生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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396.【ハル視点】二人きりの部屋の中

 伴侶候補になってくれたアキトと、二人並んでソファに腰かける。ゆったりと流れていく窓の外の景色を眺めながら、俺達はのんびりと二人だけの時間を楽しんでいた。

 話題に上がったのは、ここに来るまでに見た景色の話や、お互いの見張り時間の話、船着き場の複雑すぎる道の話、そしてあの美味しい串焼きの話などだった。
 
 嬉しそうにあれこれと話してくれるアキトに、俺も幸せな気分で言葉を返した。

 あれこれと盛り上がっているうちに、あっという間に時間は過ぎてしまった。気づけば窓の外の景色もすっかり様変わりしている。

 夕陽に照らされた景色に目をキラキラさせるアキトの横顔があまりに綺麗で、ついついまじまじと見つめてしまった。

「綺麗だね」

 そう声をかけられた時は、一瞬アキトの事かと思ってしまったぐらいには見惚れていた。

「ああ、綺麗な夕陽だな」

 何とか取り繕ってそう返した俺に、アキトはそっとこちらを向いた。顔を見合わせると、自然と言葉が途切れた。

 あ、良い雰囲気だ。これは口づけても大丈夫かもしれないな。ゆっくりと顔を近づけていけば、アキトもすぐに察して目を閉じてくれた。もう後数ミリで唇が触れ合うという瞬間、唐突に軽やかな旋律が室内に流れた。

 どうやら最悪のタイミングで邪魔が入ったみたいだ。このまま口づけだけでもしてしまいたかったけれど、びっくり顔のアキトを無視する事はできなかった。

「え、何!?」

 慌てるアキトの肩に、俺はぽんぽんと軽く触れた。心配はしなくて良いよと伝える仕草に、強張った肩から力が抜ける。

「ああ、これは呼び出し音だと思うよ。ちょっと待ってて見てくるよ」

 一息にそう言ってから、俺はすっと立ち上がると入口へと向かった。扉の鍵を解除すれば、流れていた旋律はぴたりと止まった。

「はい」
「お客様、おくつろぎの所申し訳ありません」

 アキトとの時間を邪魔はされたけれど、丁寧に声をかけてくる船員に非は無い。俺は騎士としての笑顔を意識しながら答えた。

「いえ、何でしょうか?」
「二人だけで夕食を楽しんで欲しいと、お連れ様からの贈り物をお届けに参りました」

 船員の視線をそっと追えば、そこには小さなワゴンが並んでいた。この船にはいつでも使える食堂があると聞いていたから、後で行くつもりだったんだが。

「お連れ様からは、こちらをお渡しするようにと」

 差し出された封筒をすぐに開けば、そこには流れるような文字が並んだカードが入っていた。

『護衛対象と一緒にいたら落ち着かないだろうから、大事な恋人と二人だけの夕食を楽しんでくれ。私も大事な伴侶と二人だけの夕食を楽しむよ。クリスより』

 ああ、なるほど。クリスの気持ちは何となく分かった。

 護衛対象と一緒だとなんて理由をつけてはいるが、要は二人だけの時間があげるからちゃんと仲直りしておけよって事だな。最後の一文の私も楽しむよは、多分クリスの本音だと見た。

 実際には仲直りどころか伴侶候補にまでなってくれたわけだけど、さすがにクリスもそこまでは想像していないだろうしな。

「受け取り拒否も可能ですが…受け取られますか?」
「ああ、受け取るよ。ありがとう」
「かしこまりました。こちらセッティングは私がいたしましょうか?」

 にこやかな船員は、どうやら給仕係を兼ねているようだ。普段なら頼む所だけれど、今日ばかりはアキトと二人きりでいたいな。

「いや、結構だ」
「かしこまりました。食事の後はワゴンごとドアの前に出しておいて頂ければ回収いたします」

 もちろん部屋の中に置いたままでも大丈夫ですと教えてくれた船員に、俺は丁重に礼を言ってからワゴンを受け取った。

 するりと軽やかに動くワゴンを部屋に入れてから鍵を閉めると、ちょうどアキトも入口に歩いてくる所だった。

「何だった?」
「ああ、夕食だって」

 そう言って小さなワゴンを見せると、アキトはへぇーと興味深そうにワゴンを観察している。

「夕食って食べに出るのかと思ってたよ。確か食堂があるって言ってなかったっけ?」
「それが…クリスからの配慮らしいよ?」
「クリスさんの?」

 俺が開いて見せたカードを読んで、アキトは楽し気にクスクスと笑い声を上げた。

「クリスさんと本当に友達になったんだね?」
「あー…うん、まあそうだね」

 ああ、仲直りさせようというクリスの意図は、どうやらアキトにも伝わったみたいだな。

「どうする?」
「せっかくだし、食事にしようか?」

 アキトの言葉に、俺は笑って頷いた。



 食事の用意にとりかかる事に決めた俺達は、まずはテーブル横へとワゴンを移動させた。一番上の引き出し部分を開けてみると、そこには布が畳んだ状態で入っていた。

「テーブルに敷くのかな?」
「多分、そうだろうね」

 二つ目の引き出しを開ければそこにはスプーンやナイフなどのカトラリーが並べられていて、三つ目の引き出しにはなんと花瓶と花まで入っていた。

「はーすごいね、このワゴン」
「すごいね。これもエルフとドワーフの作った魔道具かな」
「そうなんだ?」
「ただの予想だけど、魔道収納鞄みたいな機能のついたワゴンって聞いた事ないから、多分そうだと思うよ」

 そんな事を話しながらテーブルの上にカトラリーを並べ、真ん中には花を活けた花瓶を置いた。部屋の家具が豪華だからか、それだけで高級料理店のような雰囲気に変わるのが少し面白い。

「本当はね、このワゴンを持ってきた給仕の人が並べる事もできるって言われたんだけど、断ったんだ」

 勝手に断ってごめんねと謝れば、アキトはすぐに首を振ってくれた。

「こうやって二人で相談しながら並べるのも、ちょっと楽しいよね」

 これはこれで滅多にできない経験だと思うしと笑ったアキトを、今すぐ抱きしめたいと思ってしまった。

 俺の伴侶候補が可愛すぎる。でも食事を楽しむって決めたからな、今は我慢だ。

「そう?アキトがそう言ってくれるなら良かった。折角のアキトと二人きりの時間だから、邪魔して欲しくなくてね」
「あ、ここからは料理の載ったお皿みたいだよ」

 弾んだ声で明るく言ったアキトは、どんどんお皿を取り出していく。

 色鮮やかな野菜に木の実らしきものがかかったサラダのお皿、まだ湯気の出ているスープ皿に、香ばしい香りのする大きなステーキのお皿、食べやすそうな小ぶりのパンがいくつもつまったカゴに、付け合わせらしき彩り豊かな野菜のお皿もあるようだ。

「すごいご馳走だよ」
「ああ、本当だ。しかもデザートまである」

 たくさんの料理が並んだテーブルを挟んで、俺達は向かい合わせで椅子に腰を下ろした。

「いただきまーす」
「いただきます」
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