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440.【ハル視点】怒り
アキトの魔法のすごさは十分知っているつもりだったけれど、そんな俺でも思わず見惚れてしまうほどそれは見事な魔力制御だった。
俺に向かって飛んでくる土塊を、アキトの放った土魔法のつぶてが次々と貫いていく。つぶてが突き刺さって勢いをなくした土塊は、なすすべもなく地面に落下していく。
危なげなく相手の攻撃を全て叩き落としていくアキトに見惚れていると、不意に後ろから密やかな会話が聞こえてきた。
「あの兄ちゃんも、つ、強くないか?」
「えー…あの魔法制御能力、化け物か…?」
「あの見た目からは想像もつかないぐらい恐ろしい魔法使いだな」
アキトの事を強くないかと言った奴はまあ良い。だが化け物や恐ろしい魔法使いと表現した奴らは失礼過ぎるだろう。今俺とアキトはおまえらの代わりにファーレスウルフと対峙してやってるんだがな。繊細なアキトがもし気にしたら、一体どう詫びるつもりなんだろうな。
ちらりと視線を向けて化け物と恐ろしいと言い放った奴の顔を覚えてから、俺は笑みを浮かべてアキトに声をかけた。
「さすがアキトだ!」
アキトはにっこりと笑いながら、更に魔力を練り上げ始めた。さっきよりも量を増した空に浮かぶつぶてに、ひえっと怯える声が聞こえてくる。本当に失礼な奴らだな。
アキトは全く気にしていないようだからまあ良いか。俺は気持ちを切り替えるとファーレスウルフを睨みつけた。
土塊は今もどんどん飛んできているけれど、そっちは全てアキトが防いでくれる。そう信じてしまえば、後はただファーレスウルフだけを見て動けば良いだけだ。
俺はそのまま、ファーレスウルフに向かってまっすぐに突っ込んでいった。
得意の土魔法をアキトに封じられたファーレスウルフは、他の狼系の魔物とそう変わらない単調な攻撃だけを繰り返してきた。爪を使った切り裂き攻撃、牙を使った噛みつき、後は俊敏な動きでの突進攻撃ぐらいだな。
遠距離からの土魔法があると本当に厄介な相手なんだが、アキトのおかげで難易度が一気に下がったな。俺は何度も何度も攻撃をしては距離を取るを繰り返して、ファーレスウルフに手傷を負わせていった。
防御力が高いせいでまだ致命傷は与えられていないが、明らかにこちらが優勢だ。そう思ってしまった俺は、明らかに油断していた。
「うううううう…」
苛立ちを隠さずに唸り声をあげるファーレスウルフに、俺は叫んだ。
「どうした、かかってこい!」
飛び掛かってきた勢いを使えば、致命傷を与えられるかもしれない。そんな目的で放った俺の挑発を聞いて、ファーレスウルフは不意にぴたりと動きを止めた。
来る。そう思った次の瞬間、ファーレスウルフは大きな声で吠えた。
「グアアッ!」
驚いたのはその後の行動だ。ファーレスウルフはその巨体からは想像もつかないほど軽やかに跳躍し、アキトの目の前に降り立った。
「アキトっ!」
俺は必死で駆け出した。アキトは驚いた顔でファーレスウルフを見つめている。
駄目だ。ここからでは間に合わない。アキトめがけて振り上げられた爪を、俺は必死で足を動かしながら見つめた。世界の動きがやけにゆっくりに見える中、周りの奴らの悲鳴がうるさくて仕方がない。
アキトにはあの魔法がある。アキトの大怪我を、そして俺の毒を癒してくれたあの不思議な魔法が。
だがあの魔法を、俺達以外の誰かに知られるわけにはいかないだろう。もしあの魔法を使う事になったら、ここにいる奴らの口封じをしないといけないな。そんな物騒な事をつい考えてしまった。
アキトはこの場にいる誰よりも冷静だった。既に練り上げていた魔力を使って、ファーレスウルフの全身を覆うように火の魔法を発動してみせた。無詠唱で一瞬のうちに発動したその火魔法は、ものすごい勢いで噴き出した。
予想外のアキトの反撃に、ファーレスウルフは途中で攻撃をやめると火を消そうとゴロゴロと地面を転がった。なかなか火が消えずに慌てている姿を見ながら、俺は更に速度を上げた。
ようやく火が消えたファーレスウルフは、アキトへの怒りをたぎらせながらゆっくりと近づいていく。土魔法を封じられた上に反撃までされて怒ってるんだろうが――怒ってるのはお前だけじゃないんだよ。
アキトの前にファーレスウルフが降り立って爪を振り上げたあの瞬間、目の前が真っ赤に染まった。よくも俺の大事なアキトを。そんな思いが頭の中から消えない。
アキトを攻撃する機会は、絶対にもう与えない。
「…よくも、アキトを狙ってくれたな」
自分でも驚くほど、呪詛のような低い声がこぼれ落ちた。
ああ、こんなに怒ったのは、生まれて初めてだな。
「後悔させてやる!」
俺に向かって飛んでくる土塊を、アキトの放った土魔法のつぶてが次々と貫いていく。つぶてが突き刺さって勢いをなくした土塊は、なすすべもなく地面に落下していく。
危なげなく相手の攻撃を全て叩き落としていくアキトに見惚れていると、不意に後ろから密やかな会話が聞こえてきた。
「あの兄ちゃんも、つ、強くないか?」
「えー…あの魔法制御能力、化け物か…?」
「あの見た目からは想像もつかないぐらい恐ろしい魔法使いだな」
アキトの事を強くないかと言った奴はまあ良い。だが化け物や恐ろしい魔法使いと表現した奴らは失礼過ぎるだろう。今俺とアキトはおまえらの代わりにファーレスウルフと対峙してやってるんだがな。繊細なアキトがもし気にしたら、一体どう詫びるつもりなんだろうな。
ちらりと視線を向けて化け物と恐ろしいと言い放った奴の顔を覚えてから、俺は笑みを浮かべてアキトに声をかけた。
「さすがアキトだ!」
アキトはにっこりと笑いながら、更に魔力を練り上げ始めた。さっきよりも量を増した空に浮かぶつぶてに、ひえっと怯える声が聞こえてくる。本当に失礼な奴らだな。
アキトは全く気にしていないようだからまあ良いか。俺は気持ちを切り替えるとファーレスウルフを睨みつけた。
土塊は今もどんどん飛んできているけれど、そっちは全てアキトが防いでくれる。そう信じてしまえば、後はただファーレスウルフだけを見て動けば良いだけだ。
俺はそのまま、ファーレスウルフに向かってまっすぐに突っ込んでいった。
得意の土魔法をアキトに封じられたファーレスウルフは、他の狼系の魔物とそう変わらない単調な攻撃だけを繰り返してきた。爪を使った切り裂き攻撃、牙を使った噛みつき、後は俊敏な動きでの突進攻撃ぐらいだな。
遠距離からの土魔法があると本当に厄介な相手なんだが、アキトのおかげで難易度が一気に下がったな。俺は何度も何度も攻撃をしては距離を取るを繰り返して、ファーレスウルフに手傷を負わせていった。
防御力が高いせいでまだ致命傷は与えられていないが、明らかにこちらが優勢だ。そう思ってしまった俺は、明らかに油断していた。
「うううううう…」
苛立ちを隠さずに唸り声をあげるファーレスウルフに、俺は叫んだ。
「どうした、かかってこい!」
飛び掛かってきた勢いを使えば、致命傷を与えられるかもしれない。そんな目的で放った俺の挑発を聞いて、ファーレスウルフは不意にぴたりと動きを止めた。
来る。そう思った次の瞬間、ファーレスウルフは大きな声で吠えた。
「グアアッ!」
驚いたのはその後の行動だ。ファーレスウルフはその巨体からは想像もつかないほど軽やかに跳躍し、アキトの目の前に降り立った。
「アキトっ!」
俺は必死で駆け出した。アキトは驚いた顔でファーレスウルフを見つめている。
駄目だ。ここからでは間に合わない。アキトめがけて振り上げられた爪を、俺は必死で足を動かしながら見つめた。世界の動きがやけにゆっくりに見える中、周りの奴らの悲鳴がうるさくて仕方がない。
アキトにはあの魔法がある。アキトの大怪我を、そして俺の毒を癒してくれたあの不思議な魔法が。
だがあの魔法を、俺達以外の誰かに知られるわけにはいかないだろう。もしあの魔法を使う事になったら、ここにいる奴らの口封じをしないといけないな。そんな物騒な事をつい考えてしまった。
アキトはこの場にいる誰よりも冷静だった。既に練り上げていた魔力を使って、ファーレスウルフの全身を覆うように火の魔法を発動してみせた。無詠唱で一瞬のうちに発動したその火魔法は、ものすごい勢いで噴き出した。
予想外のアキトの反撃に、ファーレスウルフは途中で攻撃をやめると火を消そうとゴロゴロと地面を転がった。なかなか火が消えずに慌てている姿を見ながら、俺は更に速度を上げた。
ようやく火が消えたファーレスウルフは、アキトへの怒りをたぎらせながらゆっくりと近づいていく。土魔法を封じられた上に反撃までされて怒ってるんだろうが――怒ってるのはお前だけじゃないんだよ。
アキトの前にファーレスウルフが降り立って爪を振り上げたあの瞬間、目の前が真っ赤に染まった。よくも俺の大事なアキトを。そんな思いが頭の中から消えない。
アキトを攻撃する機会は、絶対にもう与えない。
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ああ、こんなに怒ったのは、生まれて初めてだな。
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