生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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451.【ハル視点】イーシャルの大門

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 襲撃未遂の奴らを解放した後、俺達は目的地である領都までの道をのんびりと歩いて移動する事に決まった。

 距離的に急がなくても夜になるまでには着くからってのもあったし、何よりクリスとカーディさんが二人は戦闘後なんだから無理はするなと言って譲らなかったからだ。

 全く疲れてない俺はともかくアキトに無理をさせたくは無かったから、その気持ちは嬉しいんだけどな。

 だから俺達は時々休憩も挟みながら、のんびりと移動する事になった。

「アキトさん、疲れてはいないですか?」
「大丈夫です」
「クリス、俺には聞かないのか?」
「え、ハルも聞いて欲しいんですか?」

 必要ないのに?と笑うクリスに、カーディさんも笑いながら確かにと答えている。俺が余裕なのは、二人にはばっちりバレているらしい。別に気づかってほしいわけじゃないんだが、アキトが俺には聞かないのかなって気にしてるんだよ。

「え、すごい人…」

 前方に見えてきた人だかりに、アキトはそう声をあげた。

「ああ、あれは領都前の馬車乗り場だよ」
「馬車乗り場?」
「ええ、馬車で移動した人達はあそこで下りてから、街へ入るんです」
「へーそうなのか。トライプールと一緒だな」
「たぶんだけど、ちょうど何台か馬車が到着した所なんだろうね」

 イーシャル領都の馬車乗り場は、南門の前であるここにしかない。つまりここは各地からやってくる馬車を一手に引き受けている場所だ。

 時間帯によってはひと気が少ない事もあるんだが、今はたまたまいくつかの馬車が到着したところみたいだ。

「それであんなに人がいるのか」

 アキトは俺達の説明に納得した様子で、興味深そうに人混みが進んでいく道の先へと視線を向けた。つられるようにそちらを見れば、イーシャルの大門が見えている。

「じゃああの先の大門が…?」
「そう、あそこがイーシャル領都だよ」



 人の流れに乗るようにして街道を進んでいくと、やがて衛兵達が警備するこの街の入口へと辿り着いた。

 手続きとかあるの?とすこし心配そうに聞いてきたアキトに、俺は笑ってトライプールと同じ方式だよと答えた。

 怪しい動きさえしなければ滅多に声はかけられないし、もしかけられたとしても別室で目的を確認されるぐらいのものだ。疑いが晴れなければギルドの昇級試験で受けるあの魔道具での確認は受けさせられるだろうが、犯罪歴が無ければ問題は無い。

 そう気楽に構えて歩いていた俺は、不意にびりっと張り詰めた衛兵達の空気に正直に入れば驚いた。これほど警戒するなんて、誰か怪しい奴でも紛れ込んでいるのか。

 そう思いながら周囲を警戒した次の瞬間、衛兵が口を開いた。

「そこの人、ちょっとこちらへ」

 アキトが自分かなと顔を上げたが、衛兵はふるふると首を横に振った。

 次の瞬間、アキトの前を歩いていた商人らしき男が、バッと俺達の方を振り返った。慌てて逃げようとしたその男は邪魔だと言いたげにアキトを突き飛ばそうとしたが、俺の目の前でそんな事をさせるわけが無い。

 俺は素早くアキトの身体を引き寄せた。

「待てっ!」
「止まれっ!」

 衛兵達の真剣な声が飛んでくる。ここまで必死で逃げるって事は指名手配されているか、それとも禁制の品でも持ち込んでいるかどちらだろうな。

 そんな事を考えながら、俺は走り出した男の足の前にさっと足を差し出した。

「うわっ!」

 油断しきっていたらしい男は、そのまま顔から地面に転がった。今のは結構痛いだろうな。アキトを突き飛ばして騒ぎを起こそうとしたんだから、それぐらいの代償は我慢してもらおうか。

「何をするっ!」

 そう叫び声を上げて睨みつけてきた男を、俺は全力で睨みつけた。ビクリと身体を揺らした男を、衛兵達は容赦なく抑え込んでいった。

「離せっ!」
「話は別室で聞きますからね」

 男は必死になって暴れていたが、衛兵たちにズルズルと引きずられていった。

 あの男が走り出して悲鳴があがった辺りで、周りの人はほとんどが逃げ出している。周りに人がいない分、遠くからゆっくりと近づいてくる厳つい衛兵の姿はよく見えた。あれは…もしかして。

「ご協力感謝します」

 律儀に礼を言いにきたらしいその衛兵は、俺の顔を見ると一瞬だけ目を見開いた。ああ、やっぱりティーか。ティーは、かつて俺が指導をしていた衛兵見習いの一人だ。明るくて気の良い奴だが、お調子者なんだよな。

「…いや、当然の事をしたまでだ」
「それでも、助かりました。ありがとうございます」

 周りの衛兵の目を気にしてか口調こそ丁寧だったが、ニヤニヤと笑うその表情が全てを物語っている。俺はそっと視線を反らしながら、小さく文句を言う。

「ニヤニヤするな、ティー」
「それは申し訳ありません。こちらには任務ですか依頼ですか?」

 つまりそれはハロルドか、ハルかという質問だな。

「依頼だ」
「そうでしたか」

 じゃあハルだなと呟いたティーは、俺に腰を抱かれたままのアキトをじっと見つめた。

「おい、ティー」

 あまり見るな、アキトが減る。

 そう思って声をかけたが、ティーは俺の言葉を綺麗に無視して更に観察を続けた。

 じろじろとアキトを見つめていた視線は、アキトの腕輪でぴたりと止まった。ティーは食い入るようにアキトの腕輪を見つめたと思ったら、今度は慌てた様子で俺の腕輪に視線を向ける。

「まじか…ハルの伴侶候補?」

 お揃いの伴侶候補の腕輪に気づいたティーは、心底驚いたという顔で俺を見た。

「ああ、俺の伴侶候補だ」
「えーそれは予想外だ……まじか…おめでとう」
「ああ、ありがとう……なあ口調崩れてるぞ、ティー」

 呆れた口調で続けた俺に、ティーは慌てて周りを見渡した。

「はー良かった…今の衛兵総隊長は口調にうるせーんだよ」
「そうか、それならちゃんとしろ」

 揶揄い混じりにそう口にはしたが、他の衛兵が近づいてこないって事はこいつもそれなりの立場にいるんだろう。そう思えば教え子の成長が嬉しくもあった。

「わかってるよ…またどっかで会ったら喋ろうな」
「ああ」
「元気で良かったわ」

 さらりと告げられたその言葉は、本音だと分かった。

「ありがとな」
「えー…それでは、ようこそ、水のイーシャル領都へ」

 朗らかな笑みを浮かべたティーの言葉に見送られる形で、俺達はやっと領都の中へと足を踏み入れた。
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