生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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412.【ハル視点】クリスの誤解

 朝の挨拶を終えるなり、クリスの表情が変わった。さっきまではどことなく凄みはあったけれど笑顔だったのに、今は一体何があったのかと思わず身構えてしまうぐらいの真剣な表情だ。

「それで…無事に仲直りはできたんですか?」

 一瞬の表情の変化も見逃さないぞと言いたげな強い視線を受けながら、俺とアキトはゆっくりと顔を見合わせた。あまりに予想外の言葉だったから、二人とも咄嗟に理解が出来なかったんだ。俺達の沈黙に、クリスは更に心配そうに言葉を続けた。

「食堂に入ってきた時、手を繋いでいなかったでしょう?だから気になったんです」
「あー、うん。そういえば繋いでなかったな」

 カーディさんがのんびりと、そう合いの手を入れた。

 手を繋いでなかったのはただここの食堂が混雑してたからだ。ただそれだけの理由だが、そのせいで余計に誤解させてしまったんだな。

「えーと…仲直りというか…」

 慌てて答えようとしたアキトは、そこで言い淀んだ。うん、ちょっと説明が難しいんだよな。気持ちは分かる。

 そもそも仲直りができたかどうかを心配してくれているのに、許してもらっただけじゃなくて伴侶候補になって欲しいと切り出して、無事に正式な伴侶候補になってもらったんだ――なんてどう報告すれば良いんだろう。

 いやそのまま報告すれば良いのかもしれないけれど、さすがにまだ早いかなと俺が伴侶関係の話題を避けていた事をクリスは知っているからな。何故急にそんな話になったんだと聞かれるかも知れないから、そこもきちんと説明しないと駄目だろう。

 何から話すべきかと頭の中で組み立てていると、クリスは顔を真っ白にして俺達を見比べた。

「え、まさか………仲直り、出来てないんですか?」

 そう言うと、クリスはすぐにアキトの方に体ごと向き直った。

「あの、アキトさん!ハルは本当にあなたの事を大事に思っているんですよ。ハルのアキトさんへの気持ちを聞いていたら、俺もカーディと出会った頃の事を思い出したぐらいです。あなたを大事にしたいと言っていた、あの言葉に嘘は無いと思うんです。それに…」

 怒涛のように俺への援護を口にしだしたクリスに、アキトはふわりと笑みを浮かべて聞き入っている。

 正直に言おう。目の前でこんな風にアキトへの気持ちを褒められるのは、かなり恥ずかしい。俺の剣の腕とか見ためとか、そんなものを褒められても、ありがとうと笑顔で返せるんだけどな。

 ただこれが嫌がらせでも何でもなく、俺とアキトの仲を本気で心配して言ってくれている言葉だと分かってしまうだけに静止もできない。

 何故か俺を褒めちぎる方向へ向かっているクリスの言葉に、俺は黙ってうつむいた。

「クリス、待って!」

 止まりそうにないクリスの言葉に割って入ってくれたのは、カーディさんの声だった。

「カーディ、でも、二人を仲直りさせないと!」
「あー…それ必要ないと思うよ。俺、気づいちゃったんだけどさ」

 そう言いながら、カーディさんはニヤニヤと楽し気に笑って俺達の方を指差した。

「クリス、二人の腕、見てみ?」
「あ…」

 どうやらカーディさんは、俺達のお揃いの腕輪に気づいたらしい。ああそうか、言葉で説明できないならまずは事実としてこの腕輪を見せれば良いのか。俺はアキトと二人で見えやすいようにと並んで腕輪をかざした。

「それは伴侶候補の腕輪…じゃあっ!?」
「ああ、説明が遅くなってすまない。アキトと俺は伴侶候補になったんだ」

 あれだけ心配させてしまったんだから、もっと早く説明しろと怒られてもおかしくない。どんな怒りも罵倒も受け止めるぞと思っていたんだが、クリスは予想に反して怒らなかった。むしろ呆然と腕輪を見つめてから、ふうと一つ息を吐いて、良かったとぽつりと呟いた。

「あの、クリスさん。心配してくれてありがとうございます」

 もっと早く説明するべきだったなと反省している俺の横で、アキトは申し訳なさそうな顔でクリスに話しかけた。

「あー…いえいえ、勝手に勘違いしてすみません」
「いえっ!俺達を仲直りさせるために言葉を尽くしてくれたの、嬉しかったです」

 そうだな。反省よりも先にお礼を言うべきだったな。俺はアキトの頭にぽふりと手を乗せてから、口を開いた。

「俺からも、ありがとう。クリス」
「いいんですよ…ちなみに、手を繋いでなかったのは何故だったんです?」
「ああ、ここに来るまでは繋いでたんだが、食堂内が混んでたから…な」

 苦笑交じりで答えた俺に、クリスはそういえば私たちもこの中では手を繋いでなかったですねと苦笑を浮かべた。冷静じゃなかったみたいですとクリスは呟いているけれど、それだけ気にしてくれていたって事だと思う。

 カーディさんはそんな俺達のやりとりをじっと見つめていたけれど、不意に悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「昨日からさ、俺達の依頼のせいで二人が別れてしまったらどうしようって言いまくってたんだよ」
「カーディ!言わないで下さい!」
「なんでだよ、本当の事だろ?」

 にっこり笑顔でそう言いきったカーディさんに、クリスは本当の事だからこそ言わないで欲しかったと文句を言いながらテーブルに突っ伏した。
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