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356.【ハル視点】嫌な予感と売り切れ
急にこんな所で触れた事に驚いたのか、アキトは頬を赤く染めてうつむいてしまった。ささやかな触れ合いだと思ったが、これはアキト的に駄目な行動だったのか。反省しながら歩いていると、不意に後ろからカーディさんの声が聞こえてきた。
「あ、店見えた!」
「え、どこ?」
思わずと言った様子でアキトが聞き返せば、クリスはにっこり笑顔で答えてくれた。
「あそこに見えてる、青い屋根の屋台ですよ」
アキトはクリスの指差した方を見つめ、青い屋根を見つけてあそこがと嬉しそうに呟いた。嬉しそうなアキトは可愛いが、何だか嫌な予感がする。極端に人が少ないし、活気が全く無い。これは…。
「あれ…やけに空いてませんか?」
「本当だ、いつもすごく混んでるのに…」
この店に来た事のある二人も、やっぱり同じ意見のようだ。アキトにここの串焼きを食べさせたいと思っていた俺は、なかば祈るような気持ちで屋台へと近づいていった。
「えー…嘘だろ…?」
辿り着いた屋台の前には、品切れ中の文字が貼りだされていた。
「もう食べる口になってたのに…」
寂しそうにぽつりと呟いたカーディさんのひとり言は、店の奥から大きな木箱を運んで近づいてきていた男性にも聞こえたようだ。
「お客さんかい?悪ぃな、ついさっき売り切れた所でなぁ」
いつもならこんな時間に品切れなんて起きないんだが。俺達を見つめて申し訳なさそうにそう謝るこの男性は、俺の記憶通りならこの屋台の店主だ。元漁師で今は引退していると聞いていたが、今でも現役時代と変わらない巨体だ。
「ああ、いや謝らないでくれ。こっちこそ悪かった。あの味が食べたくてつい言葉が零れただけなんだ」
「船着き場が初の連れがいたので、ぜひここの川魚を食べさせたかったので…すみません」
気づけばカーディさんにクリスも一緒になって謝っていた。まあ俺でもアキトのためならいくらでも謝れるし頭も下げられから、気持ちは分かる。
「また食べたいと思うあのうまさだからな、売り切れも仕方ないさ。魚の質も良ければ味付けも良いし、焼き加減も最高だからな」
幸せそうに笑って褒めちぎっているカーディさんに、店主は日に焼けた顔をくしゃりと崩して笑った。
「今も息子たちは漁に出てるから、帰ってきたらまた再開する予定ではあるんだが…あんたら、時間はまだあるのかい?」
店主の口から飛び出した予想外の言葉に、俺達は四人で顔を突き合わせて相談を始めた。
「船の時間まではまだかなり時間がありますね」
「でも、買い物はしなくて良いのか?」
カーディさんはそう言いながらも、アキトの表情をじっと伺っていた。何度も船着き場に来た事のある俺達ならともかく、アキトはどこかに行きたいんじゃないのか?と心配してくれているみたいだ。カーディさんが言わなければ俺が聞くつもりではあったが、その気づかいがすごく嬉しい。
昨夜クリスが散々語っていた、自分よりも伴侶を優先してくれる人の方が好感度が高くなるという話はどうやら本当のようだ。
「ありがとう。でも、これが買いたいってものがあるわけじゃないから、買い物は俺は大丈夫だよ」
笑顔で答えたアキトの表情に嘘は無かったけれど、それが分かるほどの付き合いのないカーディさんとクリスはそれは遠慮じゃないのかと声を揃えている。
「本当ですよ、それに…正直に言うとカーディとクリスさんがそこまで言う味、俺もぜひ食べてみたいです!」
「そうか」
「後悔はしない味ですよ。ハルは?」
アキトがこう言っているのに拒否するわけが無いだろうと確信しているだろうに、クリスは俺に向かって雑に尋ねてきた。
「ああ、俺も食べたいし、アキトにここの川魚串を食べてもらいたい。ここのは本当に美味いんだよ」
「聞くまでも無かったですね」
ふふと笑ったクリスは俺達の返事を作業の手を止めて待ってくれていた店主の方を向くと、ぜひ待たせてもらいたいですと代表して答えた。
「そうかそうか。そこまで言ってくれる客は滅多にいないからなぁ、歓迎するぜ」
いつも忙しそうに火加減を見ている店主だと思っていたが、ここまで楽し気に笑っている姿は初めて見たな。楽し気に声を上げて笑うと、建物の脇にある小道をそっと指差した。
「その裏に椅子があるから、川でも見て待っていたら良い。魚が来たら声をかけてやるからよ」
裏通りのこの辺りでは、落ち着いて待てる場所なんてそうそう思いつかない。かといって大通りまで出るのにも時間がかかる。どうしようかと考えていた所への思いがけない提案に、俺は丁重にお礼を言ってから歩き出した。
狭い道だからと渋々ながらアキトの手を離し、俺達は一列になって路地を進む。
「それにしてもこの辺りで時間をつぶす場所なんてあったか?ってさっきから考えてたんだが…店主のおかげで助かったな」
「ええ、大通りまで戻るのも面倒な距離ですしね」
同じ事を考えていたらしいクリスと話しながら歩いていると、一番前を歩いていたカーディさんがちらりとアキトの方を振り返った。
「待てば食べれるってんなら、待つ一択だよなぁ」
「うん、すごく楽しみ!」
嬉しそうなアキトの姿に癒されていると、ぽつりと伴侶が可愛くてつらいとクリスが呟いた。その気持ちは分かる。
「あ、店見えた!」
「え、どこ?」
思わずと言った様子でアキトが聞き返せば、クリスはにっこり笑顔で答えてくれた。
「あそこに見えてる、青い屋根の屋台ですよ」
アキトはクリスの指差した方を見つめ、青い屋根を見つけてあそこがと嬉しそうに呟いた。嬉しそうなアキトは可愛いが、何だか嫌な予感がする。極端に人が少ないし、活気が全く無い。これは…。
「あれ…やけに空いてませんか?」
「本当だ、いつもすごく混んでるのに…」
この店に来た事のある二人も、やっぱり同じ意見のようだ。アキトにここの串焼きを食べさせたいと思っていた俺は、なかば祈るような気持ちで屋台へと近づいていった。
「えー…嘘だろ…?」
辿り着いた屋台の前には、品切れ中の文字が貼りだされていた。
「もう食べる口になってたのに…」
寂しそうにぽつりと呟いたカーディさんのひとり言は、店の奥から大きな木箱を運んで近づいてきていた男性にも聞こえたようだ。
「お客さんかい?悪ぃな、ついさっき売り切れた所でなぁ」
いつもならこんな時間に品切れなんて起きないんだが。俺達を見つめて申し訳なさそうにそう謝るこの男性は、俺の記憶通りならこの屋台の店主だ。元漁師で今は引退していると聞いていたが、今でも現役時代と変わらない巨体だ。
「ああ、いや謝らないでくれ。こっちこそ悪かった。あの味が食べたくてつい言葉が零れただけなんだ」
「船着き場が初の連れがいたので、ぜひここの川魚を食べさせたかったので…すみません」
気づけばカーディさんにクリスも一緒になって謝っていた。まあ俺でもアキトのためならいくらでも謝れるし頭も下げられから、気持ちは分かる。
「また食べたいと思うあのうまさだからな、売り切れも仕方ないさ。魚の質も良ければ味付けも良いし、焼き加減も最高だからな」
幸せそうに笑って褒めちぎっているカーディさんに、店主は日に焼けた顔をくしゃりと崩して笑った。
「今も息子たちは漁に出てるから、帰ってきたらまた再開する予定ではあるんだが…あんたら、時間はまだあるのかい?」
店主の口から飛び出した予想外の言葉に、俺達は四人で顔を突き合わせて相談を始めた。
「船の時間まではまだかなり時間がありますね」
「でも、買い物はしなくて良いのか?」
カーディさんはそう言いながらも、アキトの表情をじっと伺っていた。何度も船着き場に来た事のある俺達ならともかく、アキトはどこかに行きたいんじゃないのか?と心配してくれているみたいだ。カーディさんが言わなければ俺が聞くつもりではあったが、その気づかいがすごく嬉しい。
昨夜クリスが散々語っていた、自分よりも伴侶を優先してくれる人の方が好感度が高くなるという話はどうやら本当のようだ。
「ありがとう。でも、これが買いたいってものがあるわけじゃないから、買い物は俺は大丈夫だよ」
笑顔で答えたアキトの表情に嘘は無かったけれど、それが分かるほどの付き合いのないカーディさんとクリスはそれは遠慮じゃないのかと声を揃えている。
「本当ですよ、それに…正直に言うとカーディとクリスさんがそこまで言う味、俺もぜひ食べてみたいです!」
「そうか」
「後悔はしない味ですよ。ハルは?」
アキトがこう言っているのに拒否するわけが無いだろうと確信しているだろうに、クリスは俺に向かって雑に尋ねてきた。
「ああ、俺も食べたいし、アキトにここの川魚串を食べてもらいたい。ここのは本当に美味いんだよ」
「聞くまでも無かったですね」
ふふと笑ったクリスは俺達の返事を作業の手を止めて待ってくれていた店主の方を向くと、ぜひ待たせてもらいたいですと代表して答えた。
「そうかそうか。そこまで言ってくれる客は滅多にいないからなぁ、歓迎するぜ」
いつも忙しそうに火加減を見ている店主だと思っていたが、ここまで楽し気に笑っている姿は初めて見たな。楽し気に声を上げて笑うと、建物の脇にある小道をそっと指差した。
「その裏に椅子があるから、川でも見て待っていたら良い。魚が来たら声をかけてやるからよ」
裏通りのこの辺りでは、落ち着いて待てる場所なんてそうそう思いつかない。かといって大通りまで出るのにも時間がかかる。どうしようかと考えていた所への思いがけない提案に、俺は丁重にお礼を言ってから歩き出した。
狭い道だからと渋々ながらアキトの手を離し、俺達は一列になって路地を進む。
「それにしてもこの辺りで時間をつぶす場所なんてあったか?ってさっきから考えてたんだが…店主のおかげで助かったな」
「ええ、大通りまで戻るのも面倒な距離ですしね」
同じ事を考えていたらしいクリスと話しながら歩いていると、一番前を歩いていたカーディさんがちらりとアキトの方を振り返った。
「待てば食べれるってんなら、待つ一択だよなぁ」
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