生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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324.【ハル視点】レーブンのお気に入り達

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 街道沿いにある休憩所には、先客の馬車が停まっていた。クリスさんの心配していた商売敵かと一応気配は探ってみたが、どうやら家族での旅行中のようだな。両親と子どもが一人か。どうやら不審な点は無さそうだ。

 休憩所にやって来た俺達に気づき、両親らしき二人は馬車から少しだけ顔を出してこちらを警戒していた。旅慣れた人なら当然の反応だ。

「あの辺りで良いか?」
「ええ、ではあちらの切り株の方へ」

 あえて馬車からは遠い隅の方の場所を提案すれば、クリスさんも大きく頷いて同意してくれた。

「お腹空きましたねー」
「ああ、もう腹が鳴りそうだよ」
「でもレーブンさんのごはんですから!」
「それは期待しかないな!」

 さっきからレーブンの作った料理の話が続いている二人は、もしかしたら馬車の存在にすら気づいていないかもしれない。そう思うと自然と笑みがこぼれた。

 俺達が切り株に腰を下ろす頃には、馬車の家族の警戒は薄れていた。アキトとカーディさんのやりとりが、緊張をほぐしたんだろうか。



 レーブンに渡された包みの中には、たくさんの種類のおかずに特製の柔らかパン、更には食べやすい大きさにカットした果物までもが彩り豊かに並んでいた。一体何時に起きたんだ、レーブン。

「うわぁ、美味しそう!」
「ああ、本当にうまそうだな!俺の好きなマルックスの香草焼きもある!」

 嬉しそうに歓声を上げたカーディさんに、アキトも嬉しそうに答えた。

「俺、これが好きなんです」
「あ、ハーレか!これも上手いよな」

 前に朝食で出してもらって、アキトが美味しいって喜んでたやつだな。ハーレは今の時期は季節外れなんだが、一体どこで調達してきたんだろうか。

「これは…レーブンさん、一体何時に起きたんでしょうか」

 盛り上がる二人の邪魔をしないようにこっそりと俺に話しかけてきたクリスさんに、俺も重々しく頷きを返した。

「いつも早朝から起きてるとは言ってたけど…これは相当早起きしたんだろうな」
「ハーレの炒めか…アキトさん、かなり気に入られてますね?」

 季節外れなハーレをわざわざ用意してるんだから、そう言われるのも当然だ。だがマルックスの香草焼きも、差し入れには滅多に入れないだろう。材料こそ珍しいものでは無いが、じっくりと火を通すからとにかく時間がかかる料理だ。

「ああ、だがマルックスの香草焼きが入ってるって事は、カーディさんもお気に入りなんだろう?」
「ええ、まあ」

 ふと気づくと、アキトとカーディさんはそわそわしながら俺達の会話が終わるのを待っていた。

「あ、ごめん、アキト」
「カーディ、ごめんね」

 慌てて謝罪すれば、二人そろってふるふると首を振る。早く食べたいと顔に書いてあるな。俺達は笑って食べようかと声をかけた。

「「いただきます」」

 アキトと俺の重なった声に二人は一瞬だけ不思議そうだったが、食前の祈りかと気づいてくれたようだ。クリスさんは何も言わずに一瞬だけ目をつむり、カーディさんは口内で何かを呟いたのが食前の祈りなんだろうな。

 アキトは、まっさきにハーレの炒め物を口に入れたようだ。

 幸せそうな笑顔に惹かれるように、俺も同じようにハーレを口に運んでみた。独特の食感にチーズの風味が効いていて、確かに美味い。何なら酒が欲しくなる味だな。

「美味しいっ!」
「やっぱりうまいな!」

 カーディさんも一番最初に、好物であるマルックスの香草焼きから口を付けたみたいだ。

「レーブンさんの配合した香草はやっぱりうまいんだよなぁ。これを使ってるとただの野菜のグリルも上手いんだよ」
「すっごく分かります。レーブンさん料理上手ですもんね」

 盛り上がる二人の横で、俺とクリスさんは静かに食べ進めていく。どれも手間がかかっているのが分かる丁寧な料理ばかりだ。食堂で出しているものよりも、かなり繊細に味付けされているのが分かる。

「これは…塩分濃いめにしてくれてるのか…」
「さすがレーブンさんですね。元冒険者だけあって気づかいがすごい」
「塩分?」
「ああ、移動で汗をかくからね。塩分を濃いめに作ってくれてるんだと思う」
「へぇ、俺は分からなかったな。うまいのは分かるんだけど」
「俺も気づかなかったですけど、美味しいです」
「そうですね。分析するより素直な感想の方が、レーブンさんはきっと喜びます」
「ああ、俺達も味わって食べようか」

 レーブンにはきちんと礼を言うし、忘れずに土産も買って帰ろう。俺はそう決意しながら、真剣にレーブンの差し入れを味わった。



 食事を終えた俺達は、それぞれが取り出した飲み物を飲みながらこれからの予定を決める事になった。ざっくりとしか予定を決めてなかったから、今のうちに相談しておきたい。

 自分の分は普通に水を出したが、アキトの分はお気に入りの果実水を渡しておいた。手渡した瞬間の笑顔だけで、移動の疲労が消える気がした。

「昼までにレーウェ川の停泊所に行けば良いんだよな?」
「ええ、そうです」

 クリスさんの即答に、俺はアキトをちらりと見てから口を開いた。

「アキト、今日は野営になるよ」
「うん、分かった」

 ハルのおかげで野営は嫌いじゃなくなったからねと自慢げに言われると、あまりの愛おしさに自然と手が伸びてしまった。

「良かった」

 抱きしめて口づけたい気持ちをぐっと押さえて、俺はアキトの髪をさらりと撫でた。アキトは頬を赤く染めてから、ふいっと視線を反らしてしまった。照れているんだなと明らかなその行動が、たまらなく可愛い。

「それで、野営はどこにする?」
「決めてませんが、街道沿いは避けたいですね」
「そうか…」

 頷いた俺は言葉を切ると、目をつむった。近くにある気配を探ってみたが、どうやらさっき出発していったあの家族連れの馬車ぐらいだな。

「大丈夫だ。近くに人の気配は無いな。それなら、ティシーの森の休憩所はどうだ?」
「あそこは混みあってないですか?」
「今の時期は隣にあるエファールの森が人気の採取地だから、むしろ空いてると思う」

 ストファー魔道具店の経営者なら、説明はこれで十分だろう。

「ああ、なるほど。今はファルブラキノコの時期ですか」
「そうだ」
「ではティシーの森にしましょう」

 やっぱりきちんと通じたみたいだな。そう考えながらちらりと視線を向ければ、カーディさんはキラキラと輝く目でクリスさんを見つめていた。クリスさんは伴侶の視線に気づくなり、ふわりと柔らかい笑みを浮かべた。絡み合う視線が甘い。

 あ、もしかしてこれはチャンスじゃないのか。俺はそっと手を伸ばすと、きゅっとアキトの手を握った。アキトはまん丸な目で俺を見つめてくる。

「ハル?」
「気配は無いから、今だけ許して。…二人もお互いしか見えてないから大丈夫」

 こっそりと囁けば、アキトも嬉しそうに笑ってくれた。

「俺も手を繋ぎたいと思ってた」

 そんな言葉と同時にきゅっと握り返された手に、俺は心から幸せを噛み締めた。
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