生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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369.【ハル視点】観光名所

 次の目的地である船の係留地を目指して、俺達は船着き場の大通りを進んでいた。他の街と違って少し分かり難いけれど、何度も来た事がある俺にとっては悩むほどでもない。

 手を繋いだままのアキトは、興味深そうにあちこちに視線を動かしている。さりげなく前から来た人にぶつからないように誘導しながら、俺はアキトが見ているものを一緒になって観察していた。

 しゃがみこんでいる衛兵に、半分泣きながら道を尋ねている子ども達。買い出しにでも来たのか、たくさんの荷物を抱えた冒険者達。あっちの店が美味しかったこっちの店が美味しかったと、大きな声で情報交換に励んでいる商人達。のんびりと景色を眺めながら物珍しそうに歩いている旅人達。そしてそんな人達の間をするりするりと通り抜けていく地元の住民達。

 普段なら何て事のない景色だと流してしまうそんな風景が、アキトの視線を通して見ると色づいて見えるのが不思議で仕方がない。

「その次の角…でしたか?」

 不安そうに尋ねてきたクリスに、俺は笑って頷いた。

「ああ、次の角で左だな」
「道案内としても優秀ですね、ハルは」

 クリスは嬉しそうにそう褒めてくれるが、道自体は自分も分かっていただろうに。

「そうか?自信は無さそうだったが、クリスも道は分かってただろう?」
「いえ、さすがにここは…複雑すぎて自信が無いんですよ」
「そういうものか?」

 そんな会話を交わしながら角を曲がれば、目の前に現れたのは高級感のある大きな建物だった。

「無事に着いたかー良かった!」

 建物が視界に入るなり、さっきから黙ったままだったカーディさんが急に声を上げた。

「森の中なら良いんだけど、俺はこういう街とかは苦手なんだよな」

 苦笑を浮かべながらそうぼやいているが、森はともかく街は苦手だという人は冒険者には意外に多い。逆に衛兵は街中に強く森が苦手な事が多いし、騎士に至っては両方が得意になれるようにと厳しい訓練を積まされるものだ。

 背後から賑やかな集団が近づいてくるのに気づいた俺は、アキトの手をくいっと軽く引っ張った。抵抗もせずに素直にこちらへ引き寄せられてくれたアキトのおかげで、わいわいと騒ぎながら移動していく集団には巻き込まれずにすんだ。

「ごめん、ぼーっとしてた」
「気にしないで。初めて見るとちょっと面白い建物だよね」

 ここは船に用が無い旅人たちですら訪れるような観光名所だ。

 細やかな彫刻が施されている真っ白なその建物には、所々に淡い色合いで魚や鳥の絵が描かれている。建物を眺めて感想を言い合っている人達もいる程の、そんな人気の場所の一つだ。

「ハル、あれって…さっき教えてもらったビレーとテルウ?」

 さすがアキトと言うべきか、俺が教えるよりも前にアキトは自分でその絵に気づいた。

「そうだよ。ここはレーウェ川に関係のある、魚や鳥の絵が描かれているんだ」
「なるほど、それでビレーとテルウがいるんだ」

 アキトと二人並んで建物を見上げていると、カーディさんと話し込んでいたクリスが不意にこちらを向いて声をかけてきた。

「ちなみに二階の左から二つ目の窓横の黄色い魚が、今日食べた魚ですよ」
「そうなんですか!?へーあんな見た目なんだ」

 この建物は来る度に変化しているから、何度も訪れている俺が見ても飽きないんだよな。

 建てられたばかりの頃はもっと地味で、絵なんてほんの数種類しか無かった。それが毎年少しずつ増えていき、今の名物とも言われる建物になったというわけだ。

「この建物を抜ければ船も見えてきますからね。そろそろ行きましょうか」

 クリスの言葉をきっかけに、俺達は人の流れに乗って建物の中へと足を進めた。

「こっちですよ」

 たくさんの人でごった返す建物の中を、カーディさんと手を繋いだままのクリスは慣れた様子で歩いていく。俺とハルもすぐに二人の後を追った。

 建物の二階に続く階段の前には、制服を着こんだ男が二人待ち構えていた。一見武器の類を持っていないように見えるけれど、暗器と呼ばれる隠し武器をいくつも持っているようだな。こんな奴らがたくさんいるのなら、船の警備は万全だとクリスが言うのにも納得だ。

「ここから先は、貸出船の受付です。どちらにご用でしょうか?」

 物騒な暗器を持っているとは思わせない柔らかい声での質問に、クリスは堂々と答えた。

「予約をしているクリス・ストファーです」
「ストファー様、お待ちしておりました。お連れ様は三名様ですね」
「ええ、間違いありません」
「では、ご案内いたします。こちらへどうぞ」
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