生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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398.【ハル視点】副作用の無いポーション

「はーすっごい泣いちゃった…恥ずかしいな」

 ようやく泣き止んだアキトは、そう言いながら恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。別に恥ずかしがる必要なんて無いのにな。

「ハルの気持ちが嬉しくて我慢できなかったんだ」

 アキトはさらりと涙の理由を教えてくれた。ああ、やっぱり嬉しくて泣いてくれてたのか。ほわりと温かい気持ちになりながら、俺は笑顔で答えた。

「嬉しくて泣いてくれたんなら、俺は嬉しいよ」

 まあアキトの感情なら何でも見せて欲しいんだけどねと続ければ、キョトンと不思議そうに俺を見返してくる。本心なんだけど、これは伝わってないかもしれないな。

 コロコロと変わるアキトの表情が好きだ。だから、隠さずに全て見せて欲しい。それだけだ。

 嬉しいなら一緒に喜ぶし、怒っているなら全力で受け止める。悲しい時は慰めるし、楽しい時は一緒に楽しみたい。

 そう告げると、アキトはぐいっと伸びをして俺の頬に口づけた。唐突すぎて咄嗟に反応できなかった俺は、唇が触れた頬を片手でおさえた。アキトは固まったままの俺を見つめて、ふにゃりと幸せそうに笑った。

「ありがと、ハル。大好きだよ」

 そんな言葉と共に、今度は唇と唇が重なった。軽く触れるだけで離れていったけれど、じわじわと嬉しさが湧いてくる。

「俺も誰よりもアキトの事が大好きだよ」

 そう囁きながら顔中に口づけを落とせば、アキトは楽し気に声を上げて笑った。

 ああ、笑う姿もやっぱり可愛いな。こんなに可愛くて格好良い人が、俺の伴侶候補なんだよな。

 何度も何度もそんな事ばかり考えてしまうんだが、少し浮かれすぎだろうか。いや、伴侶候補になってくれた日ぐらい浮かれても良いだろう。

 わざと唇を狙って口づけを落とせば、アキトは自分からそっと舌を伸ばしてきた。

 この控えめな誘い方もたまらないんだよな。アキトらしいお誘いに、俺は遠慮なく舌を絡ませていった。濡れた音を立てながら口内を蹂躙していると、アキトがブハッと音を立てて息継ぎをした。

 その瞬間、俺はハッと我に返った。危なかった。思いっきり暴走する所だったな。

「あ、ごめん、アキト」

 慌てて距離を取った俺に、アキトは不思議そうに首を傾げた。

「明日の昼には下船しないとだから…今日はこれ以上はできないんだ」
「え…?」
「アキトがまだ外の景色を見たいならこのまま付き合うし、たくさん移動して疲れたなら一緒のベッドで眠るのも良いんだけど…どうする?」

 中途半端に煽ってしまった形になるけれど、怒っているだろうか。チラチラとアキトの顔色を伺いながら俺は尋ねた。

「どっちも良いけど…実はハルに見て欲しいものがあるんだ」
「え、何?何でも見るよ?」

 唐突な話題転換に驚いたけれど、俺はすぐに快諾した。アキトが見せたいものと言うなら、当然見るに決まっている。

「これ、副作用の無いポーションなんだって」

 アキトはそう説明しながら、俺の手の上に一本の小瓶を乗せた。俺は手の上の飾り気の無い小瓶を、まじまじと見つめた。少し透き通った水色の淡く光る液体が、瓶の中でゆらりと揺れている。

「え…?副作用の無い回復ポーション?」

 さっき確かにそう言ったよな?

「えーと、何でも数年かけてストファー魔道具店で開発中のやつ…で?いくつかの魔道具を使って成分を調整してあるってカーディは言ってた」
「本当にそんなものがあるのか?カーディさんを疑うわけじゃないけど…安全性は大丈夫なのか?」

 それが本当ならすごい発明だが、いくらストファー魔道具店の商品でも、頭から信じるわけにはいかない。そう思って尋ねれば、アキトは一枚の紙を開いてみせてくれた。

「安全確認はきちんと終わってるって言ってたよ。これメロウさんの鑑定書のコピーだって言ってた」

 しっかり鑑定書まであるのか。すぐに受け取った鑑定書を読み込めば、薬効は消さずに中毒性のある成分だけをうまく取り除いているようだ。メロウの詳細鑑定の結果も書かれているが、本当に副作用は存在しないみたいだな。

「これはすごいな。薬効は消さずに、中毒になる成分だけを取り除いてから作られているのか…メロウの署名も間違いなく本物だ」

 鑑定書にはいくつかの種類があるが、詳細鑑定まできっちりと記載されているものは一番信用できる書類といえる。詳細鑑定をした鑑定師の名前も記載され、発行前に偽装が無いか調査も入る。

 つまりこれは本当に副作用の無い回復ポーションという事だ。

「画期的なものだし誰もが欲しがるだろうね」

 これさえあれば、回復薬の過剰摂取の問題も解決する。トライプール騎士団の備品としてはもちろん、すぐ辺境領にも教えないといけないな。ストファー魔道具店は今まで以上に人気店になるだろう。そんな事を考えながら小瓶を見つめていると、アキトがぽつりと何かを呟いた。

「じゃ……きる?」
「え、ごめん、アキト。もう一回言って?」

 考えに沈み込んでいたとはいえ、アキトの言葉を聞き逃すなんて。俺は慌てて尋ねた。

「じゃあ…これがあれば、ハルとできる?」

 真っ赤な顔をしたアキトが、小さな声でそう尋ねてくる。できるっていうのは一体何の話だ?

「え…」
「ハルは!これを使っても良いと思ったの?」
「安全面は大丈夫だと思ったけど…何故?」
「何故って…ハルとしたいから、わざわざカーディに相談したんだよ」
「カーディさんに相談…?」
「俺の体がまだ慣れてないから、二回目が無いんだって相談した」

 そしたらこれをくれたんだと、アキトははっきりとそう言いきった。

 その時の俺の胸中はそれはもう複雑だった。

 カーディさんにそんな事を相談したのかという嫉妬心と、アキトのお誘いだと気づかなかった察しの悪すぎる自分をぶん殴りたい気持ちと、可愛すぎるアキトを全力で可愛がりたい気持ちと、このまま理性を放棄してしまいたい気持ちが入り混じっていた。

「………ハル、呆れた?」
「うーん…今の気持ちを正直に言って良い?」
「うん」

 ぎゅっと目をつむって答えを待っている愛しいアキトを、俺はふわりと抱き上げる。

「わっ…」
「カーディさんに相談って何をどこまで話したんだろうって複雑な嫉妬芯と……あとはアキトの可愛すぎる行動に今日は理性が仕事しないかもしれないって心配かな」
「?…つまり呆れてないの?」
「呆れる要素が無いよね」

 俺はそのままアキトをベッドに横たえた。
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