生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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362.船着き場の船着き場

 次の目的地である船の係留地へ向かって歩きながら、俺はきょろきょろと周りを見回していた。大通りにさえ出ればもう少し道が分かるかなと思ったんだけど、どうやら甘かったみたいだ。

 普通なら大通りと言えばまっすぐの一本道が多いけれど、ここの大通りはいくつもの道が合流しては分かれていく。もうどこをどう歩いているのかも全く分からないけれど、ハルが手を引いてくれているので不安は無い。

 おかげで俺は周りを観察しながら、のんきに歩いていられるってわけだ。

 しゃがみこんでいる衛兵さんに、半分泣きながら道を尋ねている子ども達。買い出しにでも来たのか、たくさんの荷物を抱えた冒険者達。あっちの店が美味しかったこっちの店が美味しかったと、大きな声で情報交換に励んでいる商人達。のんびりと景色を眺めながら物珍しそうに歩いている旅人達。そしてそんな人達の間をするりするりと通り抜けていく地元の人達。

 ぱっと見渡しただけでもたくさんの人がいて、見ているだけでも飽きそうに無い。

「その次の角…でしたか?」

 どこか不安そうに尋ねるクリスさんに、ハルは笑って頷いた。

「ああ、次の角で左だな」
「道案内としても優秀ですね、ハルは」
「そうか?自信は無さそうだったが、クリスも道は分かってただろう?」
「いえ、さすがにここは…複雑すぎて自信が無いんですよ」
「そういうものか?」

 ぽんぽんと交わされるハルとクリスさんの会話を聞きながら角を曲がれば、目の前に現れたのは高級感のある大きな建物だった。

「無事に着いたかー良かった!」

 建物が視界に入るなり、さっきから黙ったままだったカーディが急に声を上げた。

「森の中なら良いんだけど、俺はこういう街とかは苦手なんだよな」

 カーディは苦笑を浮かべながらそう続けた。いやでも、森の中なら良いんだけどって言いきれるのも十分すごい事だよ。俺なんて森の中もまだちょっと慣れてきたかなぐらいだから。ハルに頼ってばかりだし、俺ももっと頑張らないとな。

 そんな事を考えていたら、ハルがくいっと俺の手を軽く引いた。何だろうと思う間も無く、後ろからどやどやと集団が通過していった。ハルが手を引いてくれていなかったら、あの集団の勢いに巻き込まれていたかもしれない。

「ごめん、ぼーっとしてた」
「気にしないで。初めて見るとちょっと面白い建物だよね」

 柔らかく笑ったハルにちょっと反省していただけだとは言えなくて、俺は慌てて大きな建物を見上げてみた。

 細やかな彫刻が施されている真っ白なその建物には、所々に淡い色合いで魚や鳥の絵が描かれているようだ。何となく水族館とか動物園みたいな建物に見えてくる。さっきは絵がある事にすら気づかなかったけど、これは確かに見つめていたくなる建物だ。

 まじまじと目の前の建物を観察していると、ふととある絵の所で視線が止まった

「ハル、あれって…さっき教えてもらったビレーとテルウ?」

 淡いピンク色と淡い青色で描かれた鳥の絵を指差せば、ハルは嬉しそうに笑いながら頷いてくれた。

「そうだよ。ここはレーウェ川に関係のある、魚や鳥の絵が描かれているんだ」
「なるほど、それでビレーとテルウがいるんだ」

 感心しながら見上げていると、カーディと離していたクリスさんが不意にこちらを向いた。

「ちなみに二階の左から二つ目の窓横の黄色い魚が、今日食べた魚ですよ」
「そうなんですか!?へーあんな見た目なんだ」

 これは確かに面白い建物だな。レーウェ川に詳しくない人には綺麗な絵の描かれた建物にしか見えないけれど、詳しくなればなるほど絵の意味が分かるようになるんだ。

「この建物を抜ければ船も見えてきますからね。そろそろ行きましょうか」

 クリスさんの言葉をきっかけに、俺達は人の流れに乗って建物の中へと足を進めた。

「こっちですよ」

 たくさんの人でごった返していた建物の中を、カーディと手を繋いだままのクリスさんは慣れた様子で歩いていく。俺とハルも慌てて二人の後を追った。

 建物の二階に続く階段の前には、ビシッとスーツの様な服を着こなしている男性が二人待ち構えていた。目に見えて武器とかを持ってるわけじゃないけど、明らかに強そうな人達だ。警備員か衛兵みたいな役目なんだろうか。

「ここから先は、貸出船の受付です。どちらにご用でしょうか?」

 柔らかい声でそう尋ねられたクリスさんは、堂々としたまま答えた。

「予約をしているクリス・ストファーです」
「ストファー様、お待ちしておりました。お連れ様は三名様ですね」
「ええ、間違いありません」
「では、ご案内いたします。こちらへどうぞ」
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