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341.【ハル視点】クリスさんの思い出話
まずは話を聞こうと視線だけで促せば、クリスさんは楽し気に語りだした。
「私がカーディを知ったのは、もう十年ほど前になります」
二人の出会いは、十年も前なのか。俺ももっとはやくアキトに出会いたかったなという気持ちが湧いてくるけれど、違う世界にいたんだから無理な話だと納得もしてしまう。
「ちょうどストファー魔道具店を立ち上げたばかりの頃でした」
クリスさんは昔から壊れた魔道具を修理したり、元々ある魔道具を改良したりするのが大好きだったらしい。大人になってからもこつこつと修理や改良を請け負い、新作の魔道具を作ったりしているうちに、気づけば裏路地にひっそりと店を持つ事になったらしい。
ただの惚気話を聞くつもりが、今ではすっかり有名店であるストファー魔道具店の成り立ちを知ってしまった。何だか得をした気分だな。
「その裏路地は、当時は冒険者の通り道になってましてね」
そこを歩いてギルドに向かう冒険者を、暇な時はぼんやりと眺めていたらしい。
「当時は毎日忙しいわけじゃなかったですからね」
「まあそうだろうな」
ある日、クリスさんは窓の外を通っていた冒険者と目が合ったそうだ。
「きょとんと大きな目で私と見つめあってから、不意にふわりと笑ったんですよ」
「それが、カーディさんか」
「ええ、まあ当時は名前も知らなかったんですけどね」
今思えば、あの頃から私はカーディの事を好きだったんだと思います。そう断言したクリスさんはふわりと笑った。
「それからどうなったんだ?」
「裏路地にある魔道具店の店主が、冒険者に声なんてかけれないでしょう?」
「あー…カーディさんは気にしなさそうだけどな?」
当時のクリスさんもそうは思ったけれど、それでも声はかけられなかったらしい。
「でも諦めきれなかったんだな」
「ええ。そこで俺が考えたのは、有名店になれば直接依頼もできるんじゃないかって事でした」
「正しい判断だな」
むしろ路地裏で声をかけるよりは、最初の好感度が高い状態になるだろう。そう思って判断を褒めたんだが、クリスさんは苦笑いを浮かべた。
「数年かけて努力した結果、店は大通りに移り有名店にはなれましたが…今度は忙しすぎて指名依頼を出す時間もなかったんですよ」
「あー…依頼は待ってくれないからなぁ…」
バタバタと依頼をこなすだけの日々を気合だけで続けていたクリスさんは、ある日持ち込まれた素材のあまりに質の悪さに、思わず文句を言ってしまったらしい。
「今でもはっきりと覚えています。あれは二日続けて徹夜をした日で、私は持ち込んできた冒険者の顔なんて全く見ていなかったんですよ……ええ、あれは今思いだしてもぞっとしますね」
「……もしかして、カーディさんだったのか?」
重々しく尋ねれば、クリスさんは沈鬱な表情で頷いた。
「ええ、数人の冒険者の中に混ぜっていたんですよ。カーディが」
俺は思わずうわぁと呟いてしまった。ずっと想いを寄せていた相手に、その相手だと気づかずにひどい事を言ってしまう。想像するだけでもぞっとする。
「あれ?でもじゃあなんで今は一緒にいるんだ?」
クリスさんは幸せそうに笑ってから、教えてくれた。
他の冒険者はストファー魔道具店相手に揉めたくないと安い値段で素材を売って帰ったが、カーディだけはクリスさんをじろりと睨みつけて言い返したんだそうだ。
「そんなに処理の仕方にこだわりがあるなら、ちゃんと依頼票に記載しておけー!…ってすごい勢いで叫ばれたんですよ。そこでカーディだと気づいたんですけどね…」
「なるほど、言い返してくれて良かったな」
「ええ、本当に」
しみじみとそう呟くと、クリスさんは楽し気に続けた。
「当時は素材の質がバラバラで困っていた事もあって、依頼票にそんな事を記入できるんですか?できるならその方法を教えて欲しいとお願いしたんです」
「…教えてくれたんだな?」
「ええ、カーディは中身まで素晴らしい人だって、その時は感動しましたね」
このまま縁が切れてしまうのだけは絶対に嫌だと、クリスさんは勇気をふり絞ってお礼にご馳走させて欲しいとご飯に誘ったらしい。
「頑張ったんだな」
「かなり頑張りましたね」
一瞬だけ遠い目をしたクリスさんは、でも誘って良かったんですよと笑った。
お酒と料理の好みが近くて、話題も豊富。しかも両親ですら嫌がった魔道具の話まで真剣に聞いてくれる上に、的確な質問まで挟んでくれる。話せば話すほど好きにならずにいられなかったそうだ。
「友人になってからは、少しずつ嫌われない程度に私生活を見せていったんですが…実は私、魔道具の開発に夢中になると、生活がおろそかになるタイプなんですよ」
どうやら集中しすぎると、食事、掃除、睡眠まで全てを忘れてしまうらしい。
「普通なら距離をとられる所だと思うんですけどね…当時友人になっていたカーディは、飯を食え、掃除をしろ、きちんと寝ろって何度も何度も注意してくれるんですよ」
「それは…うん、なおす気がなくなるな」
思いを寄せている相手があれこれと世話を焼いてくれるなら、俺だったらその状況を利用するだろう。そうぽつりと呟いた俺に、クリスさんはそうなんですよと力強く答えた。
「私がカーディを知ったのは、もう十年ほど前になります」
二人の出会いは、十年も前なのか。俺ももっとはやくアキトに出会いたかったなという気持ちが湧いてくるけれど、違う世界にいたんだから無理な話だと納得もしてしまう。
「ちょうどストファー魔道具店を立ち上げたばかりの頃でした」
クリスさんは昔から壊れた魔道具を修理したり、元々ある魔道具を改良したりするのが大好きだったらしい。大人になってからもこつこつと修理や改良を請け負い、新作の魔道具を作ったりしているうちに、気づけば裏路地にひっそりと店を持つ事になったらしい。
ただの惚気話を聞くつもりが、今ではすっかり有名店であるストファー魔道具店の成り立ちを知ってしまった。何だか得をした気分だな。
「その裏路地は、当時は冒険者の通り道になってましてね」
そこを歩いてギルドに向かう冒険者を、暇な時はぼんやりと眺めていたらしい。
「当時は毎日忙しいわけじゃなかったですからね」
「まあそうだろうな」
ある日、クリスさんは窓の外を通っていた冒険者と目が合ったそうだ。
「きょとんと大きな目で私と見つめあってから、不意にふわりと笑ったんですよ」
「それが、カーディさんか」
「ええ、まあ当時は名前も知らなかったんですけどね」
今思えば、あの頃から私はカーディの事を好きだったんだと思います。そう断言したクリスさんはふわりと笑った。
「それからどうなったんだ?」
「裏路地にある魔道具店の店主が、冒険者に声なんてかけれないでしょう?」
「あー…カーディさんは気にしなさそうだけどな?」
当時のクリスさんもそうは思ったけれど、それでも声はかけられなかったらしい。
「でも諦めきれなかったんだな」
「ええ。そこで俺が考えたのは、有名店になれば直接依頼もできるんじゃないかって事でした」
「正しい判断だな」
むしろ路地裏で声をかけるよりは、最初の好感度が高い状態になるだろう。そう思って判断を褒めたんだが、クリスさんは苦笑いを浮かべた。
「数年かけて努力した結果、店は大通りに移り有名店にはなれましたが…今度は忙しすぎて指名依頼を出す時間もなかったんですよ」
「あー…依頼は待ってくれないからなぁ…」
バタバタと依頼をこなすだけの日々を気合だけで続けていたクリスさんは、ある日持ち込まれた素材のあまりに質の悪さに、思わず文句を言ってしまったらしい。
「今でもはっきりと覚えています。あれは二日続けて徹夜をした日で、私は持ち込んできた冒険者の顔なんて全く見ていなかったんですよ……ええ、あれは今思いだしてもぞっとしますね」
「……もしかして、カーディさんだったのか?」
重々しく尋ねれば、クリスさんは沈鬱な表情で頷いた。
「ええ、数人の冒険者の中に混ぜっていたんですよ。カーディが」
俺は思わずうわぁと呟いてしまった。ずっと想いを寄せていた相手に、その相手だと気づかずにひどい事を言ってしまう。想像するだけでもぞっとする。
「あれ?でもじゃあなんで今は一緒にいるんだ?」
クリスさんは幸せそうに笑ってから、教えてくれた。
他の冒険者はストファー魔道具店相手に揉めたくないと安い値段で素材を売って帰ったが、カーディだけはクリスさんをじろりと睨みつけて言い返したんだそうだ。
「そんなに処理の仕方にこだわりがあるなら、ちゃんと依頼票に記載しておけー!…ってすごい勢いで叫ばれたんですよ。そこでカーディだと気づいたんですけどね…」
「なるほど、言い返してくれて良かったな」
「ええ、本当に」
しみじみとそう呟くと、クリスさんは楽し気に続けた。
「当時は素材の質がバラバラで困っていた事もあって、依頼票にそんな事を記入できるんですか?できるならその方法を教えて欲しいとお願いしたんです」
「…教えてくれたんだな?」
「ええ、カーディは中身まで素晴らしい人だって、その時は感動しましたね」
このまま縁が切れてしまうのだけは絶対に嫌だと、クリスさんは勇気をふり絞ってお礼にご馳走させて欲しいとご飯に誘ったらしい。
「頑張ったんだな」
「かなり頑張りましたね」
一瞬だけ遠い目をしたクリスさんは、でも誘って良かったんですよと笑った。
お酒と料理の好みが近くて、話題も豊富。しかも両親ですら嫌がった魔道具の話まで真剣に聞いてくれる上に、的確な質問まで挟んでくれる。話せば話すほど好きにならずにいられなかったそうだ。
「友人になってからは、少しずつ嫌われない程度に私生活を見せていったんですが…実は私、魔道具の開発に夢中になると、生活がおろそかになるタイプなんですよ」
どうやら集中しすぎると、食事、掃除、睡眠まで全てを忘れてしまうらしい。
「普通なら距離をとられる所だと思うんですけどね…当時友人になっていたカーディは、飯を食え、掃除をしろ、きちんと寝ろって何度も何度も注意してくれるんですよ」
「それは…うん、なおす気がなくなるな」
思いを寄せている相手があれこれと世話を焼いてくれるなら、俺だったらその状況を利用するだろう。そうぽつりと呟いた俺に、クリスさんはそうなんですよと力強く答えた。
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