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430.回復ポーション
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ただのはったりとかじゃなくて、本当に全員の顔を覚えてるんだろうな。
そう思わせるようなクリスさんの凄みのある笑顔に、依頼を受けた男達は怯えた表情のままコクコクと頷きだけを返している。
「本当にそれで良いのか?」
困ったように眉間にしわを寄せた商人の男に、クリスさんはあっさりと答えた。
「私は本当にそれで良いと思うんですが…後は私の伴侶次第ですね。カーディ?」
カーディの名前を呼ぶ時だけ、クリスさんの声が変わった。柔らかく微笑みながら愛おし気に名前を呼ばれたカーディは、ハハと楽し気に声をあげて笑った。
「ああ、そういう事なら俺も文句は無いぞ。絶対に次は無いからな」
俺も覚えておこうと一人ずつ睨んでるけど、あれ本当に覚えられてるんだろうか。
「ハルとアキトさんも、それで良いですか?」
あ、わざわざ俺達にまで意見を聞いてくれるんだ。ちらりと俺を見たハルに、俺はちいさく頷きを返した。ハルにならこれで通じるよね。
「ああ、俺達は依頼人が良いならそれで良いよ」
そう答えたハルは短く呪文を唱えると、浄化魔法で綺麗にした剣をしまった。その瞬間、周りの張り詰めていた空気が一気に緩んだのが分かった。
あ、あれってハルの事を警戒してた空気だったのか。ハルは多分それを分かった上で、剣をしまわなかったんだろうな。さすがハルだ。
「ええと、もう帰ってもらって良いんですが、一つだけ確認したい事があります」
「何だ?何でも聞いてくれ」
「……あの、あなたたち、回復ポーションは持ってないんですか?」
あ、それは俺も気になってたんだよね。
冒険者の男達は逃げてきた時から擦り傷だらけだったし、依頼人の男は片腕を結構深く怪我してる。
俺達がファーレスウルフと対峙してる間に回復する暇はあったと思うんだけど、まだ誰も回復してないんだよね。そこまで重傷では無いけど、この傷で街まで帰るのは結構大変だと思う。
「ああ、ポーションは用意してこなかった。襲撃と言っても、ただ話を聞くだけのつもりだったからな」
「俺たちは二本だけは用意してあったんだが…ファーレスウルフに割られちまったから」
「なるほど」
クリスさんは少し考えてから口を開いた。
「ファーレスウルフは群れで行動すると聞いた事があります。つまり血の匂いにつられて集まってくるかもしれない…」
ただの想像ですけどと呟いたクリスさんに、男達はブルリと体を震えさせた。よっぽどファーレスウルフに追いかけられたのが怖かったんだろうな。
「そんな…」
「助かってない…のか?」
「もう嫌だ…」
今にも泣き出しそうな男達を見つめて、クリスさんは続けた。
「幸いここに回復ポーションが五本あります。これを買い取りませんか?」
「え…?俺達に?」
「本当に、売ってくれるのか?」
「ええ、ただし、採取地での売買は通常よりも高値になりますが」
高値と聞いて男達は怯んだようだった。
ハルがこっそり耳打ちで教えてくれたんだけど、彼らは恰好こそ冒険者っぽいがおそらく現役の冒険者では無いらしい。金に困ってこんな依頼を受けたみたいだから、この申し出には乗れないだろうというのがハルの予想だ。
「分かった。全員分、俺が買おう」
依頼人の男がそう口にした瞬間、冒険者の男達は大きく目を見開いて固まった。
「なっ…嘘だろう?」
「さっきも俺達だけは減刑とか言ってたし…」
「なんであんたがそんな事してくれるんだよ」
面白そうに見守っているクリスさんの前に出てきた男は、背後から口々にかけられる声に振り返って答えた。
「依頼をしたのは俺だからな、そのぐらいの責任はとる」
男はそう言うなり、そっと手を動かすとポケットから紙とペンの魔道具を取り出した。なんで急に紙とペン?と思わず俺は首を傾げてしまった。
後で教えてもらったんだけど、商人同士の取引は周りから分からないように、紙に書いて値段を条件をやり取りするのが一般的なんだって。まだまだ知らない事も多いな。
「クリス・ストファー、これに書いてくれるか?」
「ええ、分かりました」
クリスさんは受け取った紙にさらりとペンを走らせると、そのまま男の手に返した。男はその紙を見つめて一つ頷くと、すぐにまたポケットの中に手を入れた。
もしかしてあのポケットって魔道収納鞄と同じ機能付き?興味深く男のポケットを観察している間に、クリスさんは小さな袋を受け取り中身を確認していた。
「確かに。それではこれを」
「ありがとう。これとは別に今回の詫びはきちんと入れさせてもらう」
「分かりました」
回復ポーションで無事に傷を癒した男達は、申し訳なさそうに頭を下げてからその場を去っていった。
「うん、気配は本当に遠ざかっていってるな」
念のため気配を探っていたハルのその言葉に、俺達は揃ってふうと大きく息を吐いた。いつ襲いかかってくるかもしれないとずっと警戒してたから、肩に力が入ってたんだよね。
「はー無事に何とかなって良かったな」
すっかりいつもの明るい笑顔に戻ったカーディが、そう口にした。
「ファーレスウルフにはさすがに焦りましたけどね」
「ああ、アキトのおかげで楽だったけどな」
「その話は終わりって言ったよ!」
また褒めちぎられるのは嫌だと慌てて口を挟めば、三人は顔を見合わせてから笑い出した。
「あ、なあクリス。あれ、結局いくらで売ったんだ?」
そこ聞いちゃうんだ?そう思ったけれど、クリスさんは自慢げに笑って答えた。
「市場価格のほんの十倍ほどですよ」
じゅ、十倍!?襲撃してくる予定だった人にまで回復ポーションを売ってあげるなんて、クリスさんは優しいなと思ってたんだけど…十倍で売りつけたの?
びっくりした俺とハルは思わず顔を見合わせてしまったんだけど、カーディの反応だけは違っていた。
「ほんと、クリスってそういう所が商人だよなー!」
「ええ、商人ですからね。こんな私は嫌ですか?」
「いいや、クリスらしくて惚れ直した!」
ああ、うん。クリスさんとカーディは、本当にお似合いの伴侶同士だね。
そう思わせるようなクリスさんの凄みのある笑顔に、依頼を受けた男達は怯えた表情のままコクコクと頷きだけを返している。
「本当にそれで良いのか?」
困ったように眉間にしわを寄せた商人の男に、クリスさんはあっさりと答えた。
「私は本当にそれで良いと思うんですが…後は私の伴侶次第ですね。カーディ?」
カーディの名前を呼ぶ時だけ、クリスさんの声が変わった。柔らかく微笑みながら愛おし気に名前を呼ばれたカーディは、ハハと楽し気に声をあげて笑った。
「ああ、そういう事なら俺も文句は無いぞ。絶対に次は無いからな」
俺も覚えておこうと一人ずつ睨んでるけど、あれ本当に覚えられてるんだろうか。
「ハルとアキトさんも、それで良いですか?」
あ、わざわざ俺達にまで意見を聞いてくれるんだ。ちらりと俺を見たハルに、俺はちいさく頷きを返した。ハルにならこれで通じるよね。
「ああ、俺達は依頼人が良いならそれで良いよ」
そう答えたハルは短く呪文を唱えると、浄化魔法で綺麗にした剣をしまった。その瞬間、周りの張り詰めていた空気が一気に緩んだのが分かった。
あ、あれってハルの事を警戒してた空気だったのか。ハルは多分それを分かった上で、剣をしまわなかったんだろうな。さすがハルだ。
「ええと、もう帰ってもらって良いんですが、一つだけ確認したい事があります」
「何だ?何でも聞いてくれ」
「……あの、あなたたち、回復ポーションは持ってないんですか?」
あ、それは俺も気になってたんだよね。
冒険者の男達は逃げてきた時から擦り傷だらけだったし、依頼人の男は片腕を結構深く怪我してる。
俺達がファーレスウルフと対峙してる間に回復する暇はあったと思うんだけど、まだ誰も回復してないんだよね。そこまで重傷では無いけど、この傷で街まで帰るのは結構大変だと思う。
「ああ、ポーションは用意してこなかった。襲撃と言っても、ただ話を聞くだけのつもりだったからな」
「俺たちは二本だけは用意してあったんだが…ファーレスウルフに割られちまったから」
「なるほど」
クリスさんは少し考えてから口を開いた。
「ファーレスウルフは群れで行動すると聞いた事があります。つまり血の匂いにつられて集まってくるかもしれない…」
ただの想像ですけどと呟いたクリスさんに、男達はブルリと体を震えさせた。よっぽどファーレスウルフに追いかけられたのが怖かったんだろうな。
「そんな…」
「助かってない…のか?」
「もう嫌だ…」
今にも泣き出しそうな男達を見つめて、クリスさんは続けた。
「幸いここに回復ポーションが五本あります。これを買い取りませんか?」
「え…?俺達に?」
「本当に、売ってくれるのか?」
「ええ、ただし、採取地での売買は通常よりも高値になりますが」
高値と聞いて男達は怯んだようだった。
ハルがこっそり耳打ちで教えてくれたんだけど、彼らは恰好こそ冒険者っぽいがおそらく現役の冒険者では無いらしい。金に困ってこんな依頼を受けたみたいだから、この申し出には乗れないだろうというのがハルの予想だ。
「分かった。全員分、俺が買おう」
依頼人の男がそう口にした瞬間、冒険者の男達は大きく目を見開いて固まった。
「なっ…嘘だろう?」
「さっきも俺達だけは減刑とか言ってたし…」
「なんであんたがそんな事してくれるんだよ」
面白そうに見守っているクリスさんの前に出てきた男は、背後から口々にかけられる声に振り返って答えた。
「依頼をしたのは俺だからな、そのぐらいの責任はとる」
男はそう言うなり、そっと手を動かすとポケットから紙とペンの魔道具を取り出した。なんで急に紙とペン?と思わず俺は首を傾げてしまった。
後で教えてもらったんだけど、商人同士の取引は周りから分からないように、紙に書いて値段を条件をやり取りするのが一般的なんだって。まだまだ知らない事も多いな。
「クリス・ストファー、これに書いてくれるか?」
「ええ、分かりました」
クリスさんは受け取った紙にさらりとペンを走らせると、そのまま男の手に返した。男はその紙を見つめて一つ頷くと、すぐにまたポケットの中に手を入れた。
もしかしてあのポケットって魔道収納鞄と同じ機能付き?興味深く男のポケットを観察している間に、クリスさんは小さな袋を受け取り中身を確認していた。
「確かに。それではこれを」
「ありがとう。これとは別に今回の詫びはきちんと入れさせてもらう」
「分かりました」
回復ポーションで無事に傷を癒した男達は、申し訳なさそうに頭を下げてからその場を去っていった。
「うん、気配は本当に遠ざかっていってるな」
念のため気配を探っていたハルのその言葉に、俺達は揃ってふうと大きく息を吐いた。いつ襲いかかってくるかもしれないとずっと警戒してたから、肩に力が入ってたんだよね。
「はー無事に何とかなって良かったな」
すっかりいつもの明るい笑顔に戻ったカーディが、そう口にした。
「ファーレスウルフにはさすがに焦りましたけどね」
「ああ、アキトのおかげで楽だったけどな」
「その話は終わりって言ったよ!」
また褒めちぎられるのは嫌だと慌てて口を挟めば、三人は顔を見合わせてから笑い出した。
「あ、なあクリス。あれ、結局いくらで売ったんだ?」
そこ聞いちゃうんだ?そう思ったけれど、クリスさんは自慢げに笑って答えた。
「市場価格のほんの十倍ほどですよ」
じゅ、十倍!?襲撃してくる予定だった人にまで回復ポーションを売ってあげるなんて、クリスさんは優しいなと思ってたんだけど…十倍で売りつけたの?
びっくりした俺とハルは思わず顔を見合わせてしまったんだけど、カーディの反応だけは違っていた。
「ほんと、クリスってそういう所が商人だよなー!」
「ええ、商人ですからね。こんな私は嫌ですか?」
「いいや、クリスらしくて惚れ直した!」
ああ、うん。クリスさんとカーディは、本当にお似合いの伴侶同士だね。
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