキトは不意に目を輝かせた。

「ねえハル、俺にマッサージさせてくれない?」
「マッサージ?」
「えーと、足とか腕とかを揉むって事!」
「ああ、筋肉をほぐすって事か」

 そんな事はしなくて良いよと断ろうとしたけれど、ハルのために何かしてあげたいんだと訴えられたら断れる筈が無いよな。

 言われるがままにベッドの上に寝転がると、アキトは俺の脚にそっと触れた。無理に筋肉をほぐすというよりは、血流を良くするためにゆっくりと揉んでいるといった感じだ。これはかなり気持ちが良いな。

「アキト、上手だね」
「本当?動画サイトなんかで自分が筋肉痛の時に調べたりしたからねー」
「…どうがって何だい?」

 急に知らない単語が出てたけれど、この部屋の中でなら誰かに聞かれるという心配も無い。すぐに分からなかった単語を尋ねれば、アキトはえーとと考えながら口を開く。

「…動く絵?みたいなものかな」
「ああ、それを誰でも見られたって感じなのかな?」
「そうそう」

 異世界って面白いな。普通なら秘匿するか高値で売りつけるものだと思うんだが。

「技術は隠すものじゃないんだね?」
「あー…もちろん隠されてる技術もあるよ?」
「そうなのか」

 俺ができるのは簡単なものだけだしとアキトは謙遜しているけれど、これはそんなレベルのものじゃないと思う。

「本当に…気持ち良いな…」

 自然と体の力が抜けていくし脚はポカポカと温まっていく。アキトにこんな技術があるとバレたら狙われるかもしれない。そんな不安が湧いてくるぐらいの心地よさだ。

「ハル、後ろもやりたいからうつ伏せになれる?」
「わかった」

 すぐにごろんと向きを変えれば、今度は太ももからふくらはぎの辺りを優しく揉んでくれる。その力加減があまりに絶妙なんだ。痛みは一切無く、ただ気持ち良い。

「ハル、痛くない?」
「いたくない…気持ち良い、よ」

 声に力が入らない。みっともなく震える俺の声に、アキトはふふと嬉しそうに笑った。

 こんなみっともない姿を見せても、アキトは思ってたのと違うとは言わないんだな。むしろ嬉しそうにしてくれるんだ。

 幸せを噛み締めていた俺は、不意に頭に乗せられた手に目を見開いて固まった。まさか頭にもまっさーじをするわけじゃないよな。そんな事をぼんやりと考えている間に、アキトの手はゆっくりと動き出した。

「え…」

 優しく動く手に、明らかに頭を撫でられている。アキトを撫でた事はあっても、撫でられた事は一度も無かった。両親に最後に撫でられたのだって、もうはっきりとは思いだせないほど昔の話だ。

 慌てて振り返れば、そこには愛おしそうに目を細めながら、俺の頭を撫でているアキトの姿があった。あまりに神々しい姿に見惚れていると、アキトはそっと俺の頭から手を離した。

「ハル、今日は説明を引き受けてくれてありがとう。お疲れ様」

 ああ、さっきまで本当にアキトに頭を撫でられていたんだと理解した瞬間、ボッと頬が赤くなった。今なら顔から火が吹けそうだ。思わず呻きながら枕に顔を埋めれば、アキトは心配そうに声をかけてくる。

「えっと俺は撫でられるの嬉しいからやってみたかったんだけど、ハルは嫌だった?」

 そうか、アキトも撫でられるのは嬉しかったのか。俺も正直に言えば嬉しかった。アキトに撫でられて嫌だなんて思うわけがないだろう。ただ年上なのにとか、甘やかされすぎじゃないかなとか。そんな事を考えてしまっただけだ。

「…いや、嬉しかったよ…」
「そうなの?じゃあもうちょっと撫でて良い?」

 期待を込めたアキトの問いかけに、俺は小さな声で答えた。

「……お願い」

 あれだけ愛おしそうに撫でてもらえるなら、俺は羞恥心を捨てる。
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