生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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438.【ハル視点】戦闘開始

 俺が口にした『お礼ならクリスに』と言う言葉で、男達は一瞬にしてその顔色を変えた。真っ青な顔で俺とアキトを見つめながら、男達は恐る恐る口を開いた。

「知ってた…のか」
「嘘だろう?」
「え…?なんで…?」
「ば、バレていたのか?」

 ああ、やっぱり襲撃の予定は、こちらにはバレていないと思っていたのか。あんな場所で街道を伺うなんて怪しい行動をしておいて、バレないわけがないだろう。

 俺は男達に呆れながらも、そっとアキトに視線を向けた。アキトは俺達を襲撃予定だった男達を警戒しながらも、視線はしっかりと森の方へと固定している。さすがアキトだな。

「違うんだ、これは!」
「い、依頼だったから仕方なく…」
「そうだ、俺達はただ依頼を受けただけで――」

 そんな言い訳にもならない言葉を口々に吐き出す男達を、俺は睨みつける。

「言い訳はいらない。そんな依頼を受けたのは、自分の意思だろう?」

 冒険者ギルドが、善良な一般人を害する依頼を受ける事は絶対に無い。相手が犯罪者の場合のみ例外にはなるが、その場合は依頼する相手を選んでの指名依頼だ。

 ギルドを通さない依頼は表ざたに出来ない内容が多く、犯罪すれすれの依頼や、まさに犯罪そのものの依頼も多い。その分報酬は高額にはなるが、そんな依頼を受けた時点で言い訳をする権利は無い。

「違っ!」
「もういいから、黙ってそこでじっとしていろ。でないと――お前らが狙われるかもな?」

 脅すように低い声でそう言い放てば、男達は揃って黙り込んだ。

 もしこいつらがここに居合わせただけの冒険者なら安全な場所に逃げろと声をかけるところだが、そんな気づかいはいらないだろう。カーディさんとクリスの方へ行かれるくらいなら、そこでじっとしててもらった方が良い。

「やっと静かになったな」

 ふうと一つ大きく息を吐いてから、俺はすらりと腰の剣を抜き放った。視界の端で、土魔法のつぶてがふわりと浮かび上がるのが見えた。落ち着いた様子のアキトに頼もしさを感じながら、俺は集中して気配を探る。

 俺達がこいつらと合流してからずっとこちらの様子を伺っていた魔物の気配は、俺の殺気に煽られるようにして動き出した。

「アキト、来るよっ!」

 叫んだと同時に、腹の底に響くような狼の遠吠えが辺り一帯に響いた。男達が集まっている場所からは、押し殺しきれなかった悲鳴が上がる。

「うんっ!」

 魔物は盛大に音を立てながら、どんどん近づいてくる。

 森の木々を蹴散らしながら目の前に飛び出して来たのは、唸り声をあげる巨大な狼の魔物だった。濃い緑色の体毛に、茶色の模様。まるで木が突然動き出したかのように見えるその姿に俺は目を見張った。

 よりによってファーレスウルフか。背後からの襲撃に気づかないなんて馬鹿なのかと思っていたが、こいつが相手ならあり得る話だ。特に森の中での擬態能力が高い、厄介な魔物だ。

「ファーレスウルフだ!」

 そう叫ぶなり、俺はアキトの前に躍り出た。こいつの敏捷性は狼種の中でも群を抜いている。俺が前に出て攻撃を受け止めるるのが、おそらく一番安全だ。

 ファーレスウルフはその場で立ち止まると、牙を剥いて唸りながらこちらを威嚇してくる。地の底から響くようなその唸り声に、またしても背後で悲鳴が上がる。

 殺気を受け止めているのは俺とアキトなんだから、歯牙にもかけられてないおまえらは黙ってろ。

「ウウウウウ…」

 全力で威嚇してくるファーレスウルフの目を、俺はまっすぐに見返した。下手に視線を反らす方が危険だと分かっているからな。真正面から睨みあっていると、不意に唸り声がぴたりと止んだ。

 攻撃が来る。

 そう思って身構えたが、ファーレスウルフが動くよりも早くアキトが動いた。

 アキトの放った土魔法のつぶては、途中で軌道を変えながらファーレスウルフへと迫った。相変わらずの素晴らしい魔力操作だな。

 普通の魔物なら間違いなくいくつかは命中しただろう。そう思える的確な攻撃だったが、ファーレスウルフは全てのつぶてを土塊を使って叩き落としてみせた。

 やっぱりこうなるか。
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