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375.【ハル視点】部屋へ行こう
二人が去っていった後、俺はそのままズルズルとその場にしゃがみこんだ。
「ハル、大丈夫?」
「うん、大丈夫…足の力が抜けただけだから」
そう続けた俺は、しゃがみこんだままそっとアキトを見上げた。じっとまっすぐに俺の目を見返してくれる心配そうな瞳を確認して、ようやくほっと肩の力を抜いた。
「本当にごめんね。許してくれてありがとう…アキト…」
「ハル、さっきも言ったけど、もう謝らなくて良いよ」
うんと答えた俺は、それ以上何も言えずにそのままうつむいた。
アキトが寛大で本当に良かった。
もし俺の目の前でアキトが誰かに抱き着かれてそのまま話をしていたらと、想像してみた。そんな事があったら、その相手が誰であっても間違いなく動揺するし、心の底から嫉妬するだろう。
想像だけでもこんなに不快なんだ。例え浮気じゃないと弁解されたとしても、どんな関係の相手だったとしても、こんなに爽やかに許してあげる事は出来ないと思う。もちろん別れたりするつもりは無いけれど、自由に冒険者として旅を続けさせてあげられる自信は無い。
俺は駄目だな。
しゃがみこんだままそんな事を考えていた俺に、クリスがそっと話しかけてきた。
「ハル、あなたにしては珍しい失態でしたね」
「ああ、もう何とでも言ってくれ」
もしこの二人がいない場所でウィル兄と再会して、アキトが傷ついている事に俺が気づけなかったら。そう思うと何も反論はできなかった。
アキトにもっと詳しく家族の事を話していれば。いや、せめて家族との距離感が近い家なんだと事前に伝えていれば。抱き着かれてすぐに振りほどいていれば。
行動の問題点を順番に洗い直しながら反省していると、不意に俺の頭にぽふりと何かが乗った。そのままゆるりと撫でられて、そこでようやくそれがアキトの手だと気づいた。
「…っ!」
まさかアキトに撫でてもらえると思っていなかった俺は、あまりの驚きに息を呑んだ。俺が抵抗しない事を確認するようにじっとしていたアキトの手が、ゆるりと動き出す。
ああ、本当にアキトは俺の事を怒ってないんだな。そう分かる手の動きに思わず目を細めた。
すっかりアキトの優しさに甘えてしまった俺は、我に返るとすっと立ち上がった。ああ、優しい笑顔のアキトの後ろに、生暖かい視線を向けているクリスとカーディさんが見える。
「落ち着いたよ、ありがとうアキト」
「どういたしまして」
お礼の言葉を告げると、アキトはにっこりといつもの笑顔で答えてくれた。甘えてしまってすまなかった。
ちらりとクリスとカーディさんに視線を向けて、俺は意を決して口を開いた。
「クリス、カーディさん」
「どうしました?」
「なんだ?」
「二人がいなかったら、アキトの事をもっと傷つけていたかもしれない…だから言わせてくれ。さっきは本当にありがとう」
この二人がいなかったらと想像しただけでどれだけ恐ろしかったか。ガバッと思いっきり頭を下げた俺に、クリスが口を開いた。
「いえいえ、お役に立てたなら良かったです」
「だな!」
もっときちんとお礼の言葉を伝えようと口を開こうとしたその時、不意にホールに軽やかな音楽が流れ始めた。透き通った音色の綺麗な旋律だった。
「あ、そろそろ出発が近いみたいですね」
「へーこれって出発の合図なのか?」
「ええ、そうですよ」
周りを見回せば、乗客たちは皆自分の部屋へと向かう所のようだ。
「それぞれの部屋には窓がありますから、部屋からなら外の景色も楽しめるんですよ」
「それは楽しみだな……なぁ、アキト」
「ん?どうしたの?カーディ」
「アキトさえ良ければ俺達の部屋に来ても良いんだけど、どうする?」
カーディさんのその質問に、アキトがどう答えるのか。俺は耳を澄ましてアキトの答えを待った。もし別室が良いと言われたら、それに従おう。
「俺はハルと一緒の部屋に行くよ!」
アキトは一瞬の迷いもなく、笑ってそう答えてくれた。
「うん、そう言うと思ってた!」
楽し気に声を上げて笑ったカーディさんは、クリスの手をきゅっと握りしめた。
「行こうか、クリス」
「ええ、行きましょう。お二人ともではまた明日」
「はい、また明日!」
二人は軽やかに手を振って、そのまままっすぐに廊下を歩いていった。後に残されたのは迷いない返答に感動していた俺と、柔らかく笑って俺を見つめているアキトだけだ。
「ハル、俺達も部屋に行こう?」
そう言いながらすっと差し出された手を、俺はじっと見つめてからそっと握り返した。失わなくて本当に良かったと思いながら。
「ハル、大丈夫?」
「うん、大丈夫…足の力が抜けただけだから」
そう続けた俺は、しゃがみこんだままそっとアキトを見上げた。じっとまっすぐに俺の目を見返してくれる心配そうな瞳を確認して、ようやくほっと肩の力を抜いた。
「本当にごめんね。許してくれてありがとう…アキト…」
「ハル、さっきも言ったけど、もう謝らなくて良いよ」
うんと答えた俺は、それ以上何も言えずにそのままうつむいた。
アキトが寛大で本当に良かった。
もし俺の目の前でアキトが誰かに抱き着かれてそのまま話をしていたらと、想像してみた。そんな事があったら、その相手が誰であっても間違いなく動揺するし、心の底から嫉妬するだろう。
想像だけでもこんなに不快なんだ。例え浮気じゃないと弁解されたとしても、どんな関係の相手だったとしても、こんなに爽やかに許してあげる事は出来ないと思う。もちろん別れたりするつもりは無いけれど、自由に冒険者として旅を続けさせてあげられる自信は無い。
俺は駄目だな。
しゃがみこんだままそんな事を考えていた俺に、クリスがそっと話しかけてきた。
「ハル、あなたにしては珍しい失態でしたね」
「ああ、もう何とでも言ってくれ」
もしこの二人がいない場所でウィル兄と再会して、アキトが傷ついている事に俺が気づけなかったら。そう思うと何も反論はできなかった。
アキトにもっと詳しく家族の事を話していれば。いや、せめて家族との距離感が近い家なんだと事前に伝えていれば。抱き着かれてすぐに振りほどいていれば。
行動の問題点を順番に洗い直しながら反省していると、不意に俺の頭にぽふりと何かが乗った。そのままゆるりと撫でられて、そこでようやくそれがアキトの手だと気づいた。
「…っ!」
まさかアキトに撫でてもらえると思っていなかった俺は、あまりの驚きに息を呑んだ。俺が抵抗しない事を確認するようにじっとしていたアキトの手が、ゆるりと動き出す。
ああ、本当にアキトは俺の事を怒ってないんだな。そう分かる手の動きに思わず目を細めた。
すっかりアキトの優しさに甘えてしまった俺は、我に返るとすっと立ち上がった。ああ、優しい笑顔のアキトの後ろに、生暖かい視線を向けているクリスとカーディさんが見える。
「落ち着いたよ、ありがとうアキト」
「どういたしまして」
お礼の言葉を告げると、アキトはにっこりといつもの笑顔で答えてくれた。甘えてしまってすまなかった。
ちらりとクリスとカーディさんに視線を向けて、俺は意を決して口を開いた。
「クリス、カーディさん」
「どうしました?」
「なんだ?」
「二人がいなかったら、アキトの事をもっと傷つけていたかもしれない…だから言わせてくれ。さっきは本当にありがとう」
この二人がいなかったらと想像しただけでどれだけ恐ろしかったか。ガバッと思いっきり頭を下げた俺に、クリスが口を開いた。
「いえいえ、お役に立てたなら良かったです」
「だな!」
もっときちんとお礼の言葉を伝えようと口を開こうとしたその時、不意にホールに軽やかな音楽が流れ始めた。透き通った音色の綺麗な旋律だった。
「あ、そろそろ出発が近いみたいですね」
「へーこれって出発の合図なのか?」
「ええ、そうですよ」
周りを見回せば、乗客たちは皆自分の部屋へと向かう所のようだ。
「それぞれの部屋には窓がありますから、部屋からなら外の景色も楽しめるんですよ」
「それは楽しみだな……なぁ、アキト」
「ん?どうしたの?カーディ」
「アキトさえ良ければ俺達の部屋に来ても良いんだけど、どうする?」
カーディさんのその質問に、アキトがどう答えるのか。俺は耳を澄ましてアキトの答えを待った。もし別室が良いと言われたら、それに従おう。
「俺はハルと一緒の部屋に行くよ!」
アキトは一瞬の迷いもなく、笑ってそう答えてくれた。
「うん、そう言うと思ってた!」
楽し気に声を上げて笑ったカーディさんは、クリスの手をきゅっと握りしめた。
「行こうか、クリス」
「ええ、行きましょう。お二人ともではまた明日」
「はい、また明日!」
二人は軽やかに手を振って、そのまままっすぐに廊下を歩いていった。後に残されたのは迷いない返答に感動していた俺と、柔らかく笑って俺を見つめているアキトだけだ。
「ハル、俺達も部屋に行こう?」
そう言いながらすっと差し出された手を、俺はじっと見つめてからそっと握り返した。失わなくて本当に良かったと思いながら。
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