生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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349.青い屋根の屋台

 人混みの中で急に与えられたハルの甘やかな仕草に、俺は頬を赤く染めて視線を反らした。いや嬉しいんだよ?嬉しいんだけど、そういうのは二人きりの時にやって欲しい。そしたら思う存分ハルに甘えられるのに。

「あ、店見えた!」

 そんな事をぼんやりと考えながら歩いていた俺は、不意に後ろから聞こえてきたカーディの声で我に返った。

「え、どこ?」

 思わず聞き返せば、クリスさんがにっこり笑顔で答えてくれた。

「あそこに見えてる、青い屋根の屋台ですよ」

 クリスさんの指先を視線で追い、青色を探せば言われた屋台はすぐに発見できた。裏通りの人通りも多くない場所に唐突に現れたその屋台は、たった一軒だけぽつんとそこに佇んでいた。

「あれ…やけに空いてませんか?」
「本当だ、いつもすごく混んでるのに…」

 もしかして…と心配そうに言い合う二人の会話を聞きながら近づいていくと、屋台の前には品切れ中の紙がでかでかと貼りだされていた。

「えー…嘘だろ…?」

 もう食べる口になってたのにと寂しそうにぽつりと呟いたカーディの独り言は、店の奥から大きな木箱を運んでいたおじさんにも聞こえてしまったみたいだ。

「お客さんかい?悪ぃな、ついさっき売り切れた所でなぁ」

 いつもならこんな時間に品切れなんて起きないんだがと、俺達を見つめて申し訳なさそうに謝ってくれた。この世界でも群を抜いて筋肉質な逞しいおじさんだけど、きっと良い人なんだろうな。カーディは慌ててぶんぶんと首を振った。

「ああ、いや謝らないでくれ。こっちこそ悪かった。あの味が食べたくてつい言葉が零れただけなんだ」
「船着き場が初の連れがいたので、ぜひここの川魚を食べさせたかったので…すみません」

 気づけばクリスさんまで一緒になって謝り返していた。

「また食べたいと思うあのうまさだからな、売り切れも仕方ないさ」

 魚の質も良ければ味付けも良いし、焼き加減も最高だからなとお店の味を褒めちぎり出したカーディに、おじさんは日に焼けた顔をくしゃりと崩して笑った。

「今も息子たちは漁に出てるから、帰ってきたらまた再開する予定ではあるんだが…あんたら、時間はまだあるのかい?」

 俺達は四人で顔を突き合わせて、相談を始めた。

「船の時間まではまだかなり時間がありますね」
「でも、買い物はしなくて良いのか?」

 カーディはちらりと俺に視線を向けてそう尋ねた。アキトは興味ありそうだっただろう?と話を振ってくれたカーディに、俺は笑顔で即答した。

「ありがとう。でも、これが買いたいってものがあるわけじゃないから、買い物は俺は大丈夫だよ」

 そう答えればカーディとクリスさんは、遠慮じゃなくて本当にそう思ってるのか?と声を揃えて尋ねてきた。綺麗なハモりっぷりに、俺は伴侶になるとそういう所が似てくるのかな?とのんきに考えながら口を開いた。

「本当ですよ、それに…正直に言うとカーディとクリスさんがそこまで言う味、俺もぜひ食べてみたいです!」
「そうか」
「後悔はしない味ですよ。ハルは?」
「ああ、俺も食べたいし、アキトにここの川魚串を食べてもらいたい。ここのは本当に美味いんだよ」
「聞くまでも無かったですね」

 ふふと笑ったクリスさんは俺達の返事を作業の手を止めて待ってくれていたおじさんの方を向くと、ぜひ待たせてもらいたいですと代表して答えてくれた。

「そうかそうか。そこまで言ってくれる客は滅多にいないからなぁ、歓迎するぜ」

 おじさんは楽し気に声を上げて笑うと、建物の脇にある小道をそっと指差した。ちょうど屋台の後ろにあるその建物は、店主のおじさんのお家なんだそうだ。

「その裏に椅子があるから、川でも見て待っていたら良い。魚が来たら声をかけてやるからよ」

 俺達は四人揃ってお礼の言葉を述べると、これ以上作業の邪魔をしないようにと教えてもらった場所へと歩き出した。狭い道だからと一旦手を離し、一列になって路地を進む。

「それにしてもこの辺りで時間をつぶす場所なんてあったか?ってさっきから考えてたんだが…店主のおかげで助かったな」
「ええ、大通りまで戻るのも面倒な距離ですしね」

 後ろから聞こえてくるハルとクリスさんの会話を聞きながら歩いていると、前を歩いていたカーディがちらりと俺の方を振り返った。

「待てば食べれるってんなら、待つ一択だよなぁ」
「うん、すごく楽しみ!」
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