生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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340.【ハル視点】惚気話を始めよう

 ふと目が覚めた俺は、まず取り出した魔道具で今の時間を確認した。眠る前にアキトの事を思い浮かべていたせいか、思ったよりもぐっすりと眠ってしまったようだ。

 そろそろ交代の時間だが、もう出ていっても大丈夫だろうか。俺は確認のために、テントの外の会話に耳を澄ませた。これはさすがに盗み聞きじゃないよな。少しだけ不安に思ったが、外から聞こえてきたのはクリスさんの声だった。

「えー…気づかれてたの?」
「いつから聞いてたんだよ?」

 揶揄うようなカーディさんの声も聞こえてくる。うん、もう出ていっても大丈夫だな。

「聞いてるの知っててその話題にしたくせに…」
「まあな」
「それにしても気づいてたの?」
「俺がクリスの事に気づかないわけがないだろう?」
「あー…うん、それもそうだね」

 テントをちらりと捲って外を覗けば、ちょうどカーディさんのつむじにクリスさんが口づける瞬間だった。照れくさそうに笑うカーディさんからさっと視線を反らしているアキトの姿に、俺も口づけたいなと素直にそう思った。

「それにしても、もう交代の時間か?」
「うん、そうだよ。魔道具で確認したから正確だよ?」

 あえてバサリと音を立ててテントから出れば、アキトの視線がすぐに俺を捕らえた。目が合うなり嬉しそうに笑ってくれるなんて、アキトは本当に可愛いな。

「アキト、おはよう。何も問題は無かった?」
「おはよう、ハル。魔物も人も一切来なかったよ」
「それは良かった。安心したよ」

 そう囁きながら、俺はアキトの額に軽い音を立てて口づけた。つむじも良いけれど、額の方が表情が見えるからな。真っ赤になって照れるかと思ったけれど、アキトはぱちりと瞬きをすると幸せそうにふわりと笑った。

「カーディさんとの見張りは楽しかったかい、アキト?」
「うん、すっごく!カーディとは友達になったんだ」
「へぇ、そうなのか」

 さらりと呼び捨てになってるから、アキトの距離感は分かりやすいな。アキトにとっては、ブレイズについでこの世界で二人目の友人になるんだろうか。微笑ましく見守っている俺の後ろで、クリスさんはカーディに友人がと何故かぷるぷる震えていた。

「では交代しますので、ゆっくり休んで下さいね」
「そうだな、安心して眠ってくれ」

 思わず頭を撫でてしまったけれど、アキトは嫌がらなかった。むしろ安心したようにアクビを一つこぼして、涙の滲んだ目で俺を見上げてきた。ああもう本当に可愛いな。もしここにいるのが俺達二人だけだったら、このまま抱きしめて離さないのに。

 そんな事を考えているなんて悟らせない笑顔で、俺はそっとテントを指差した。

「じゃあ、後は頼んだぞ。クリス、ハル」
「まかせて」
「ああ」
「カーディ、盗み聞きしないでよ?」
「しないっての。二人で思う存分語り合ってくれ」

 カーディさんはひらりと手を振ると、テントに向かって歩き出した。アキトも眠たそうにふらふらとテントに向かって歩いていたけれど、不意に振り返って俺をじっと見つめてきた。

 一体どうしたんだろうと心配になった瞬間、アキトはひらひらと手を振りながら声に出さずにおやすみと口を動かした。ああそうか。アキトにとっても眠る前の俺への挨拶は、もう日常になってるんだな。

 じわりと胸の中が温かくなるその行動に、俺は目を細めると口だけを動かしておやすみを返した。それだけの事で幸せそうに笑うから、たまらない気持ちになるんだよな。

「ハルさん、こちらにどうぞ」
「ああ、ありがとう」

 テントが見える位置に、俺達は二人で並んで腰を下ろした。音を立てて燃える焚火をぼんやりと眺めながら、俺はクリスさんに話しかけた。

「なあ、恋人自慢に伴侶自慢って…俺達の大切な人は、ちょっと可愛すぎないか?」
「…ええ、心からそう思います。可愛すぎるでしょう」
「だよなぁ」
「しかも私達にも、好きに語り合えって言うんですからねぇ」

 カーディさんの唐突な提案を思いだしたのか、クリスさんはクスクスと声を立てて笑っている。

「だがまあ、自慢したい事は正直に言えばたくさんあるよな?」
「ええ、それはまあ山のようにありますよね」
「あー…引かれるかもしれないが…アキトに興味を持たれても困るから、誰にでも惚気られるわけじゃないんだ」

 ぽろりとそう本音をこぼせば、クリスさんは引かないですよと苦笑を洩らした。

「だってその気持ち、すっごく分かりますからね」
「ただ、クリスさんが相手なら、その心配は無いなと思ったんだが…」
「ええ、私もハルさん相手なら大丈夫だろうと思ってました」

 クリスさんはそう言うと、私の重い気持ちを知ってもあなたは引かないでしょう?と笑って続けた。

「俺もたいがい重い自覚があるからなぁ」
「では遠慮なく、お話しましょうか」

 本当に俺達はどこまでも似たもの同士みたいだなと考えながら、俺はクリスさんのわざとらしい笑みに微笑みを返した。
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