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435.【ハル視点】心の準備を
唐突にそう切り出した俺に、アキトは驚いた顔をして俺を見上げてきた。
「言い難いんだけど…」
「うん」
「その襲撃が実際に起こったら…相手は人、かもしれない」
出来る事なら、こんな話をしたくは無かった。
アキトのいた世界は平和だったと聞いていたから余計にな。でも何も言わずに突然襲撃されたら、魔物としか戦った事の無いアキトは人を相手にする事に動揺してしまうかもしれない。
もしそんな事になれば、アキトの危険度は一気に上がってしまう。それぐらいなら先に心の準備をしておいて欲しいと、そう思った。
アキトは俺の言葉を聞いても表情を変えなかった。ただ黙って街道を進みながら、考えを巡らせていた。
これは邪魔は出来ないなと見守っているのは、どうやら俺だけじゃないみたいだ。
背後の二人の会話がぴたりと止まったから、多分俺の話が聞こえていたんだろうな。ちらりと視線を向ければ、クリスもカーディさんも少し心配そうにアキトを見つめていた。
黙ったまま歩いていたアキトは、不意に眉間にしわを寄せてから、つらそうな表情を浮かべた。ほんの一瞬だけ浮かんだその表情に、俺は慌ててアキトの頭をそっと撫でた。
「アキト、ごめん。言い方が紛らわしかったね」
「え…?」
俺の言う心の準備は、人を攻撃する覚悟をして欲しいという意味じゃない。人相手であっても、動揺せずに安全な場所にいて欲しい。ただそれだけだ。
「俺が言いたかったのはね、アキトが無理なら俺が助けるからって話だったんだ」
「でもそれじゃあ…っ!」
「相手を無力化すれば良いだけなら、俺は対人戦にも慣れてるからね。衛兵の手伝いにも駆り出されてたからそういう戦いも得意だよ」
武装している相手で衛兵だけでは対処できないなんて時に、俺と相棒が駆り出されていたんだよな。だからむしろ衛兵達よりも、対人戦には慣れているかもしれない。
「突然人に襲撃されたらアキトが動揺するかもしれないから、先に言っておこうと思っただけなんだ」
そう続けた俺に、アキトは少しだけ不服そうな表情を浮かべた。うん、思った通りだな。アキトはただ守られているだけじゃ嫌だと言うと思ってたよ。
「ただ…アキトが守られるだけじゃ嫌だって言うなら」
「…っ!うん!」
「襲撃があったら、得意の土魔法で敵を牽制してくれたら俺も助かるよ。アキトの土魔法の制御なら当てないのも簡単でしょう?」
俺はそっとアキトに微笑みかけた。
「…本当にそれだけで良いの?」
「アキト、今、そんな簡単な事でって思った?」
「う…」
この反応からして、俺の予想は正解だったみたいだな。
「アキトにとっては簡単な事かもしれないけど、実はかなり難しい事なんだよ?そこまで制御が完璧な冒険者なんて、A級ぐらいにしかいないよ」
これはお世辞でも伴侶候補のひいき目でも無い。ただの事実だ。アキトには自覚が無いけれど、すごい事をしてるんだよと何度でも教えないとな。
「必ずしも攻撃を敵に当てる必要は無いんだ。ただ近くの地面や木を狙って魔法を打ってくれればそれで良い。それだけで相手は、こちらには遠距離の攻撃手段があると理解する」
そして当てないのはこちらに余裕や余力があるからだと、勝手に思い込む。そうしたら更に動揺を誘えるからねと言いきれば、アキトは納得してくれたみたいだ。
「アキト、牽制してくれる?」
「うん、全力で牽制するね」
嬉しそうに笑ってくれるアキトに、俺はホッと密かに息を吐いた。
「ごめん、話が聞こえたんだけどさ」
カーディさんは少し申し訳なさそうに、後ろから声をかけてきた。もっと前から話を聞いていたのに今まで俺達の会話に口を挟まずにいてくれたんだから、むしろお礼を言いたいぐらいだ。
「あ、聞こえてた?」
明るくそう言うアキトは、後ろの二人の会話が止まっていた事にも気づいていなかったみたいだ。
「アキト、対人は苦手だって奴は冒険者の中にもいるんだ」
「え、そうなの?」
「正直に言うと、俺も人相手はちょっと苦手だな」
そうなのか。それはちょっと予想外だ。思わず目を見張った俺をちらりと見てから、カーディさんは苦笑しながら続けた。
「そういう奴らの合言葉を教えてやろう」
「合言葉…?」
「そう、これさえ知ってれば、少し気が楽になる魔法の言葉だ」
そんな言葉があるのか?俺も聞いた事が無いな。
「人相手に攻撃するのが苦手なら」
カーディさんはそう言うと、アキトをちらりと見た。
「人相手に攻撃するのが苦手なら…?」
「気絶させるか捕縛してから、衛兵に突き出せば良い!」
続いた予想外の言葉には正直驚いてしまったけれど、確かにそれは良い考え方かもしれない。人相手に攻撃をするのは無理でも、アキトなら気絶させるか捕縛するぐらいはできると思う。
カーディさんの言う魔法の言葉は、確かにいざという時にアキトの気持ちを楽にできるかもしれない。俺はカーディさんに深く感謝しながら、そっと笑みを浮かべた。
「言い難いんだけど…」
「うん」
「その襲撃が実際に起こったら…相手は人、かもしれない」
出来る事なら、こんな話をしたくは無かった。
アキトのいた世界は平和だったと聞いていたから余計にな。でも何も言わずに突然襲撃されたら、魔物としか戦った事の無いアキトは人を相手にする事に動揺してしまうかもしれない。
もしそんな事になれば、アキトの危険度は一気に上がってしまう。それぐらいなら先に心の準備をしておいて欲しいと、そう思った。
アキトは俺の言葉を聞いても表情を変えなかった。ただ黙って街道を進みながら、考えを巡らせていた。
これは邪魔は出来ないなと見守っているのは、どうやら俺だけじゃないみたいだ。
背後の二人の会話がぴたりと止まったから、多分俺の話が聞こえていたんだろうな。ちらりと視線を向ければ、クリスもカーディさんも少し心配そうにアキトを見つめていた。
黙ったまま歩いていたアキトは、不意に眉間にしわを寄せてから、つらそうな表情を浮かべた。ほんの一瞬だけ浮かんだその表情に、俺は慌ててアキトの頭をそっと撫でた。
「アキト、ごめん。言い方が紛らわしかったね」
「え…?」
俺の言う心の準備は、人を攻撃する覚悟をして欲しいという意味じゃない。人相手であっても、動揺せずに安全な場所にいて欲しい。ただそれだけだ。
「俺が言いたかったのはね、アキトが無理なら俺が助けるからって話だったんだ」
「でもそれじゃあ…っ!」
「相手を無力化すれば良いだけなら、俺は対人戦にも慣れてるからね。衛兵の手伝いにも駆り出されてたからそういう戦いも得意だよ」
武装している相手で衛兵だけでは対処できないなんて時に、俺と相棒が駆り出されていたんだよな。だからむしろ衛兵達よりも、対人戦には慣れているかもしれない。
「突然人に襲撃されたらアキトが動揺するかもしれないから、先に言っておこうと思っただけなんだ」
そう続けた俺に、アキトは少しだけ不服そうな表情を浮かべた。うん、思った通りだな。アキトはただ守られているだけじゃ嫌だと言うと思ってたよ。
「ただ…アキトが守られるだけじゃ嫌だって言うなら」
「…っ!うん!」
「襲撃があったら、得意の土魔法で敵を牽制してくれたら俺も助かるよ。アキトの土魔法の制御なら当てないのも簡単でしょう?」
俺はそっとアキトに微笑みかけた。
「…本当にそれだけで良いの?」
「アキト、今、そんな簡単な事でって思った?」
「う…」
この反応からして、俺の予想は正解だったみたいだな。
「アキトにとっては簡単な事かもしれないけど、実はかなり難しい事なんだよ?そこまで制御が完璧な冒険者なんて、A級ぐらいにしかいないよ」
これはお世辞でも伴侶候補のひいき目でも無い。ただの事実だ。アキトには自覚が無いけれど、すごい事をしてるんだよと何度でも教えないとな。
「必ずしも攻撃を敵に当てる必要は無いんだ。ただ近くの地面や木を狙って魔法を打ってくれればそれで良い。それだけで相手は、こちらには遠距離の攻撃手段があると理解する」
そして当てないのはこちらに余裕や余力があるからだと、勝手に思い込む。そうしたら更に動揺を誘えるからねと言いきれば、アキトは納得してくれたみたいだ。
「アキト、牽制してくれる?」
「うん、全力で牽制するね」
嬉しそうに笑ってくれるアキトに、俺はホッと密かに息を吐いた。
「ごめん、話が聞こえたんだけどさ」
カーディさんは少し申し訳なさそうに、後ろから声をかけてきた。もっと前から話を聞いていたのに今まで俺達の会話に口を挟まずにいてくれたんだから、むしろお礼を言いたいぐらいだ。
「あ、聞こえてた?」
明るくそう言うアキトは、後ろの二人の会話が止まっていた事にも気づいていなかったみたいだ。
「アキト、対人は苦手だって奴は冒険者の中にもいるんだ」
「え、そうなの?」
「正直に言うと、俺も人相手はちょっと苦手だな」
そうなのか。それはちょっと予想外だ。思わず目を見張った俺をちらりと見てから、カーディさんは苦笑しながら続けた。
「そういう奴らの合言葉を教えてやろう」
「合言葉…?」
「そう、これさえ知ってれば、少し気が楽になる魔法の言葉だ」
そんな言葉があるのか?俺も聞いた事が無いな。
「人相手に攻撃するのが苦手なら」
カーディさんはそう言うと、アキトをちらりと見た。
「人相手に攻撃するのが苦手なら…?」
「気絶させるか捕縛してから、衛兵に突き出せば良い!」
続いた予想外の言葉には正直驚いてしまったけれど、確かにそれは良い考え方かもしれない。人相手に攻撃をするのは無理でも、アキトなら気絶させるか捕縛するぐらいはできると思う。
カーディさんの言う魔法の言葉は、確かにいざという時にアキトの気持ちを楽にできるかもしれない。俺はカーディさんに深く感謝しながら、そっと笑みを浮かべた。
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