生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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361.【ハル視点】美味しい川魚

 店主の伴侶に促されるまま、俺とアキト、そしてクリスもすぐにそれぞれの串をお皿から持ち上げた。

 ちらりとクリスがかぶりつく様子を見てから、アキトは大きくあーんと口を開いた。ちまちまと食べるよりも豪快に食べた方が美味しいから、正しい判断だな。

「んんー!!!」

 言葉も出ないほど美味しかったのか、アキトは唸りながらも目を輝かせている。口に合ったようで何よりだな。魚の脂で汚れてしまったアキトの口元を、俺は指先でくいっと拭った。ペロリとその指先を舐めれば、アキトは恥ずかしそうに視線を反らした。

「美味しいっ!」
「あはは、お客さん、本当に美味しそうに食べてくれるね」
「!だって!すっごく美味しいですっ!三人がここの串は最高だって絶賛しているのは沢山聞いてきたけど、それで上がり切っていた期待値の、更に上をいく美味しさでしたっ!」

 熱弁を振るうアキトに、店主の伴侶は嬉しそうに笑っている。

「本当に600グルで良いんですか…もっと払いたい…払わせてください…」

 縋るようにそう呟くアキトに、店主の伴侶も含めて思わず全員で笑ってしまった。よっぽど美味しかったんだなとは分かるけれど、もっと払いたいと言い出す客なんて滅多にいないからな。

「あー…ありがとう。でも気持ちだけ貰っておくね。伴侶のこだわりがあるのに、俺が勝手に値上げなんてできないから」
「わかりました…」

 渋々ながらも主張を引っ込めたアキトは、もう一口齧りつくと幸せそうに口を動かしている。

「いつも美味しいですが…今日は更に美味しい気がしますね?」

 クリスが呟くのを聞いて俺もすぐに齧りついたけれど、本当に今日のはいつもの川魚串以上に旨味が濃い気がする。

「ああ、いつも以上に魚が新鮮だからじゃないのか?これはいつも以上に美味いな」

 俺達が幸せに浸りながらも口々に感想を言えば、店主の伴侶は自慢げに笑った。

「うちの息子の採ってきた魚を、うちの旦那が捌いたばっかりだからね」

 当然だと言いたげな表情は家族への信頼に溢れていて、何だか眩しく見えてしまった。良い家族なんだろうなと、素直にそう思った。



 美味しく川魚串を食べ終えた俺達は、店主の伴侶に丁寧にお礼を述べてから、またしても狭い路地を進み屋台のある側へと戻る事にした。薄暗い路地を進んでいくと、ざわざわと人の騒めきが近づいてくる。ようやく見えた屋台の前には、たくさんの人で混雑していた。

「うわぁ…すごい行列…」
「ああすごいなぁ…まあ、でもこれがいつもの景色だぞ」

 カーディさんが笑って返せば、クリスも楽し気に続けた。

「むしろ、見慣れた光景で安心しますね」
「え、そうなんだ?」
「そう考えると、売り切れてて幸運だったのかもしれないね?すごい景色も見れたし」

 もし売り切れてなかったら、あの景色には出会えなかっただろう。そう続けた俺に、アキトは嬉しそうに笑って同意してくれた。

「うん、そうかも!」

 店主は忙しそうに動き回りながらも、真剣な表情で手元の火を見張っている。あの焼き加減は熟練の技なんだろうな。そう思って眺めていれば、不意に店主の顔が上がった。

 俺達の方に視線を向けた店主は、声には出さずにそっと口だけを動かした。うまかったか?そう尋ねてきた店主に、アキトがすごくと答えれば自慢げにニヤリと笑ってみせた。またおいでと口を動かしてからひらりと手を振る店主に、四人揃ってぺこりと頭を下げてから俺達は混みあう屋台の近くを後にした。

 裏道を歩いていけば、これからあの屋台へ向かうのだろう人達とすれ違った。

「お店ってこの先?」
「そうそう、裏路地なのに人気店なんだよ」

 これはまだまだ混雑しそうだな。売り切れてくれていて、本当に良かったかもしれない。そんな事を考えていると、不意にアキトがきゅっと俺の手を強く握った。呼ばれた気がして視線を向ければ、アキトは幸せそうに笑っていた。

「また船着き場に来たら、ここに来ないとだね」
「アキトも気に入ってくれたんだね」
「うん、すっごく美味しかった」
「また来ようね」

 また行きたいという場所がどんどん増えていくのが、アキトがこの世界に馴染んでいる証拠みたいだ。俺はほんわかと温かい気持ちのまま、大通りへと続く道を歩き続けた。
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