生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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383.【ハル視点】俺の家族の話

 俺の家族の話――か。

 ウェルマールの家名は、この国では広くその名を知られている。物語や吟遊詩人の題材に選ばれる事も多い辺境領の領主一家だから、まあ当然といえば当然だ。

 アキトの好きなあの冒険譚のせいで世代を問わず知名度の高い父。冒険者の間では伝説持ちと呼ばれる母。長兄はウェルマール騎士団の団長を務めているし、次兄は見た目にそぐわず鬼のように強いと有名だ。一番下の弟は知名度こそそこまで高くは無いが、天使のような笑顔と人懐こさで領地では大人気だ。

 そんな家に生まれた俺だから、家族の話を聞きたいと言われる事は多かった。そういう時は当たり障りのない情報を与えつつ、内情を探らせないように苦労して答えてきた。

 だが、アキトが相手なら、隠すべき情報など一切無い。だからこそ何を話すか悩んでしまった。

「えーと、家族の話って言うと、何から話せば良いかな…?」

 どんな話が聞きたいのかと話を振ってみれば、アキトは笑って答えてくれた。

「じゃあまずは一番上のお兄さんの話から聞かせて欲しいな」
「ああ、一番上はファーガス兄さんだな」
「確か、すごく強い女戦士と結婚したって言ってた人だよね?」
「ああ、よく覚えてたな」

 俺はにっこりと笑って、アキトの頭をそっと撫でた。アキトは撫でられるのを喜んでくれるから、ついつい撫でてしまうんだよな。

「ファーガス兄さんと俺は、そうだな…双子みたいだって周りから言われるぐらい似てるんだ」

 騎士団の団長だとかそういう話よりも、見た目の話をしておこうと俺はまずそう切り出した。

「え、そんなに!?」
「金髪と紫の瞳もお揃いだからね。…まあ筋肉の量はあっちの方が多いかもしれないけど」

 鍛えても鍛えても勝てないのは、ほんの少しだけ悔しい。

「ファーガスさんっていくつ上なの?」
「五歳上だな」

 アキトはへぇーと楽し気に笑いながら、他の人の事も教えて欲しいなと俺をじっと見つめてきた。

「次兄がさっき会ったウィリアム兄さんで――本人も言ってたけど、目以外は母似だな。父親は俺と同じ金髪に紫の瞳だからね」

 そう教えれば、アキトはうんうんと何度も頷いてくれた。アキトの愛読書になったあの本にも、父の髪と瞳の色については詳しく書かれているからな。

 優しい雰囲気のウィル兄だが、実は鬼と呼ばれるほどの戦闘狂なんだが…それはさすがに伝えなくて良いかな。俺は問題を先送りにすべく、可愛い弟について話す事に決めた。

「俺の下の弟はキースっていうんだ」
「弟さん、キースくんっていうんだ」

 アキトの口から弟の名前が出るのは、なんだか嬉しいな。ほっこりした気持ちで、俺は説明を続けた。

「ああ。キースは金髪に緑の目をしてるんだけど、僕も紫の目が良かったって小さい頃は大騒ぎしてたなぁー」
「そうなんだ。可愛いね」

 ああ、本当に見た目も中身も可愛い子だよ。成長したら予想外に聞き分けの良い大人しい子になったけど、外を駆け回るよりは室内で本を読んでる方が好きな子なんだ。そう教えれば、アキトは本が好きなら気が合うかなと嬉しそうだった。ああ、そういえば、前に会った時は魔法に興味があるんだと騒いでいたっけ。

「魔法を使えるようになりたいんだって言ってたけど、どうなったかな。アキトに会ったら魔法について教えてって大騒ぎすると思うよ」

 残念ながらうちの家系は魔法が苦手だからな。何故かみんな魔力操作があまり得意じゃないんだ。昔はそれが嫌で仕方なかったけれど、アキトが俺の魔法を綺麗だって言ってくれるから、今はもう気にしていない。アキトの影響力はすごいな。

「四兄弟か…兄弟が多いの羨ましいなぁ」
「アキトは兄弟はいなかったの?」
「うん、俺は一人っ子だったから」
「そうなのか」
「あ、でも母さんは朗らかで明るい人だったから、こどもの遊びにも付き合ってくれてたよ」
「そうか、良いお母様だな」

 きっと幼い頃のアキトも可愛かっただろうな。その頃のアキトにも会ってみたかったなんて、無理な事をついつい考えてしまった。

「ハルのお母さんは、どんな人?」
「あー…強い人だな」
「強いんだ?」
「物理的に強い。アキトの好きなあの本ではあえて触れられてなかったけど、父と一緒に魔物退治に行くぐらいには強いぞ」
「えーと…辺境領の魔物はこの辺りよりも強いのも出るって言ってなかったっけ?」

 ゆるりと首を傾げて尋ねるアキトに、俺は苦笑を浮かべながら頷いた。

「ああ、明らかに強いのも出るけど、母に関しては問題にならないな。母は元冒険者なんだよ。しかも――金級の」
「えー!金級の元冒険者なの!?」
「ソロで金級だった母は、スタンピードの依頼で辺境領に来たんだけど…最前線で戦ってた父と意気投合したらしいよ」

 当時騎士団の団長だった父は後ろで指揮を取るべき立場だったのに、周りの静止を振り切って前線に飛び込んだらしい。ああいう行動は立場のある人は慎むべきだと、父の副官に教えこまれたものだ。

「へーすごいね」
「ああ、すごいだろう?」
「あれ?でもそんなにすごい人なのに、なんであの本では一切触れてなかったの?」
「そこに触れてしまうと物語の主人公が変わってしまうから…じゃないかな。あれは副官がケイリー・ウェルマールの偉業を広めるために書いたからね」

 ああ、それとスタンピードを抑え込む辺境領の苦境と努力を広く知ってもらい、援助を得るためでもあったな。これはあの本を大好きなアキトには言わない方が良いかなと、俺はそっと口をつぐんだ。
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