生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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321.【ハル視点】依頼の前に

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 アキトと二人、護衛任務の準備をするのはとても楽しかった。遠出の準備には職業柄慣れているが、こんなに楽しい気持ちで用意をしたのは生まれて初めてだった。

 ただ必要なものを集めていくだけの、いつもの遠出の準備とは全く違う。アキトが喜ぶだろうかと考えながら選ぶだけで、ただ携帯食料を選ぶだけでもこんなに幸せな気持ちになれるんだな。

 レーブンには、護衛依頼を受けたとしっかりと話を通した。依頼人はと聞かれたので、カーディさんとクリスさんだと伝えれば、なるほどと重々しく頷いていた。俺から切り出した宿代の先払いの手続きについての話には、レーブンは不服そうな顔で聞いていたな。

「払わなくても勝手に誰かに貸したりしないぞ」

 ぼそりと呟いた不機嫌そうなレーブンに、アキトは笑ってはい知ってますと返した。

「でも、レーブンさんの気持ちに甘えるのは何か違うと思ったので…ぜひ受け取って下さい」
「…甘えて欲しいと言ってるんだが…?」
「そんな事したら、堂々とここに帰って来れないので」

 アキトは嬉しそうに笑いながら続けた。

「レーブンさんに笑顔でただいまって言わせてください」

 にっこり笑顔でそう言い切ったアキトに、レーブンも負けたと言いたげな笑顔で宿代を受け取った。



 出発の日の朝、早朝に起きだした俺達は出発準備を整えると、黒鷹亭の部屋を出た。早すぎるせいで人が全くいない廊下を進み、階下へと下りていく。

「おはよう、アキト、ハル」

 普段通りに受付カウンターの前に腰を下ろしていたレーブンは、そう言ってアキトに微笑みかけた。

「おはようございます、レーブンさん」
「おはよう、レーブン」
「早くに起こしてしまってごめんなさい」
「いや、俺はいつもこの時間には起きてるからな」

 あっさりとそう答えたレーブンは、普段から朝食の仕込みのために早起きしてるんだと続けた。そういえばこの宿を使った時、レーブンが起きていなかった事って一度も無いな。本当にこいつは寝てるんだろうか。そんな失礼な事を考えていると、レーブンはカウンターに四つの包みを並べた。

「これは差し入れの飯だ、持っていけ」
「良いのか?」

 さすがにこの時間に差し入れを作っているのは見た事が無いんだが。アキトのために無理をしたんだろうか。

「ああ、お前らの分と、クリスとカーディの分だ。一緒に食え」

 あ、違うな、カーディさんもレーブンのお気に入りなのか。下級ばかりの食堂での日雇いに、わざわざ雇うぐらいだもんな。おそらく俺とクリスさんの分は二人のおまけだろう。

「レーブンさん、ありがとうございます!」
「ありがとう」

 レーブンはアキトと俺のお礼の言葉に、照れくさそうに手を振って答えにかえた。

「アキト、ハル」
「はい」
「なんだ?」

 まっすぐに俺達の目を見据えてから、レーブンは口を開いた。

「無事に帰ってこいよ」
「はい!いってきます!」
「いってくる」
「ああ、いってこい」

 アキトのついでとは言え、レーブンにこんな風に声をかけられる日がくるとは思っていなかったな。だが、まあ悪い気分じゃない。俺はアキトと一緒に軽く手を振ってから、黒鷹亭を後にした。



「えーと…まだ来てないかな?」
「ああ、まだみたいだな」

 大門前の広場に辿り着くと、アキトはぐるりと周りを見渡してから声を上げた。

「屋台が無いと広いねぇ」
「ああ、広いな」

 大門が見渡せる場所にあるベンチに並んで腰を下ろしてから、俺達は自然と手を握り合った。街の外では繋げないんだから、今のうちに充電しておかないとな。

「緊張してる?」

 初の護衛依頼だからと聞いてみれば、アキトはすぐに笑って首を振った。

「いや、それが全然してないんだよね」
「そうなのか」
「ハルと一緒だからじゃないかな?」
「それは光栄だな」
「昨日までは旅行前みたいなワクワク感だったんだけど…」
「うん」
「レーブンさんの無事に帰ってこいって言葉で気が引き締まった気がする」
「…そうだな。俺も気が引き締まったよ」

 あの言葉で、絶対に無事にここに帰ってこようと思ったからな。

「さすがレーブンさんだね」
「そう、だな…でもやっぱり他の奴を褒められるとやっぱり妬けるな」
「えーレーブンさんも駄目なの?」

 クスクスと笑い合いながら話していると、クリスさんとカーディさんが道の向こうから歩いてきた。当然のように手を繋いでいるのが、俺達とお揃いだな。

 カーディさんの身にまとっている装備は、きっちりと大事に使い込まれた感のある冒険者装備だった。中でも胸当ては、なかなか良い品だなと思わず見つめてしまった。

 一方クリスさんが着ていたのは、商人がよく使う上質なマントだった。マントの内側に短剣がいくつか納められているようだから、全く戦えないってわけじゃないようだ。

「お待たせしてすみません」
「すまない」
「いや、まだ時間前だ」
「気にしないで下さい」
「じゃあ行こうか」

 さて、アキトにとっては初めての、俺にとっては久しぶりの護衛依頼の始まりだな。
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