生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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311.【ハル視点】可愛すぎる恋人

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 信頼できる依頼人かもしれないと思い始めてはいても、それを表情には決して出してはいけない。まだ聞きたい事はたくさんあるからな。気を引き締めなおした俺に、メロウが横から口を挟んだ。

「日程ははっきりとは指定されていませんが、イーシャル領までの移動中とあちらでの滞在、さらにトライプール領に戻ってくるまで宿泊費は依頼人持ちだそうですよ」

 宿泊費まで持ってくれるのか。俺は宿なんてどこでも良いが、アキトは喜びそうだな。

「そうなのか…野宿の予定は?」

 宿泊費は払いますと言っておいて、到着までずっと野宿なんてふざけた依頼人もいるからな。念のためにと確認すれば、クリスさんは笑顔で答えた。

「イーシャル領までなら、野宿はあっても一度ですね。それ以外は宿を取るつもりです」
「宿の手配はまかせて良いそうですよ」
「それは助かる」
「必要でしたら防音の魔道具をお貸ししますよ?」

 声をひそめて言われた言葉に、俺は片眉をあげた。クリスさんは恋人同士なら必要でしょうと明るく笑って続ける。

「防音結界の魔道具は持ってるから大丈夫だ」
「おや…それはそれは」

 俺が持っているのが誰から譲ってもらったものか、一瞬で分かったみたいだな。

 クリスさんと俺の相談にメロウの補足説明を挟みながら、細かい所の情報をすり合わせていく。

 商売敵が手を出してくるかもしれないという不確定な情報まで、クリスさんは隠しもせずに伝えてくれた。報酬も悪くないし、依頼人も信頼できるとなると、あとはアキトの気持ち次第だな。そう考えていた俺は、カーディさんとこそこそと話しているアキトに視線を向けた。

「もしこの依頼を受けてくれる事が決まったら、色々話したいな」
「…恋人自慢ですか?」
「ああ、俺は伴侶自慢、アキトは恋人自慢でどうだ?」
「いいですね!」
「「二人のやりとり、可愛すぎる…」」

 何げなくアキトとカーディさんのやりとりを聞いていた俺とクリスさんは、二人同時に呟くとそのまま両手で顔を覆った。

 アキトが可愛すぎてどうしたら良いのか分からない。あんな風に嬉しそうにニコニコと笑いながら、カーディさんの提案に同意するとは思っていなかった。もしかして俺の事を誰かに自慢したいと、ずっとそう思ってくれていたんだろうか。

 そう思うとアキトへの愛しさが、ぶわりと溢れてくる。

「あの?」
「どうしたんだ?」

 アキトとカーディさんの不思議そうな声は聞こえてくるけれど、今のこのゆるみきった顔はアキトには見せたく無いな。うつむいたままで聞いていれば、メロウは呆れた声で二人に答えた。

「ああ、驚かせてしまってすみません。お二人のやりとりが可愛すぎると呟いてから二人揃ってこの状態です」

 内容はともかく、無理に顔を上げろと言われないならそれで良い。ありがとう、メロウ。

「元に戻るまで放っておきましょう。よろしければどうぞ」

 何かを勧めているメロウの声にふうと息を吐いて、俺はさっき見たアキトの嬉しそうな顔を思いだしながらぎゅっと目をつむった。



 しばらくしてやっと落ち着いてきた俺達は、ようやくうつむいていた顔を上げた。

「俺の伴侶が可愛すぎる」

 クリスさんがぽつりと呟いた一言に、俺は小さく頷いて同意を示した。

「俺の恋人が可愛すぎる」

 俺の思わずこぼれた言葉にも、クリスさんは小さく頷いてくれた。

「はいはい、その大事な伴侶と恋人が、心配そうに見つめてますよ?」

 メロウはそう言うと、俺とクリスさんをじろりと睨みつけた。

「ごめんね、カーディ」
「いや、まあ良いんだが」
「心配かけてごめん、アキト」
「えーと大丈夫?」
「ああ、問題は何もないよ…それは?」

 俺の視線はアキトの手にしている空っぽの木製カップで止まった。

「二人が動かない間に、私がシャルの果実水をお二人に渡して、イーシャル領の説明をしていました」

 さっき何かを勧めていた気がしたのはこれか。しかもしっかりとイーシャル領の説明までしてくれていたなんて。

「ああ、なるほど。さすがメロウだな。ありがとう」
「ありがとうございます、メロウさん」

 素直にお礼の言葉を告げた俺達に、メロウは軽く手を上げて答えた。

「それで、依頼はどうされますか?」
「…俺は良い依頼だと思ったけど、アキトはどう思う?」
「俺はもちろん受けたい!イーシャル領行ってみたいし!」
「そうか」
「噴水を見に行く時間って取れるかな」
「よし、じゃあ受けようか。こちらの条件は一つだけ、噴水を見に行く時間を取りたい」

 アキトが興味を持った場所なら、ぜひ俺も一緒に行きたい。それにこういうのは後から言われると予定が変わって大変なんだ。そう考えて付け足した条件だったが、アキトは慌てて声を上げた。

「えっと、そこまでしなくても…」
「ありがとうございます。当然その条件は飲ませて頂きます」

 クリスさんは悩む素振りもなく、即答で俺が付け足した条件を受け入れた。おそらく元々予定の無い日もあったんだと思うんだが、アキトは困った顔で尋ねる。

「良いんですか?」
「当然です。依頼中でもしたい事ができたら、すぐ言ってくださいね」
「ああ、そこに遠慮はいらないぞ」

 依頼人である二人からそう断言されたアキトは、少し考えてからありがとうございますと照れ笑いを浮かべた。本当に俺の恋人はいつでも可愛すぎるな。
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