364 / 1,561
363.船の待合室
ゆったりと歩いていく案内役の男性の背中を追って、俺達は階段を上っていった。辿り着いた二階の広い廊下には、いくつものドアがずらりと並んでいた。俺にはどのドアも同じに見えるけど、男性は迷いなくひとつのドアの前で立ち止まった。
「少々お待ち下さい」
俺達に声をかけた男性はすぐに鍵の束を取り出した。
「乗船手続きは係の者が参りますので、それまでおくつろぎ下さい」
男性の手によって開かれたドアからそっと中を覗き込めば、部屋の中には豪華なテーブルと椅子が並んでいた。それほど広くはない室内だけど、奥の方にはかなり大きな窓があるみたいだ。えっと、これはすごく豪華な待合室(個室)って感じなのかな。
何だかすごい場違いな場所に来てしまったかもしれない。咄嗟にそう思ってしまった庶民な俺と違って、他の三人の振る舞いは堂々としたものだ。
「それでは失礼いたします」
ドアを閉める音すら立てずに男性が退室すると、思わずふうと息が漏れた。
「アキト、大丈夫?」
「あ、ごめん、大丈夫!ただこういう雰囲気に馴染みが無いだけだから」
それなら良いんだけどと言いながらも、ハルはまだ心配そうに俺を見つめていた。
「気持ちは分かるぞ、アキト」
カーディは俺に近づいてくるなり、そう言いながら俺の肩をぽんっと叩いた。
「え、あんなに堂々としてたのに?」
「船着き場には来た事があるけど、乗合船の待合は下の部屋だからなぁ…俺もこの部屋は初めてだぞ?」
カーディによると下にある待合は広場みたいな場所に椅子がずらーっと並んでいて、日替わりの屋台なんかがあったりするらしい。そっちはそっちで楽しそうだね。
「でも、そうは見えなかったよ?」
「あークリスと一緒にいたら色んな場所に行くからなーさすがにもう慣れたけど、最初の頃の俺はさっきのアキトよりも、もっともーっと動揺してたぞ?」
苦笑するカーディからクリスさんにちらと視線を向ければ、こくこくと頷いて同意された。本当に動揺してたんだ。
「じゃあさ、どうやって慣れたの?」
「こういう豪華で俺には合わないなと思う場に慣れるのには、コツがあるんだよ」
知りたいか?と尋ねてきたカーディに、俺はすぐに知りたいと答えた。これからハルと一緒に色んな場所に行くつもりなんだし、コツを聞いておいて損は無いだろう。
「そこがどんな場所であっても、俺の隣にはクリスがいると思えば良いって気づいたんだ」
「へー…」
あの…カーディ?隣でクリスさんが顔を真っ赤にしてるんだけど。
「もし俺がこの場で何かをしてしまったとしても、少なくとも一人だけは味方がいると思えば、気持ちが落ち着くんだよなー」
あ、口を両手で押えたクリスさんが、今度はふるふると震え出している。
「参考になったか?」
今にも叫びだしそうなクリスさんの反応も気にはなるけれど、俺はそっと目をつむって想像してみた。
例えそこがどんな場所でも、隣にハルがいると思えば良い――か。もし俺が何かをしてしまったとしても、少なくとも一人だけは味方がいる。そう考えれば、確かに肩の力が抜けてきた気がする。
「うん、これ良いね」
「落ち着いたか?」
「これから色んな場所で役立ちそうだよ、ありがとう」
「どういたしまして」
にっこり笑顔のカーディに、俺も満面の笑みを返した。
四人で椅子に腰かけてくつろいでいると、こんこんとノックの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼いたします。乗船手続きに参りました」
柔らかい笑みを浮かべたお姉さんは、深々とお辞儀をしてから部屋に入ってきた。手には名簿のようなものを持っているみたいだ。
「手続きは私達でしますので、二人は景色でも見ててください」
クリスさんに優しくそう促されたのでちらりと視線を向けてみれば、ハルもすぐに頷いてから口を開いた。
「ここもかなりすごい景色だから、ぜひ見ておいで」
部屋に入った時から大きな窓だなと思ってはいたけれど、そんなに景色が良いんだろうか。二階に上がっただけなのに?そう疑問に思いながらもカーディと二人で窓に近づいていけば、その言葉の真意はすぐに分かった。
「おおーすごい!」
「これは…すごいな!」
その窓からは、様々な様式の船がいくつも並んでいる係留地が一望できた。
「少々お待ち下さい」
俺達に声をかけた男性はすぐに鍵の束を取り出した。
「乗船手続きは係の者が参りますので、それまでおくつろぎ下さい」
男性の手によって開かれたドアからそっと中を覗き込めば、部屋の中には豪華なテーブルと椅子が並んでいた。それほど広くはない室内だけど、奥の方にはかなり大きな窓があるみたいだ。えっと、これはすごく豪華な待合室(個室)って感じなのかな。
何だかすごい場違いな場所に来てしまったかもしれない。咄嗟にそう思ってしまった庶民な俺と違って、他の三人の振る舞いは堂々としたものだ。
「それでは失礼いたします」
ドアを閉める音すら立てずに男性が退室すると、思わずふうと息が漏れた。
「アキト、大丈夫?」
「あ、ごめん、大丈夫!ただこういう雰囲気に馴染みが無いだけだから」
それなら良いんだけどと言いながらも、ハルはまだ心配そうに俺を見つめていた。
「気持ちは分かるぞ、アキト」
カーディは俺に近づいてくるなり、そう言いながら俺の肩をぽんっと叩いた。
「え、あんなに堂々としてたのに?」
「船着き場には来た事があるけど、乗合船の待合は下の部屋だからなぁ…俺もこの部屋は初めてだぞ?」
カーディによると下にある待合は広場みたいな場所に椅子がずらーっと並んでいて、日替わりの屋台なんかがあったりするらしい。そっちはそっちで楽しそうだね。
「でも、そうは見えなかったよ?」
「あークリスと一緒にいたら色んな場所に行くからなーさすがにもう慣れたけど、最初の頃の俺はさっきのアキトよりも、もっともーっと動揺してたぞ?」
苦笑するカーディからクリスさんにちらと視線を向ければ、こくこくと頷いて同意された。本当に動揺してたんだ。
「じゃあさ、どうやって慣れたの?」
「こういう豪華で俺には合わないなと思う場に慣れるのには、コツがあるんだよ」
知りたいか?と尋ねてきたカーディに、俺はすぐに知りたいと答えた。これからハルと一緒に色んな場所に行くつもりなんだし、コツを聞いておいて損は無いだろう。
「そこがどんな場所であっても、俺の隣にはクリスがいると思えば良いって気づいたんだ」
「へー…」
あの…カーディ?隣でクリスさんが顔を真っ赤にしてるんだけど。
「もし俺がこの場で何かをしてしまったとしても、少なくとも一人だけは味方がいると思えば、気持ちが落ち着くんだよなー」
あ、口を両手で押えたクリスさんが、今度はふるふると震え出している。
「参考になったか?」
今にも叫びだしそうなクリスさんの反応も気にはなるけれど、俺はそっと目をつむって想像してみた。
例えそこがどんな場所でも、隣にハルがいると思えば良い――か。もし俺が何かをしてしまったとしても、少なくとも一人だけは味方がいる。そう考えれば、確かに肩の力が抜けてきた気がする。
「うん、これ良いね」
「落ち着いたか?」
「これから色んな場所で役立ちそうだよ、ありがとう」
「どういたしまして」
にっこり笑顔のカーディに、俺も満面の笑みを返した。
四人で椅子に腰かけてくつろいでいると、こんこんとノックの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼いたします。乗船手続きに参りました」
柔らかい笑みを浮かべたお姉さんは、深々とお辞儀をしてから部屋に入ってきた。手には名簿のようなものを持っているみたいだ。
「手続きは私達でしますので、二人は景色でも見ててください」
クリスさんに優しくそう促されたのでちらりと視線を向けてみれば、ハルもすぐに頷いてから口を開いた。
「ここもかなりすごい景色だから、ぜひ見ておいで」
部屋に入った時から大きな窓だなと思ってはいたけれど、そんなに景色が良いんだろうか。二階に上がっただけなのに?そう疑問に思いながらもカーディと二人で窓に近づいていけば、その言葉の真意はすぐに分かった。
「おおーすごい!」
「これは…すごいな!」
その窓からは、様々な様式の船がいくつも並んでいる係留地が一望できた。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜
ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。
真面目に生きてきた魔法使いモーネ。
ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。
しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。
回復魔法を使えば何かが増え、
補助魔法を使えば騎士団が浮き、
気づけば庭はプリンになります。
——本人はちゃんとやっています。
巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。
さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。
これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
お話を追加いたしました。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。