生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
373 / 1,561

372.【ハル視点】弁解

 エルフとドワーフの傑作だという貸出船は、しっかりと内装にもこだわっているようだ。

 入口を入ってすぐの所にあるホールは、今すぐにパーティーでも開けそうな程の広さと豪華さだった。さりげなく配置されている椅子やテーブルも一見して地味に見えるものが多いが、きっちりと高級品で固められているようだ。

 ちらりと周りを見渡してみれば、数人の船員の姿が目に留まった。目立たないようにと極力気配を消して立っている彼らの役目は、おそらくこの船の護衛なのだろう。

 気配が薄すぎるせいで俺には不自然に見えてしまったが、周りの乗客たちは誰も気に留めていないようだ。練度も高そうだなと観察していると、不意にクリスが俺に声をかけてきた。

「ハル、これを渡しておきますね」

 そう言いながら差し出されたのは、小さな魔石のついたカード式の鍵だった。ギルドカードに似た作りのせいか、なんだかやけに手に馴染んだ。

「ああ、ありがとう」
「この船の中では護衛は必要ありませんからね」

 書面の確認の際にも言われてはいたが、護衛をしなくても本当に良いんだろうか。

「本当に良いのか?」

 最終確認のつもりで尋ねれば、クリスは朗らかに笑って答えた。

「ええ、ゆっくりと船旅を楽しんでください」

 ちらりと視線を動かせば、護衛役の船員たちの姿が見えた。先ほど観察していた事に気づいたのか俺の事を気にかけているようだが、表情にも立ち方にもその感情を出すような未熟さは無い。これなら大丈夫そうだな。

「ありがとう、クリス」
「ありがとうございます」

 気にしないで下さいとクリスが返事をした瞬間、唐突にロビーに大きな声が響いた。

「ハル!ハルじゃないか?」

 落ち着いたホールに響いた聞きなれたその声に、俺は慌てて振り返った。揃いの制服を着ている一団から、一人の男がこちらを目指して駆けていた。

 気配が薄すぎる船員ばかり気にしていたせいで気づかなかったが、あの一団の制服は間違いなくウェルマール騎士団の簡易礼服だな。そしてこちらを目指して駆けてきているのは、間違いなく実の兄ウィリアム兄さんだった。

「会いたかったよ、ハル!」

 勢いよく駆け寄ってきたウィル兄は、飛びつくように俺に向かって飛び込んできた。抱擁というよりも攻撃に近いその勢いを、俺は何とか足を踏ん張って耐えきった。ここで耐えれなければ、また地獄のしごきが待っているから必死だ。

「ああ、ハルの香りだ、本物だね」

 数年ぶりに会うウィル兄は、俺の胸元に顔をうずめるようにして無邪気な笑顔と共に笑いかけてきた。

「…なんでここにいるんだ?」
「そんなの任務に決まってるだろ?」

 楽し気に笑ったウィル兄に、俺は苦笑しながらも確かにと返した。よほど大事な任務でもなければ、ウィル兄がウェルマールから離れる事は無いだろう。こんなに人がたくさんいる場所で任務の内容を聞けるはずもないと、俺は話題を変える事にした。

「手紙は読んだのか?」
「読んだからハルって呼びかけたんだよ」

 ああ、そういえばウィル兄は普段はハロルド呼びだったな。普段から俺をハルと呼んでいるのは、長兄のファーガス兄さんだけだった。そんな事を考えていた俺は、後ろから敵意をはらんだ視線が飛んできた事に驚いた。

 慌てて視線を向ければ、そこには俺を睨みつけながら明るい声でアキトに声をかけるカーディさんの姿があった。

「なあ、アキト。今日は俺達の部屋に一緒に泊まらないか?」

 何故急に俺に敵意を向けながらそんな事を言うんだろうと俺は困惑した。

「は?急にどうしたんだ?」
「クリスは、どう思う?」
「そうですね、今日はアキトさんは俺達の部屋に来るべきでしょうね?少なくとも恋人の目の前で他の人に抱き着かれたままでいるような奴は、最低だと思いますから」
「待ってくれ?」
「そうだよなー元恋人だか何だか知らないけど、その距離感を見せつけるのは趣味が悪いと思うし、ちゃんと拒否しないと駄目だろう」

 言いながらカーディさんは、俺からアキトが見えないようにと立ち塞がった。

「クリスだったら絶対に俺の前でそんな事はしないぞ」
「当然ですね」
「ちょっと待ってくれ」

 二人の言葉を噛み砕きながら、客観的に今の俺の状況を考えてみた。

 まず大前提として、ウィル兄と俺はあまり似ていないとよく言われる。ウィル兄の髪は赤みがかった茶色だし、顔立ちも母に似ている。俺は髪色から何から全て父親似だ。

 そして俺は今、そんなウィル兄に抱き着かれている――と。うちの家流のただの腕試し兼、ただの家族の触れ合いだけれどアキトにはそんな話をした事は無い。

 つまり、アキトは目の前で、誰とも知らない奴に抱き着かれたまま話し込んでいる俺の姿を誤解しているって事か。一瞬で目の前が真っ暗になった。

「…まあ、私はその方が誰かは知ってますけど、きちんと説明をしないと。今もあなたの大事な恋人を傷つけてるんですが気づいてますか?」

 意味深にそう言ったクリスの言葉に、俺は慌てて抱き着いていたウィル兄を振りほどいた。危なっと叫んでいるけれど、今はそれどころじゃない。

「アキト、誤解しないで欲しい!」
「…誤解?」

 アキトは俺をじろっと睨みつけながら、そう尋ねてくれた。無関心よりも怒ってくれる方がずっと良いし、少なくとも弁解を聞いてくれるつもりはあるって事だ。

 慌てて口を開こうとした俺の前に、ウィル兄が立ち塞がった。いくらウィル兄でも今は邪魔をしないで欲しいんだが。

「ああ、この子が手紙に書いてたハルの大事な人?」

 ニコニコと笑ったウィル兄は、嬉しそうにアキトの方へと近づいていった。

「初めまして、ウィリアム・ウェルマールです」
感想 377

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

拾われたのはたぶん僕です 〜ポンコツ魔法使いと騎士団の平和な大事件〜

ニア。
BL
崖から落ちただけなのに、騎士団長に拾われました。 真面目に生きてきた魔法使いモーネ。 ただ薬草を採ろうとして滑落しただけなのに、なぜか王国最強の騎士団長イグラムに連れて行かれ、騎士団で暮らすことに。 しかしこの魔法使い、少しだけ普通ではありません。 回復魔法を使えば何かが増え、 補助魔法を使えば騎士団が浮き、 気づけば庭はプリンになります。 ——本人はちゃんとやっています。 巻き込まれる騎士団と、なぜか楽しそうな団長。 さらに弟子や王子、ドラゴンまで加わって、騎士団は今日も平和に大騒ぎ。 これは、ポンコツ魔法使いが真面目に頑張るたびに世界が少し壊れる、騒がしくて優しいファンタジーです。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。