生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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450.黄昏の館

 あの圧倒的な美しさの噴水広場から、クリスさんの予約していた宿まではそれほど遠くはなかった。あっという間に辿り着いたその黄昏の館という宿は、俺の感覚で言うと宿というよりも高級ホテルみたいな造りだった。

 イーシャルの定番らしい赤いレンガで建てられているその立派な建物を、俺は思わず呆然と見上げてしまった。

 え、本当にここに泊まるの?

 そう聞きたい気分だったけど口からその言葉が飛び出す前に、俺は堂々とした三人に連れられて建物の中へと足を踏み入れた。

 受付で出迎えてくれたのは、優しい笑顔を浮かべた男性だった。

「予約していたクリス・ストファーです」
「お待ちしておりました。ストファー様、ようこそ我が黄昏の館へ」

 そのあまりに優しい笑みと穏やかで柔らかい口調に、自然と肩の力が抜けてしまった。

「こちらに記入をお願いいたします」
「はい」

 手続きをしてくれているクリスさんの後ろで、俺はきょろきょろと視線を動かした。

 外観と比べて、中は思ったよりも落ち着いた雰囲気なんだ。受付周りのインテリアも、洗練された雰囲気はあるけど同時にどこか温かみもある。

「なあ、アキト、ハル。今日の夕食は一緒に食べないか?」
「えーっと…」

 俺は良いんだけどハルはどうかなとちらりと視線を向ければ、ハルはにっこりと笑って頷いてくれた。

「クリスさんさえ良いなら、俺達も一緒に食べたいな」
「よっし、クリスは大丈夫だよ」

 ハルとアキトの事は本気で気に入ってるから絶対に反対しないよと、カーディは笑って続けた。

「手続き終わりましたよ」
「ありがと。なあ、クリス。今日の夕食は二人も一緒に食べないか?」
「ええ、良いですね。無事の到着を祝して皆で食べましょうか」

 美味しいお店に案内しますよと、クリスさんはあっさりと請け負ってくれた。



「それではごゆっくりどうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」

 部屋まで案内してくれた男性にお礼を返して、ハルと俺は自分たちが泊まる部屋の中へと一歩足を踏み入れた。

 部屋の鍵を閉めた音が背後から聞こえたその瞬間、無意識のうちにふうーっと息が漏れた。

 今日は船着き場からいっぱい歩いて移動したし、襲撃があるかもって緊張してた。その上ファーレスウルフとの戦闘まであったからな。今の今まで自覚してなかったけど、俺結構疲れてたみたいだ。

「アキト、疲れた?」

 心配そうにそう尋ねてきたハルは、当たり前のように魔力を練ろうとした俺をそっと止めると呪文を口にして浄化魔法をかけてくれた。うがい手洗いぐらいの感覚でいっつも浄化魔法をかけてるのを知ってるから、代わりにかけてくれたのか。

「浄化魔法ありがと、ハル。正直に言うとちょっとだけ疲れたかも」

 どういたしましてとさらりと返したハルは、そっと俺の頭を撫でてくれた。

「やっぱり夕食は別にしてもらう?今日以外にも一緒に食べる機会はあると思うし」

 疲れてるから二人で部屋で食べるって言いに行けば、あの二人なら怒ったりしないよとハルは続けた。うん、あの二人はそんな事では怒らないだろうね。ただ心配はさせてしまうと思う。

「言いに行ってこようか?」
「ううん、イーシャルのごはんにも興味あるし、折角だから一緒に行きたい」
「そっか」

 アキトがそれで良いならそうしようかと、ハルはあっさりと受け入れてくれた。

「ハルは…疲れてない?」
「いや、俺はそこまで疲れてないかな」

 そう言ってうっすらと笑ったハルの顔を、俺はまじまじと見つめた。

 ハルの言葉を信頼してないわけじゃないんだけど、もし疲れててもハルは疲れてるってはっきり言ってくれないような気がするんだよね。むしろ俺にバレないように隠し通そうとしそう。

 じーっと凝視する俺を見つめて、ハルはクスクスと笑いだした。

「アキト、見すぎだよ?」

 いくら見つめてくれても良いけどと笑ったハルに、俺はもう一度尋ねる。

「本当に?」
「うん、本当だよ。アキトに嘘は吐かない」

 そう断言してくれたハルの目に嘘は無かった。

「えと、疑ってごめんね?」
「いや、今のは疑われたんじゃなくてただ心配してくれだけだよ?」

 ふふと嬉しそうに笑ったハルは、ベッドの上をポンポンと叩いて俺を呼んだ。 

「アキト、夕食の時間までもう少し時間があるから、すこしだけ寝転がってみたら?」
「えー…でも俺寝ちゃうかも」
「寝たらちゃんと起こしてあげるから、安心して」

 ハルの笑顔に負けて寝転がった俺は、あまりに寝心地の良いベッドに案の定寝落ちした。
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